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指が折れるまで叩きたいーー『GOD HAND』が教えてくれた、殺意を込めてボタンを連打する爽快感

2019年04月19日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 こんにちは、加藤よしきです。会社員をしながら、時おりリアルサウンド映画部にて記事を書かせて頂いております。最近は『タイタニック』(97年)を午前十時の映画祭で見直して、昔は気付かなかった点でハッとさせられたりしていますね。押し寄せる海水から逃げるディカプリオとケイト・ウィンスレットの顔がマジな所とか。あの顔を見ると、楽な仕事なんてないなと改めて思います。


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 ところで話は変わりますが、ボタンを押すのって楽しいですよね。特にゲーム機のボタンを連打するのって、最高に気持ちがよいと思います。指に伝わる適度な反発、プラスチックのカチャカチャ音、そして連打に応じて動くゲーム画面……全てが合致すると、とにかく気持ちがよいものです。いきなり何を言い出すんだと思われたでしょう。それは今回取り上げるタイトルが『GOD HAND』(06年)だからです。私はこのゲームで「ボタンを叩く」という行為そのものに快感を見出しました。今回はこの「ボタン欲」を中心に、お話をさせて頂きたいと思います。


 『GOD HAND』は「ゴッドゲーム第1弾」と銘打たれたアクションゲームです。ゴッドハンドと呼ばれる超強い右腕を持った人を操り、襲ってくるモヒカン、ゴリラ、悪魔などと戦っていきます。「毒チワワ」「ゴッド☆土下座」と言った字面だけでもバイブスが伝わってくる独自の世界観は、今日でも一種の金字塔。今なお語り継がれる名作ですが、あまり気軽に薦めることはできない困った作品でもあります。端的に言うと、やたらと難易度が高いのです。上記のようなコミカルな世界観に対して、敵は滅茶苦茶に硬く、全力でプレイヤーを殺しに来ます。もちろんゲーム開始時の難易度選択はあるのですが、EASYでもクリアするのは容易ではありません。また「ゲーム中でのプレイヤーの戦い方に応じて、その場で敵の強さが変化する」というシステムも何気にエグい。ですが、こう言った難易度の高さが間違いなく本作の魅力でもあるので……薦め方に困るわけです。


 コラム記事とは言え、こう言ってしまうのはどうかとも思いますが、「合う人は合う、合わない人には合わない」ゲームです。私も冷静に考えると、愛憎入り混じると言うか、初めて触れた時は、心の半分で「なんて楽しいゲームだろう」と思いつつ、もう半分では「ぜってぇクリアしてやるぞコラァ!」と、半ば殺意に近い感情を抱きながらプレイした記憶があります。映画『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』(11年)で「真の集中力は怒りと平静心の間にある」という台詞が出てきますが、当時の私はその状態に近かったのかもしれません。……さて、ゲームの概要はこのくらいにして、次は本作と「ボタンを叩く」という行為の関係に触れていきたいと思います。


 このゲームには、そのものズバリな「ボコる」というコマンドが出てきます。このコマンドが出たら、敵を一方的に殴りまくることができます。前述のように、本作は非常に難易度が高いゲームです。「ボコる」はボタンを押した回数だけ相手にダメージが入るので、強い敵にまとまったダメージを叩き込む貴重な機会です。なので「ボコる」が発生したら、もう必死ですよ。発生した瞬間、ここぞとばかりにボタンを連打。一心不乱にボタンを叩き続けます。ただでさえボタンを押すことが多いゲームな上に、しかも「ボコる」がゲーム中で度々発生、時には敵とのボコり合いも起きます。必死でボタンをガチャガチャ連打するので、夏場にプレイすると発汗必至。ある夏の日に数時間ブッ続けでプレイした時には、腕が筋肉痛になりました。もはや一種の筋トレと言っていいでしょう。そんな精神・肉体の両面を酷使した末、ようやく敵をブッ倒した時と言ったら……流した汗の分だけ気持ちがいい。まさに極上のゲーム体験でした。これは「ボタン」があるから得られるものです。この「ボタンを押す気持ちよさ」は、家庭用ゲーム機独自のものだと思うのです。


 私はガラケーからスマートフォンに変化する時代、そして携帯電話でのゲーム・プレイが普及していくのをリアルタイムで体験できました。あの頃、周囲には「スマホが流行ってるけど、どうしても物理的なボタンが欲しい」と、いわばボタン欲ゆえにスマホに代えるのを渋る人がけっこういました。こうしたボタンへの執着はゲームも同様です。今でこそスマートフォン向けゲームのUI(ユーザーインターフェース、ゲーム内情報の表示・入力の形式)はある程度の定型が出来上がっています。音ゲー、パズルゲー、コマンド選択系のRPGなどなど、様々なジャンルがそれぞれ魅力的な操作感を確立しています(特に音ゲーやパズルゲーなんかは、コンボが繋がると物凄く気持ちがよいものです)。


 ですが今現在も、スマートフォンでは物理的なボタンを押す感覚、特に『GOD HAND』の「ボコる」のような、殺意を込めてボタンを連打する爽快感は再現できていません(再現できたら画面が割れます)。そこまでの連打を要求されないゲームも楽しいのですが、せがた三四郎が言う所の「指が折れるまで」なゲーム体験がフッと恋しくなるのもまた事実。もし貴方が一心不乱にボタンを叩きまくりたいとき、『GOD HAND』はそのボタン欲を必ずや満たしてくれることでしょう。


(加藤よしき)