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中田敦彦が語る、変わりゆくメディアとタレント・YouTuberの環境「Googleがすでにテレビ局みたいになっている」

2019年04月14日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 芸人として若くして大ブレイクを果たす一方で、昨年には自身のオンラインサロン「NKT Online Salon」を開設、またアパレルブランド「幸福洗脳」を軌道に乗せるなど、ビジネスパーソンからも関心を集める、オリエンタルラジオ・中田敦彦。そんな彼が3月、新刊『労働2.0 やりたいことして、食べていく』(PHP研究所)を上梓した。本書は副題にある通り、「好きなことで楽しく稼ぐ」ための思考法やノウハウが満載で、彼がいち早く注目していた「YouTuber」という職業/生き方にも通じる部分が大きい。


 今回は都内某所で講演前の彼を直撃。フィッシャーズや水溜りボンドなど、YouTuberに着目した理由から、近年でのメディア環境の変化、YouTubeに進出するタレントが抱える問題点に、進路を考える若い世代へのメッセージまで、じっくりと話を聞いた。(編集部)


(参考:UUUM代表取締役・鎌田和樹氏が語る、ゴルフ事業立ち上げの理由「僕らだからこそリーチできる人たちがいる」


■YouTuberは「矛盾を孕んだ存在」


――『労働2.0 やりたいことして、食べていく』は新しい働き方がテーマです。本の中でもYouTuberについての言及がありましたが、サブタイトルの「やりたいことして、食べていく」のモデルケースのひとつといえます。


中田:あのキャッチコピー(2014年のYouTubeのCMキャッチコピー「好きなことで、生きていく」)から、完全にパクっているんですけど(笑)。あれは時代の転換期をあらわした、秀逸なコピーでしたね。メディアというものが、大手の放送局だけのものではなくなり、ネットを通じて個人でも発信できて、そこで収益も生まれるようになった。“新しい時代が来た”という雰囲気でしたよね。


――今でこそ、タレントがYouTubeに進出することは珍しくないですが、中田さんはいち早くYouTuberに注目されていたように思います。


中田:僕は3~4年前くらいに、YouTuberのことを研究していたんですけど、その中でフィッシャーズや水溜りボンド、現在は解散してしまったカリスマブラザーズたちと、交流をとりながら勉強させてもらっていましたし、新しい生き方として、希望を見出していました。その一方で、今はさらにYouTuberをとりまく環境は変化しているとも感じています。


――それはどのような変化でしょうか?


中田:先日、JJコンビ(元カリスマブラザーズのジョージとジロー)と飯を食ったんです。そこでもYouTuberの変化についての話になりました。Googleの方針が厳しくなって、過激な映像は潰されてしまうし、新規参入が増えたことによるレッドオーシャン化、視聴者を飽きさせないアイデアを出さなければならないし、YouTuberだけじゃなくてライバーも台頭してきた。そんな中で彼らも挑戦を続けているんです。ここ数年、よく「TVかYouTubeか」という議論もありましたが、それも今思うと雑な議論だったと思います。


――中田さんは、今のYouTubeをどう見ていますか?


中田:YouTuberも結局のところ、広告収入をメインとした職業だった。新しいメディアが台頭すること自体は面白いけど、お金の軸を作ることは別の話ですし。それに、YouTuberの世界も、HIKAKINやフィッシャーズがトップを走りつづけていて、それを越える存在が出てきていない。YouTuberのマネジメント事務所も、UUUMの一強になってる。今後どうなるのかは、静観はしています。「YouTuberの事務所」も、それ自体が新しい概念ですよね。これまで、大手芸能事務所は、メディアの中で幅をきかせていた。だからこそ、そこを通すことで中間マージンをとるというシステムが成立していたでしょう。しかし、YouTuberは個人がチャンネルで収益を上げているところで、どんな理由で事務所が入ってくるのか。HIKAKINへの憧れから人が集まってきたとはいえ、今後人材が飽和した後、どうなるのかわからない。矛盾を孕んだ存在だと思いますね。


