2コーナー先の高速モスSコーナーで2度、GT300マシンがクラッシュし、2度赤旗中断、レースも31周で打ち切りとなった 近年のスーパーGTではあまり目にすることはない、衝撃のクラッシュシーンがメディアセンターのモニターに映し出された。
前日の青空がウソのように、2019年のスーパーGT開幕戦の舞台となった岡山国際サーキットは、決勝日朝から曇り空となっていた。午前11時前から雨が降り出し、やがてその雨はコースを濡らしていく。決勝前のグリッドでは雨は小康状態だったものの、セーフティカースタートの後雨は強さを増していった。
スタート直後から、佐藤公哉が駆るHOPPY 86 MCが1コーナーでクラッシュを喫したりと荒れ模様だった決勝。トップ争いは、高木真一と新田守男という、最多勝を争うベテランたちの巧みなトップ争いが展開されていたが、その後方は前走車が巻き上げるウォータースクリーンで真っ白。多くのドライバーたちが「何も見えないなか」でのレースを強いられていた。
そんななか、13周目にこのレースを象徴するような大きなアクシデントが起きてしまった。4台が絡むクラッシュは近年のスーパーGTではあまりなかったことだ。
■ドライバーたちの証言で振り返るクラッシュの状況
「大怪我ではないですが、肩が痛みます」というのは、GAINER TANAX triple a GT-Rをドライブしていた星野一樹。今回、GAINER TANAX triple a GT-Rは天気予報を見ながら天候が回復していく方向を読み、リヤにハードめのウエットタイヤを装着。それもあり、10番手を走っていた星野は、2コーナーで姿勢を乱してしまった。
その間隙を突いてポジションを上げたのは、道上龍がドライブしていたModulo KENWOOD NSX GT3。星野は姿勢を戻すと、全開で道上に続きモスSに向かっていった。「あそこは1台分(車間を)開けて入れないところなんです。そうしないと、続く右側のグリーンに落ちてしまいます」と星野は言う。
しかし道上の背後には、マネパ ランボルギーニ GT3をドライブする小暮卓史が続いていた。
「でも、うしろから誰かが来ているかは水しぶきで見えない。もちろん『来ていない』と思って僕はいきました。向こうが引いて欲しいところ。僕は自分のレコードラインに戻っただけなんです」と星野はレース直後に聞いたこともあるせいか、立腹の様子だった。
一方、「前を走っていたGT-Rが2コーナーで姿勢を乱して、立ち上がりでアウト側にいたんです。僕の前に34号車がいたので、(それに続いて)内側からかわしにいきました」というのは、マネパ ランボルギーニ GT3をドライブしていた小暮だ。レース直後に話を聞いたので、相手が星野だったのをまだ理解していなかったのはご了承いただきたい。
「僕の側に寄ってくる形になってしまったので、あの雨の量では少し当たっただけでも(自分が)回ってしまいます。そういう状況でした」
星野のGAINER TANAX triple a GT-Rは2回小暮のマネパ ランボルギーニ GT3にヒットし、姿勢を乱し右側のバリアにほぼノーブレーキでクラッシュ。GT-Rが跳ね返ってきたところに、今度はジョアオ・パオロ・デ・オリベイラがドライブしていたD’station Vantage GT3が差しかかった。
「とてもガッカリしているよ。今日はすごくマージンをとっていたし、リスクは何もとっていなかったからね」というのは、アストンマーティン・バンテージGT3のバランスを活かし、追い上げをみせていたオリベイラ。
「でもスポンジバリアにヒットしたマシンが、突然僕の前に来た。避けようがない最悪のタイミングだったし、どちらにも避けようがなかった」
オリベイラのD’station Vantage GT3は、GAINER TANAX triple a GT-Rにフロントから激しくヒット。左側のタイヤバリア(映像のアングルからは死角だった)にクラッシュしてしまった。さらに、コース上には2本タイヤが転がってしまう。そこに来たのは、今回スーパーGTデビュー戦だったエヴァRT初号機 X Works GT-Rのマーチー・リーだった。
「雨のレースだったけど、チームとして初めてのスーパーGTだからなんとしても完走したかった。だから安全を最優先していたし、D’station Vantage GT3や他のマシンが抜いていってもクールでいたんだよ」とリーは振り返った。
