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ユースケ・サンタマリアが明かす、自身の仕事観「この仕事は毎回賭けなんです」

2019年04月14日 07:51  リアルサウンド

リアルサウンド

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 4月16日よりスタートする、吉高由里子主演の火曜ドラマ『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)。「働き方改革」や「ワークライフバランス」が叫ばれる現代を象徴するような本作の撮影が行われているスタジオを取材した。吉高演じる主人公・東山結衣は「残業をしない」というモットーを掲げるWebディレクター。勤務先となるオフィスのセットは、今どきのWeb制作会社にふさわしいスタイリッシュな雰囲気で、壁に大きくデジタル時計が投影されているのが印象的だ。


【参考】ユースケ・サンタマリア、舞台挨拶も笑いの渦に


 3月某日、朝8時45分ーー。壁に表示された時間と、ほぼ同時刻にリハーサルがスタートした。撮影されたのは、結衣が緊急事態に慌てて会議室に駆け込むシーンだ。室内で待ち受けているのは、結衣の元婚約者でワーカホリックなWebプロデューサー・種田晃太郎(向井理)と、結衣の同僚で真面目過ぎる皆勤賞ディレクター・三谷佳菜子(シシド・カフカ)、そして悪気なくブラック発言を連発する部長・福永清次(ユースケ・サンタマリア)。


 福永が、結衣に対して声を荒げると、監督からは「もう1段階ボリュームを上げて!」とリクエストが。そして、会議室から漏れ聞こえる怒号で、オフィス全体にピリ付いた空気が広がり、“あー、あの人怒られているな……”という気まずい雰囲気が見事に表現されていくのだった。


 ところが、カットがかかった会議室の4人を見てみると、いつの間にか親指ゲームで大盛り上がり。「イエー! 勝った~!」(吉高)、「ちょっと、これはリハーサルってことで!」(ユースケ)。先ほどまでの張り詰めた空気から一変、すっかり穏やかなムードに。


 吉高と共にムードメーカーとして、このドラマを盛り上げているユースケ・サンタマリアが、撮影後インタビューに答えてくれた。いつも掴みどころのないユースケ節で周りを笑顔にしてくれる彼が、真正面から語った本作への気合い、そして熱い仕事観とは!?


■「お仕事ドラマで面白い作品を作りたい、これはチャレンジです」


――撮影、お疲れ様でした。


ユースケ・サンタマリア(以下、ユースケ):お疲れ様です。いやいや、わざわざ来てくれてありがとうね。ただね、話すこと一言もないけどね……なんてね、冗談ですよ(笑)。


――あはは。驚きました! では気を取り直して、本作に出演を決めたときの心境から聞かせてください。


ユースケ:最近のドラマは、最初に“こんな作品になります”というプロットをもらって、それを見て出演するかどうか決めているんですけど。正直、今回は「お仕事ドラマ?」って思ったんですよね。例えば、警察や医療現場だと、いろんな事件が起きますけど「普通の会社でお仕事ドラマって、これどんな感じになるの?」って。でも、共演者も制作スタッフも信用できる人ばかりで、自分もあまり経験したことのない役どころだったので、「やらせていただきます」と話をしたんです。難しそうだからこそ、これで面白いドラマができたらいいなと。これはチャレンジです。


――今回、演じる福永清次は「ブラック上司」と称されていますが、ユースケさん自身は福永というキャラクターについて、どのような印象を持っていますか?


ユースケ:よくいる人だと思います。時代によって仕事の仕方とかあるじゃないですか。福永は僕と同じ48歳で「そりゃ、こういうふうになるよな」って腑に落ちたし、イジメみたいにブラックな態度を取ってるわけじゃない。けど、今の若い人からしたら「待ってよ!」となるのもわかる。善悪の問題じゃなくて、時代のギャップですれ違ってしまうのは、もう仕方ないかなって。だから、最初から僕がオフィスのセットに入ると、うっすらみんなに嫌われてる感があって、けっこう燃えます(笑)。


――も、燃える!?


ユースケ:うん。そういう孤独感が、やっていて結構楽しい。気づいたら、この現場では僕がほぼ最年長なんです。ついにそんなときが来てしまったか、ってね。もうこれはしょうがないことですし、いつまでも若さを保っていこうとか、逆にカッコ悪いでしょ。だから、僕はいい感じに、枯れていきたいなって。ただ単に「老けたね」って言われるのはイヤだから、「年取ったけど、軽く色気あるね」って言われたらいいなというのが、僕のほのかな願いです。


――逆に、若い世代のキャラクターに対する印象はいかがですか?


ユースケ:みんな年相応なんじゃないかな。「定時で帰りたい」とか、僕がそのくらいの年だったら、そういう考え方になってると思うし、僕自身、仕事はとっとと終わらせて、プライベートな時間も持ちたいという考えもあるから。まあ、この仕事は、セットの変更とか撮影スケジュールによって、待機する時間が長くて「待つのが仕事」とも言われてるんですけど、それは今でも納得していません。でも、じゃあ「効率化だ」って早く終わったとしても、作品がつまらなかったら意味がないじゃない? めちゃくちゃ大変でも出来上がりが良かったら、「やってよかった」と思うし、しんどかったことも忘れるんです。喉元過ぎれば、というやつで。だから、続けられているのかもしれない。


■「センスとか、エゴとか混ぜ込める、変わった仕事だと思う」


――お仕事ドラマということで、仕事観についてもお聞きしたいのですが、ユースケさんにとって「働く」とは?