――とはいえ、既存の芸能界と違う立ち位置を確立していると思います。


中田:でも、Googleがすでにテレビ局みたいになっているよね。テレビ局やスポンサーが「NO」といえば、コンテンツの方向性も変わるので、単純にプラットフォームが変わっているだけで、同じようなメディアではあると思います。


■「絶対にテレビ」「これからはYouTube」という議論は成立しない


――ユーザー、視聴者の変化はどう思っていますか? 例えば、10年以上前ならば、小中学校のクラスで、お笑い芸人の真似をする子たちが当たり前のようにいました。「武勇伝」を皆でやるような。ところが、今はそれがYouTuberの真似に変わっているという話を聞いたことがあります。若い人がお笑いに興味を持っていないことについて危機感はありませんか?


中田:ああ、全然ないですね! ずっと若年層を狙っていくのであれば、危機感を持つかもしれないけど、そもそも僕はそこをターゲットにしてないので。この本もそうなんですけど、自分と同世代に向けています。だから今の10代から子供たちに向けているYouTuberと、僕のやっていることはぶつからないんですよ。


――なるほど。


中田:さっき「テレビかYouTubeか」という議論は雑だと言いましたけど、だってラジオスターは今でもいるじゃないですか。ラジオ局に行くと、僕の知らない人のやっている番組が聴取率1位だったりする。そこでスタッフの人に「どのくらい続いてるの?」と聞いてみると「20年」だと。そんなに続いているのに、僕は知らない。そんな風に、今までもこれからも分断されているメディアはあって、「テレビかYouTubeか」もそういった分断のひとつになってくると思うんです。テレビも最近は50代がメインターゲットになっていて、その時代感を持っている人間が牛耳っていて、そこに向かって届け続ける。何も塗りかわってないし、それぞれに届けるための箱が用意されているだけ。だから、YouTuberがテレビを席巻することもないだろうし、テレビタレントがYouTuberとしてブレイクすることも、多分厳しいでしょう。カジサックさん(キングコング・梶原雄太のYouTuber名義)のように、その厳しさを理解した上で、橋渡しのような存在になろうとしている人もいるけれど。


――たしかに、タレントのYouTube進出は増えましたが、それによって何らかのイノベーションはまだ起きていません。


中田:単純な話、年輩の方には、スマホで動画を観るカルチャーが根付いてないでしょう。彼らはテレビを観ている。親がリビングでテレビを観ているから、子供はスマホやタブレットで動画を観る。そういう住み分けに、もう、皆気づいてるんじゃないかな。例えばカジサックさんや新しい地図にしても、コンテンツそのものよりも、テレビの世界での知名度を使って、人気YouTuberとコラボして注目されている。そういう方法をとらずに、いきなり1人でコンテンツを打ち出しても、成功する可能性は低いと思います。


――カジサックさんは、人気YouTuberともコラボしてる一方で、仲間の芸人らとも共演されています。


中田:カジサックさんは、お笑い芸人が「YouTubeという大陸」に入る時の橋渡しをしたいのでしょう。その大陸のメイン層は若い人たち。彼はまだ、子供や若者に向けてコンテンツを届けたい人なんですよ。僕はそこに向けたものを作ろうとは思っていないというだけで。どういうコンテンツを、誰に届けたいかで、変わってくるんじゃないですか。だから、「絶対にテレビ」「これからはYouTube」という議論は成立しないんです。それぞれのターゲットに合わせたことをすればいいだけで。


――以前、30代前半の芸人に取材をしたときに、「いまの超若手芸人たちは世代的に、YouTuberのほうがチャンスはありそうだとわかっているけど、あくまでお笑いが好きだから芸人をやっているという人が多い」という話を聞きました。


