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リカバー能力を見せつけたハミルトンと、開幕3連勝を飾ったメルセデスの勝ちパターン【今宮純のF1中国GP分析】

2019年04月16日 12:51  AUTOSPORT web

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2019年F1第3戦中国GP ルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスがワンツーフィニッシュ
記念すべきF1の1000レース目となった第3戦中国GP。このレースを制したのは、中国GPで圧倒的な強さを誇るメルセデスのルイス・ハミルトンだった。彼が不利な状況からリカバー能力を発揮した今回のレースを、F1ジャーナリストの今宮純氏が振り返る。

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 節目(マイルストーン)に強いハミルトン、900戦目・2014年バーレーンGPにつづき1000戦目の中国GPも勝ちとった。現在75勝、今シーズン中にも<ミハエル・シューマッハー91勝>に急接近か――そう思わせる強さ。

 上海入りしてから周囲の『ドライバーズ・チャンピオンシップ1000戦』祝賀ムードに、彼は冷ややかだった。「僕はいつものレースと同じようにやるだけさ」とコメント。御愛想など言わない。

 どうしたハミルトン(?)。金曜FP2、トップのバルテリ・ボッタスに0.707秒も遅れる4番手だ。上海で6度PPを獲っている彼のブレーキングに切れ味はなく、リズムも欠いていた。一方カーバランスに満足するボッタスが高速コーナー区間のセクター2で最速タイム。長いバックストレート入口の13コーナーもスムーズに加速。「直線ではフェラーリに劣る」と首脳陣も認めていたが、そのセクター3でベッテルに0.005秒差だ。

 このボッタスの速さに王者は刺激された。以前、チームメイトのニコ・ロズベルグに先行されると激しくプッシュし、かえって空回りすることがあった。土曜FP3はそれに近かった。強風下にアグレッシブな“突っ込み”ブレーキング、6コーナーでコースオフ、最終コーナーでもワイドに。その結果は4番手、トップのボッタスから0.858秒遅れというさらなる大差だ。後塵を拝する王者、この苦戦を打開できるのか――。

 ボッタスとのギャップを予選Q1で0.457秒差まで縮めた。そしてQ2ではミディアムで何かを確認するかのようにアタックを重ね、0.091秒まさりトップに。ソフトでは苦しんでいたがこのミディアムでまとめ上げる。

 FP3から予選の間に彼がどうセッティングを変えたのかは分からない(語っていないからだ)。Q1でその感触をつかむと、Q2でさらに確認しながらようやくボッタスに追いつく。

 ふたりの対決にしぼられたQ3、0.023秒ボッタスが上回り7度目のPP獲得。しかし3セクターともハミルトンがすべてトップ、つなげば<1分31秒177>。ボッタスのPPラップ1分31秒547をはるかに超える。ハミルトンは予選中に各セクターでリミットを把握、金曜から出遅れた分を完全に取り戻した。この“リカバー能力”がいまのハミルトンの強さ、ドライビングを自己修正していったと明かしている。

「ボッタスはいい仕事をした」とインタビューでほめる王者のゆとり。PPとはいえ0.023秒の微差など無いに等しい。追い上げられたボッタスはほめ言葉にもプレッシャーを感じたことだろう。

 今シーズンは2戦ともポールシッターがスタートで出遅れている。予選のタイム差は超微細、レスポンス次第でグリッド間隔8メートルのアドバンテージは瞬時に消える。だからプレッシャーが強まる。心拍数も上がる。

 ボッタス、ホイールスピン。すると右側のハミルトンは牽制ラインをとらず、まっすぐ加速。1コーナーへのドラッグ・レースを獲った。後にボッタスは「グリッド前に白線があってそこで滑った……」とこぼした。それは分からないではないが、スタート/フィニッシュ・ライン(白線)は彼だけでなく、皆が踏み通過していくライン。避けることなんてできない。

 メルセデスW10はフロント・ダウンフォースがフェラーリより安定して強い特性がある。ハミルトンの背後になってしまったボッタスは後方乱流を浴び、その特性を活かせず接近できない。21周目、先にハードに交換して1秒台間隔に接近したもののタイヤがスライド、追従するしかなかった。36周目、チームはふたりをダブル・ピットストップさせ、事実上『このままで行くこと』にした。スマートなメルセデスの戦略、なかなかフェラーリはこれができない……。

 ボッタス優勢で始まりそれを自覚し、リカバー能力を発揮したハミルトンが締めくくった中国GP。メルセデスは開幕3連勝を達成し、996戦目から数えるとこれで5連勝だ。その勝ちパターンが毎戦違うところに、いまの強さを認識せざるを得ない。