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上位7%のハイスペック男子でも結婚できない!? 『東京独身男子』は視聴者の共感を得られるのか

2019年04月20日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 そろそろ出そろった4月クールの連続ドラマ。医療ものや捜査もの、チームや職場を描く作品が多い中で異彩を放っているのが『東京独身男子』(テレビ朝日系)だ。高橋一生、斎藤工、滝藤賢一の3人が演じるアラフォー男性が、遅まきながら結婚を目指すことになり、ハイスペックゆえにすぐに結婚できるかと思いきや、意外にも悪戦苦闘するというコミカルな人間ドラマ。3人の俳優に女性ファンが多いこともあり、スタート前から注目度は高かった。


参考:高橋一生×斎藤工×滝藤賢一が悪戦苦闘の末に掴むものは? 『東京独身男子』早くも結婚に向けて奔走


 高橋が演じる太郎はメガバンクのリサーチャー。銀行の格付けになぞらえ、自分と審美歯科医の三好(斎藤)、弁護士の岩倉(滝藤)を“Aクラス”と認定する。3人は同じマンションで優雅な独身生活を送っているが、太郎は元カノの舞衣(高橋メアリージュン)と数年ぶりに再会し、結婚という選択肢が頭に浮かぶ。三好は金遣いの荒い妻と別れ、「独身最高!」と喜びながら美女の透子(桜井ユキ)にアプローチするが、いざというときEDの兆候が出てショックを受ける。一方、岩倉は独身主義だったのに、父親を自宅で介護することが決まってから長年の彼女にプロポーズし、「私は介護要員じゃない」と振られてしまう。


 そこに三好の妹であるかずな(仲里依紗)も加わり、80~90年代のトレンディドラマのような男性3人×女性3人の恋模様が展開していく。懐かしいと言えば懐かしい、ちょっと古くさいと言えばそんなノリ。ただ、脚本の金子ありさは『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(2016年/TBS系)でハイスペック独身女性(中谷美紀)の恋愛観を変えるというセンシティブなテーマをうまく調理していただけに、本作でもその抜群のバランス感覚を発揮しそうだ。第1話で、太郎たちが恋愛の傾向をアジェンダ化し「女はその本質をSNSのアイコンに隠している」とPCに打ち込む場面には思わず笑ってしまったし、自分のアイコンを確認した。女性から見ると、自分たちが女性を選ぶ側だと思っている太郎たちには、かずなが言うとおり「腹が立つ」が、だからこそ馬鹿にできるし、かずなたち女性キャラクターが彼らの思い上がりをばっさり否定してくれるので、爽快感もある。


 これまでも独身主義の男を描いたドラマは何度か作られてきた。そのルーツは30年前に放送された田村正和主演の『パパはニュースキャスター』(1987年/TBS系)あたりか。売れっ子の二枚目キャスターである鏡竜太郎(田村)が独身主義者なのに突然、昔の交際相手たちから3人の娘を押し付けられるというシチュエーションがコメディとして秀逸だった。阿部寛主演の『結婚できない男』(2006年/フジテレビ系)は、主人公の建築士・桑野信介(阿部)がかなり偏屈な頑固者。40歳で「結婚できないのではなく結婚しないんだ」と言い張る変人ぶりが、阿部寛の魅力を活かしていた。また、草なぎ剛主演の『独身貴族』(2013年/フジテレビ系)はタイトルどおり、独身生活を謳歌していた映画プロデューサーの星野守(草なぎ)が意に反して結婚させられそうになる話。さらに、“新しい地図”つながりで見ると、香取慎吾が『家族ノカタチ』(2016年/TBS系)で演じた39歳の永里大介も、結婚を考えない男だった。


 そんな伝統ある独身男性のドラマ。統計を見ると、『パパはニュースキャスター』の時代に35~39歳の未婚男性は約15%だったのに対し、現在では35%に増加(2015年国勢調査)。3分の1を超え、未婚、独身男性はもう少数派とは言えなくなっている。しかし、年収1000万円を超えるハイスペック男性がどのぐらいいるかというと、未婚既婚合わせて全体のわずか7%しか存在しない(2017年 国税庁「民間給与実態統計調査」)。『東京独身男子』の太郎たち3人の設定としてはその7%に入っているであろう。さらに三好と岩倉は仕事上の立場からして0.8%しかいない年収2000万円以上の階層だと想像できる。確実に格差社会の上の方にいるわけだが、数としてはマイノリティであり、それだけでまず視聴者の共感は得られにくい。


 現実には、年収は平均ぐらい(男性で約532万円/2017年 国税庁「民間給与実態統計調査」)だけれど、特に結婚はしたくないという考えをもつ人や、結婚したいのだが収入が低くて踏み切れない、相手が見つからないという人の方が多いのではないだろうか。『東京独身男子』を含め、これまでのドラマに出てきたのは高収入のリッチな独身男性ばかりだったが、そろそろ設定を変えるべきとき。多くの視聴者の共感を得るためには、相手の女性に「スペックは高くないけれど愛はあります」とプロポーズしたり、「夫婦共働きなら結婚してもいいけど」と消極的に結婚したりする、そんなリアル独身男子のキャラクターが求められているのかもしれない。(小田慶子)