中田:僕らの世代の落研(落語研究会)の人みたいな感じになってるんじゃないかな。落語家さんがテレビのメインだった時代もあって、そこで落語家の徒弟制度もあった。そういう伝統から外れた、お笑い養成所出身のダウンタウンさんが出てきて時代が変わった。僕らの若い頃でも、落語が好きだから、落研に入って、落語家さんに弟子入りしたいという同世代はいた。でも僕らの大半は落語を観たことはない。今、「お笑い芸人になりたい」という人もいるだろうけど、それは生き方や「イズム」の話ですよね。「お金が欲しい、有名になりたい」だけが、生き方ではない。「食べていける」という度合いさえ、自分の中で納得していたらいいと思います。知名度的に、経済的に大成功したいというのではあれば、今からお笑い芸人になるのは、あんまりおススメしないですけどね。


――なかなかシビアな考えですね。


中田:だって、あの頃の落研にいた人から、テレビのMCになるような人は生まれてないじゃないですか。時代は移り変わったら戻らない。かつてプロレスやJリーグがゴールデンで放送されていた時代もあるし、変わったところですと、ローラースケートの番組をゴールデンやってた時代だってある。今では考えられないじゃないですか。それと同じで、お笑いのコント番組が、もう一度ゴールデンに返り咲くことはないと思っています。でも一度ゴールデンに出たジャンルの人たちって、「もう一度」って考えがちなんですよね。ジャンルの外から見ると、それはピンと来ない話なのに。


――もし、中田さんが現在大学生だとして、「お笑い」的な面白いことをやりたいと思った時に、吉本興業に入ります? あるいはYouTubeで動画をあげますか?


中田:「お笑い」をやりたかったら、吉本に入るでしょうけど、YouTubeは「お笑い」ではなくて、面白い映像を撮る人たちです。「お笑い」を「舞台の上でお客さんを笑わせる演芸」に定義づけるのであれば、吉本がいいのでしょうし、もっと広義のバラエティ的な企画を含めて「お笑い」と呼ぶなら、YouTubeかもしれません。とはいえ、今からだとお笑い芸人は目指さないでしょうし、YouTuberになるのも、どうかなと思いますね。「次に来るメディアは何なのか? あるいは、メディアごと作るのか?」を考えていると思います。


――コンテンツよりは、それを入れる箱、プラットフォームに興味があると。


中田:YouTuberもGoogleの方針に委ねられているじゃないですか。ルールが変わればやることも変わる。今はGoogleがゲームに力を入れているので、多くのYouTuberはゲーム実況を始めたりする。Googleの向く方向に皆歩いていかないといけない。


――それは、「好きなことで、生きていく」とは違ってきてしまいますね。


中田:そうなんです。「YouTuberの皆さん、やりたいことして食べていけてますか?」とは思います。現在の主流である「毎日動画更新」も、この数年ずっと問題視されています。なぜ毎日アップロードだったかというと、子供のためなんですよね。コンテンツを週1、月1まで待てるのは、大人が忙しいからなので。YouTuberが毎日更新するのは子供のためなんですよね。そこをターゲットにしない人たちは、そうする必要はないんです。


――HIKAKINのように毎日アップロードもやめる。動画編集を外注せずに自分でやっているYouTuberも多く、「ユーチューバーは自分で動画編集するべき」という空気もあります。2月にYouTuberデビューしたタレントの藤田ニコルも、動画を自分で編集していると話題になりましたし。


中田:それが正しいかどうかは視聴者が判断することですよね。それって、つまり「イズム」の問題で、「お笑いの賞レースで勝たない」とダメとか、「ネタをやらなくなったら芸人じゃない」とか、いろんな「イズム」があるんですよ。じゃあ司会業がメインの有吉さんは? くりぃむしちゅーは? となるじゃないですか。なので、YouTuberが自分で編集してようがしてまいが、人が集まれば勝ちなのは大前提。その中で、藤田ニコルちゃんは、そういう作戦をとっているということですよね。


■生きることは、他人に迷惑をかけること


――ちなみに、中田さんの考える、芸人を定義する「イズム」とは?