しかし、ウォータースクリーンを抜けたリーの前に、コース上にあったタイヤが目に入る。ひとつはなんとか避けたが、もうひとつは避けきれなかった。エヴァRT初号機 X Works GT-Rはコントロールを失い、そのすぐ直後につけていたRUNUP RIVAUX GT-Rがヒットしてしまった。
なんと新車のバンテージGT3と、2018年モデルのニッサンGT-RニスモGT3が3台もダメージを負ってしまう心苦しいクラッシュとなってしまった。全車とも大きなダメージを負っており、特に前後をヒットしたGAINER TANAX triple a GT-Rは全損のようだ。
■アクシデントの判断、そして難しい状況となったレースコントロール
今回のアクシデントの“引き金”となってしまったのは星野と小暮の接触だが、最終的に小暮にはペナルティも課されていない。ではこのクラッシュについてはどういう判断だったのか、GTアソシエイションでレースコントロールを務めている服部尚貴氏に解説を願った。
「発端は、星野選手が2コーナーで滑ってしまったところにあります」と服部氏。
「そこで失速してしまったところに、道上選手が抜いていきました。それに続いて小暮選手が抜きにいっています。星野選手はレコードラインに戻ろうとしていますが、すでに小暮選手が星野選手の全長内に入っています。失速した後、すぐ道上選手の背後に入るのであれば防げますが、2台が来ているのであれば、自分が失速してしまったので、残念ながらあきらめないといけないと思います」
「コーナーでレコードラインに戻ろうとしていますが、すでに小暮選手が全長内に入っているので、それ以上いくと当たってしまいますよね。また、小暮選手はコースの白線をまたいで避けている。そして一度接触した後に、もう一度当たっていますが、実際は小暮選手は当たった段階でスピン状態なんです。我々はそうとっています。小暮選手にも話を聞きましたが、我々の見解と合っていました」
もちろんレーシングドライバーとしては、抜かれたとしてもレコードラインに戻り前を追いたい状況になる。また星野のコメントにもあるとおり、水しぶきで後方の確認ができなかったのも仕方がないところだ。星野にも小暮にもペナルティが発生していないので、レーシングアクシデントというジャッジということだろう。
とは言え、この4台のアクシデントをはじめ、HOPPY 86 MCが1コーナーで、EXE AMG GT3もモスSでクラッシュするなど、今回の岡山国際サーキットでの開幕戦はダメージを負うマシンが多く、非常に難しい状態でのレースだった。最終的に16時23分まで延長して、30周で終了という判断も、ファンからはSNS上で批判の声も上がっていた。
「最後のセーフティカーのときは『この雨量ではもうレースは継続できない』という判断となりました。実際のところ、昔のGTカーだったら走れたと思うんです。ただ、いまスーパーGTのレギュレーションでは、ウエットタイヤの溝は1種類しかない(コンパウンド等で複数種類がある)。水はけはオールマイティのものを作らなければならないので、あれだけ水の量があると厳しいです」と服部氏。
「またダウンフォースもあれだけあって、ウォータースクリーンで前が見えなくなります。雨のレースはいま、スーパーGTではどんどん難しくなっています。SC導入の判断については、ドライバーからは『遅い』と言われるかもしれませんが、今回は実際1周ずつくらい外で雨の様子を見ながら、確認しながらやっていました」
ちなみに、最後の4回目のセーフティカーだが、テレビ上ではRAYBRIG NSX-GTとKEIHIN NSX-GTの接触によるもののように映っているが、実際は雨量の増加によるものだったという。SC導入を伝えた瞬間にあのアクシデントがあったのだとか。
「自分は最近のクルマには乗っていませんが、他のカテゴリーも含めて、この岡山の雨、特にモスSについては特殊すぎる状況がありますね。雨のレースは本当に難しいサーキットになっています」と服部氏は岡山での雨の難しさについて語った。
「そのなかで今回のようなレースになってしまったので、ファンの皆さんには申し訳ないですが、あれ以上続けるのは、同じような天候が続く予報にもなっていましたし、止めざるを得ませんでした」
この岡山でのスーパーGTは、近年は晴天のなかで開催されることが多かった。そのなかで、超高速化するスーパーGTが直面したウエットでの、そして岡山でのレースの難しさが、今回の荒れたレースの原因になってしまったと感じられる。岡山でのスーパーGT開催は、施設面で今後課題を残したと言えるかもしれない。