トップへ

1ターンごとにガチャを回しているようなワクワク! 『メギド72』の斬新な戦闘システム

2019年04月19日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 個人的に、ゲームの面白さとは「不確定要素に挑むこと」だと思っている。RPGやアクションゲームは分かり易い例だ。初めて出会う敵は特性も攻略法も分からない不確定要素の塊だ。ワケも分からないまま、敵キャラクターに惨殺されることも多い。しかし、挑戦と失敗を繰り返すうちに、相手の動きにパターンがあることや、最も効率的な攻略法が見えてくる。プレイヤーの努力と経験は、「不確定要素」を徐々に「確定要素」に変えてゆく。そして攻略成功時には、苦労した分だけのカタルシスを得る。


参考:皿洗いが没入感を高める? 『Detroit: Become Human』が示す、ゲームとシナリオの理想系


 ゲームの個性を確立するには、こうした不確定要素を何処に持たせるかが鍵だ。多くのRPGはダンジョンの敵の配置や、敵の行動に持たせる。「どこに何がいて、どんな戦い方をしてくるのか?」これをプレイヤーに示さずに、まずは暗中模索させる。定番中の定番だ。しかし、今回ご紹介する『メギド72』は、こうした不確定要素を独特な場所に置くことで、極めて個性的なゲームになっている。簡単に言うと、プレイヤーの行動に不確定要素を置いているのだ。


 『メギド72』はスマートフォン向けのRPGである。プレイヤーは個性豊かな「メギド」と呼ばれる仲間と共に、世界を破滅から救うため壮大な冒険へ旅立つ。男女が号泣しているメインビジュアルからも分かるように、ストーリーの方も中々に個性的。キャラクターや音楽を始めとした演出面も魅力的だ。無課金でもしっかり遊べるし、ガチャの確率が渋くないのも嬉しい。しかし、やはり本作最大の個性は戦闘にあるだろう。普通、いわゆるコマンド選択式のRPGは、プレイヤーがどの選択肢を選ぶかは自由だ。たとえば「魔法」という選択肢から、「炎系魔法」「回復魔法」など、状況に応じて選ぶ。技の使用回数と言った多少の制限はあれど、基本的にプレイヤー側の自由度は高い。ところが『メギド72』は、プレイヤー側の行動の選択肢が戦闘毎に変わる。それが「ドラフト・フォトン・システム」という戦闘システムだ。


 戦闘開始時、敵と味方のメギドたちの間に、幾つかの「フォトン」と呼ばれるアイコンが出現する。それぞれ「通常攻撃を行う」「スキルを使う」「必殺技発動のゲージをチャージする」と役割が設定されており、この三つのフォトンを敵と一つずつ取り合う。しかし、どのフォトンが出るかは戦闘開始時まで分からない。完全に運の領域だ。つまり、戦闘時に「通常攻撃を行う」という選択肢が敵に取られてしまう場合もあるし、そもそも最初から出てこない場合もある。このようにプレイヤーの行動に不確定要素が置かれているのだ。自分がどういう行動を取れるかが運頼みなため、戦闘は1ターンごとにガチャを回しているようなもの。具体的に言葉にするなら、戦闘開始と共に「うぉぉ!? 今回の行動の選択肢これかよ!?」からの「だぁぁぁ!? あと一つだったスキルを使うヤツを敵に取られたぁぁ!」である。思いもしない状況に置かれるたび、その対応策を考えないといけない。逆に自分にとって有利な状況になれば、不思議なほどお得感がある。1ターン単位でガチャを回した時のように一喜一憂し、提示された結果に対してあれこれ工夫して挑む。この独特なゲーム性が、私にとって『メギド72』最大の魅力だ。


 加えて、これはゲームの内容からはやや逸れるが、開発者の姿勢も好感が持てる。公式サイトではスタッフの発言が読めるが、それによると「とにかく面白いゲームを作る」という気持ちが強かったそうだ。結果として開発に予算をかけすぎて、宣伝が疎かになったらしい(別のインタビューでは半分冗談とも言っているが)。こうした姿勢は今のトレンドとは異なるし、決して器用とは言えないものの、不器用さゆえの愛嬌もある。そして実際、開発陣の「面白いゲームを作る」という部分は達成されているように思う。少なくとも、ゲームの中心である戦闘は個性的であり、1ターンごとにガチャを回しているようなワクワクとドキドキ、臨機応変に状況に対応するゲーム体験は、これまで私が触れたことがなかったものだ。


 斬新なゲームシステムを考えるのは本当に難しい。それは世に出ているゲームを見れば一目瞭然だ。RPGにせよアクションにせよ何にせよ、どのジャンルでも「このジャンルはこういうシステムだよね」という定型が出来ている。あとはその定型に載せる何かを考える、あるいは定型を磨き上げるか、何か一要素加える……そういうアプローチのゲームが非常に多い。1に何かを足す考え方だ。こうした発想の作品は、作る側の難易度も抑えられるし、プレイする側にも「ああ、いつものアレね」と言ったふうに、取っつき易いという利点がある。しかし一方で、どうしても既視感を抱いてしまうものだ。『メギド72』はそうした定型にある程度は従いつつ、一方で0から1を生み出そうという思想がある。私はこうした挑戦的な姿勢にも強い好感を抱いた。まさに意欲作であり、その意欲が実を結んだ良作だと言えるだろう。(加藤よしき)