中田:う~ん。「お笑い」や「芸人」を、定義しようとする発想が、もう古いかなと思います。「落語とはなんですか?」ということを、僕らに聞かれてもわからないじゃないですか。「今の、時代を切り取る仕事の仕方は?」と聞かれるのはわかるけれど、「芸人とは何か?」って、現在論じるべきトピックかな? と思うんです。


――と、いいますと?


中田:だって何を売るのも、自由じゃないですか。お饅頭を売ってもいいし、ショートケーキを売ってもいい。なのに、お饅頭に固執してると、ショートケーキやシュークリームを売る機会を損失してしまう。本当にこの地域はお饅頭が欲しいのか? それともショートケーキなのか? あるいはパンケーキなのか? みたいな。ケーキ屋とはなんぞや? っていうことは論じずに、皆が喜ぶような商品はなんなのかを論じる方が、コスパがいいと考えています。


――本の中でも、ひとつのことに固執する「コンテンツ至上主義」に批判的な立場をとってますね。


中田:みんな、ひとつのコンテンツを愛しすぎて、神聖視しちゃうんです。自分のやってきたことや、かけてきた時間に愛着が強すぎて、そればっかり見てるので執着しちゃう。だから、色々な業界を見た方がいいと思うんです。先日、「Amazon Fashion Week TOKYO」というイベントを見に行きました。僕からすると「音楽の使い方、雑だなー」とか思ったけど、そこがむしろイノベーションに繋がっていくんだろうとも感じます。今、「幸福洗脳」というブランドをやっていますが、ファッション業界に来た時も、まず「そもそも皆、そんなにオシャレな服が好きか?」というところからスタートしました。他のジャンルから来た人だからこそ、気づくこと、わかることってあるじゃないですか。それを僕は面白いと思うし、同じジャンルの人たちとばかり喋っていると、本当に「洗脳」されちゃう。「こういうYouTubeはダメだ」とか「こんな芸人はゴミだ」とか。でも、それって、他のジャンルの人からしてみたら、どうでもいいことが多いんですよね。


――最後に読者へのメッセージをお願いします。


中田:とにかく、なんでもやってみるのが一番ですよね。結局、「やりたいことして、食べていく」ことに憧れはあるけれど、皆怖いんですよね。ほとんどのビジネス書には「やれ」って書いてあって、それを読んで「ああしたい、こうしたい」と口では言うけれど、やらないんです。つまり、皆失敗を恐れているんですよね。そもそも、それは教育の問題で「人に迷惑をかけてはいけません」って教えるじゃないですか。それは矛盾しているんです。生きることは、他人に迷惑をかけることだから。


――たしかに、本の中でも、失敗の連続だったとありますね。


中田:僕は自分のラジオ番組(「中田敦彦のオールナイトニッポンPremium」)で、「幸福洗脳」の進捗を逐一報告していたんですけど、引き返すしUターンもするし、大失敗や大間違いの連続でした。その過程を見せたかった。「幸福洗脳」も、これだけで生活できるくらいの収益をあげている。それは僕の中では「成功」なんですね。そうやって、失敗の連続の中で、少し成功することがある。だから、もしこれを読んでいる人が、「YouTuberになりたい」と思うのであれば、それで上手く行く道もあるだろうし、仮に失敗したとしても、また何か別のことをした時に、YouTubeをやった経験はどこかで生きるはず。だから、考えている時間があったら、その間に動画をアップロードしたほうがいい。そしてコメントを見て反響を確認して、改善していけばいい。YouTubeに向いてるかそうでないかも、真剣にやればすぐわかるだろうし。シンプルな言葉でいえば、「Just Do It.(行動あるのみ)」ですね。


(藤谷千明)