ユースケ:先立つものがないと、っていうのはあるけれど、だからといって「金儲けの手段」というわけでも、「お勤めだから」でもなくて。やっぱりバラエティは、どうしても自分のパーソナリティみたいなものを出さざるを得ないし、ドラマだって「はいはい、このセリフ言えばいいんでしょ」なんて思えない。「このセリフは違うんじゃないかな」と思ったときは、監督と話しますし。センスとかエゴを混ぜ込める仕事だから、やり続けられているというのもあると思うんです。変わった仕事だなって思うけど。


――この仕事をしていて「幸せだな」って感じる瞬間はありますか?


ユースケ:たまにあります。夜中まで、わけわかんないシーンを撮っていて、血糊つけて、じーっとしてるときとか「俺、何やってるんだろう」と思うのと同時に「あ、俺、今幸せかも」って(笑)。ちょっと浮世離れした、非現実的な仕事してる感覚になるときに、謎の多幸感がありますね。あと、「ここすごい好き!」っていうシーンをやるときとか。バラエティに関しては、本当に面白くてやってることが多いから、「こんなんでギャラもらっていいのかな」と思ったりもします。だから、仕事なんだけど、「仕事として割り切ってやってる」という感覚は、全くないですね。


――先ほど、福永が声を荒げるシーンを撮影していましたが、ユースケさんも「ここは!」となったら主張するタイプなんですか?


ユースケ:あそこまで強く言うことはないです! でも、「これちょっとおかしいんじゃないかな」っていうのは、戦わないとね。自分もストレスが貯まるし、現場の不満になっちゃうから。でも、「あのさぁ~!」みたいな喧嘩腰には言いませんよ。言い方っていろいろあるでしょう? 監督と話していたんだけど、福永は結構気の小さい男なんですよ。だから、余裕ぶっこいてるように見せかけて、「やべぇ!」って場面になると、軽くパニくって、声を荒げてしまうみたいなところがあるんじゃないかなって。だから、さっきも「もう1段階上げて」って、声の大きさを監督と調整しながらやっていったけれど、僕はそれでいいと思う、みんなで作るものだから。


――なるほど。他にも福永を演じる上で、注意しているところはありますか?


ユースケ:最初に「ユースケさん、怖い役じゃないですからね」と口酸っぱく言われたんです。最近、僕が演じる役が、そういう怖いキャラが多かったからだと思うんですけど、多分、視聴者のみなさんも同じように、「ユースケが出てきたぞ、どんな気持ち悪い感じでくるかな」って見る人もいると思っていて。それを、ちょっと裏切っていきたいです。ただ、僕も他の共演者のみなさんも、ほとんどこういう一般企業に勤めたことのない人たちだから、探りさぐりなところもあって。脚本もちゃんと書かれているし、面白いんですけど、めちゃくちゃインパクトがあるようなキャラクターもいないから。ちゃんとやらないと、ドラマがうねらないというか、退屈なドラマになってしまうかもって危機感を持っています。


■「仕事は毎回賭け。全力であがき倒す、だからしんどい」


――撮影の合間に吉高さんたちと親指ゲームをしていましたが、あのゲームはユースケさんからの提案ですか?


ユースケ:あれは由里子ちゃんが、急に拳を出して始めたのよ。僕は、ルールも知らなくて初めてやったから。でも「負けたら5万円ね!」なんて冗談で言ったら僕が負けちゃって(笑)。「これはリハーサルだ!」って逃げてきたけど。48歳になりましたけど、ずっと精神的には幼いというか、変わらないです、癖とか、好みの冗談とか……。ちょっとは落ち着いたけど、今の若い人はしっかりしたヤツ多いなって思います。自分が情けない(笑)。


――え! 余裕があるからこそ、現場を盛り上げているように見えました。


ユースケ:よくそう言っていただけるんですけど、僕としては「しめしめ」って話で。自分のためにやってるんです。そうしたほうが、やりやすいから。でも、静かにしていたい人もいるだろう、とも思っています。集中してやらないといけないシーンもありますし。そういうときは空気を読んで、話しかけないようにはしていますけど、結局、自分のためにやってるんですよ、現場で居やすいように。


――なるほど、作品を良くするためのひとつの戦略なんですね。


ユースケ:ぶっちゃけて言うと、この仕事は毎回賭けなんです。役者が、どんなに熱演しても、脚本がダメならつまらないし。監督がダメならクソダサい作品になっちゃう。逆もしかりですけど、それでも、作品は残るじゃないですか。だから、どうにか良くしようって、僕は全力であがき倒します。だから、しんどいんです。でも、しんどいながらに続けていると、ときどき「この仕事に出会えて本当によかったな」って思える瞬間があるわけで。それは運としか言いようがないですけど、一生に何作品かしかないかもしれない出会いを信じて、毎回全力を注いでいくしかなくて。この先も代表作だって言える作品を1つでも多く残せたら、と思っています。でも、その実感は終わった時にわかるんです。だから、このドラマも自分にとって代表作のひとつになることを願って、目の前の撮影を一つひとつやっていくのみです。


(佐藤結衣)