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空前の三味線バトルで迎えるGT500開幕戦と3メーカーの首脳の手応え。ホンダ佐伯氏「昨年この重さならQ1突破は難しい」

2019年04月12日 20:11  AUTOSPORT web

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MOTUL AUTECH GT-R、KeePer TOM’S LC500、RAYBRIG NSX-GT/2019スーパー第1戦岡山
ついに始まる2019年のスーパーGT。GT500はドライバーラインアップが大きく変わるメーカーがあり、GT300は新車両が参加するなど見どころはいくつもあるが、ホンダ、レクサス、ニッサンの3メーカーがしのぎを削るGT500について、第1戦の開幕戦の前日の岡山国際サーキットで、それぞれの現場トップに手応えを聞いた。

 のっけから恐縮ではあるが、今年のオフシーズンテストは奇妙な状況が見られた。公式テスト1回目の岡山では初日に1分17秒167のトップタイムに対し、2日目のトップは1分17秒849。2日目の午前がウエットコンディションとなったことでタイムが遅くなったことは納得がいくが、2回目の公式テスト富士では初日の走り初めが1分28秒436に対し、2日目は序々にタイムが遅くなり、最後のセッションではトップタイムは1分28秒786。コンディションが大きく変わったわけでない中で、全車どんどんタイムが落ちて行ったのだ。

 GT500の15台全車がロングランなどでタイムが上がらなかった、という可能性がないわけではないが、ここはGTならではの、各メーカーによるいわゆる『三味線』があったと考える方が合点がいきやすい。

 その背景としては、昨年チャンピオンを獲得したホンダNSX-GTがミッドシップの救済措置を受けてタイトルを獲得したことから、今年はそのミッドシップハンデの見直しが推測されている状況だった。その見直し幅をどのように決めるのかは当然、昨年の実績だけではなくオフの2019年仕様マシンでのテスト状況も加味されることは想像に難くない。

 となると、ミッドシップハンデを軽減したいホンダ、そのホンダにできるだけハンデを付けてほしいレクサス、ニッサン陣営と、それぞれの大人の事情が重なり、『相手のマシンの方が速い』という状況を作り出すため、テストでは走るたびにお互いのタイムが落ちて行った、と考えるのはうがった見方か。いずれにしても、3メーカーの例年以上とも言える切迫した状況と緊張感がうかがえる。

 そんな『空前の三味線合戦』となったこのオフを象徴するように、各陣営とも開幕直前になってもライバルとのパフォーマンス差がまったくわからず、例年以上に予想のつかない開幕戦となっている。その状況を含め、まずはレクサス陣営で現場をまとめるTRDの湯浅和基プロジェクトリーダーにこのオフの手応えについて聞いた。

「オフのテストは、他車さんのパフォーマンスの伸びがすごいですよね。メニューは一応、予定どおりこなすことができました。クルマの開発ポイントとしては全体的に少しずつ底上げしているというのが正直なところです。開幕戦の目標はもう、聞くまでもないですよね

 レクサス陣営としては今季フリックボックスに左右ふたつずつ小さなフィンが付いたのが確認できたが、それ以外には外観からは大きな変更点は見られなかった。2年前の開幕戦岡山では決勝でトップ6をレクサス6台が占めるという驚異的な強さを見せたが今年はどうか。

「この岡山は以前は結果が良かったですが、昨年、その力関係が入れ替わったのはみなさん、ご存知だと思います。まあ、いろいろ大変です(苦笑)」とTRD湯浅氏。

 続いて、今年からニッサン陣営の総監督に就任した松村基弘氏(ニスモ最高執行責任者)に聞いた。

「このオフ、やれるだけのことはやってきました。ただ、みなさん実力を出し切ってテストをしていたわけじゃないようだから、パフォーマンス差はわかりません。今年はGT-Rが速いと言われていますが、まあ(ライバル陣営の)みなさんはそう言いますよね(苦笑)。ですので、我々ニッサン陣営としましては、星野(一義)監督を含めまして、みなさん非常に慎重に見ています」

■スーパーGTならではの三味線合戦と、レクサス、ニッサン、ホンダ3メーカー首脳の手応え


「今年のクルマの手応えといいますか、昨年の自分たちのクルマから何を直すのか基準を決めて、それを全部入れたものをこの岡山に持ってきたので、やれることはやりました。ただ、どこまでいいのかは周りが本気を出さないと分からないですね。私も新人なので、新入生のつもりでみんなと一丸となって頑張ります」とニスモ松村氏。

 昨年は1勝に終わってしまい、背水の陣で覇権奪還を掲げるニッサンGT-R。このオフは三味線が囁かれるなかでもマシン仕上がりは良さそうで、ライバルメーカーもいち目置くようになりつつある。昨年まで課題だったエンジン面でのパフォーマンスアップ。そしてセットアップとタイヤのマッチングがどこまで最適化されたかがポイントになりそうだ。

 そして最後はライバルの最低重量1020kgに対して、いわゆるミッドシップハンデ29kgを加えた1049kgで開幕戦に臨むホンダNSX-GT。佐伯昌浩プロジェクトリーダーに聞いた。

「昨年は第5戦まで救済ということで15kg軽くなって(最低重量1034kg)、第6戦SUGOから残り3戦は10kg戻った状態(最低重量1044kg)で参戦しましてので、昨年の開幕戦と比べると15kg重い状態になります(最低重量1049kg)。昨年チャンピオンは獲れましたが、この重さでどうかと言われると、全然チャンピオンは獲れない状況ですので、今年の前半5戦で昨年よりも15kg重い状態はかなり影響が大きいですね」と、険しい表情で話すホンダ佐伯氏。

 当然、ミッドシップハンデが見直される可能性を含めてこのオフは開発を進めてきたが、2019年のマシンはまだまだ納得のいく形には仕上がっていないようだ。

「(ミッドシップハンデの)ウエイトもGTAが指定した位置に搭載して封印することになりましたので、車両バランスの面でも厳しくなっています。ある程度、テストでは予測してセットアップや車両のバランスをとるのにトライしてきましたが、結構、苦労しました」

「開幕戦はやってみないとわからないですけど、去年のQ1の結果を振り返ってみると、昨年の状態で最低重量がプラス15kgになることを想定したら、結構Q1突破は厳しいなと。Q1突破が全然、楽ではない状況になりますね」

 NSX-GTはこのオフ、当初はF1風の新しいフリックボックス装着して走行していたが、昨年型に戻す形になった。

「新しいバーツを試しましたが、最終的には昨年型に限りなく近いモデルとなりました。新しいものはダウンフォースのピークは明らかに高かったのですが、サーキット1周を考えてのドライバーのフィーリングを重視しました」と佐伯氏。

 2019年型NSX-GTは『総合的な熟成』をテーマに開発を進めてきたという。

「一昨年、去年とそれまでのライバルとの大きな差を埋めるためにどんどん新しいことにトライしてきましたが、まとめきれなかった部分もありました。それがNSXの中でのバラツキが出る原因にもなったと思っています。昨年の最終戦に向けてはそれが収束していく形になったので、その方向を煮詰める方向で進めてきました。ですので、昨年最終戦から今回の開幕に向けて戦えそうな部分もありますし、昨年開幕戦から15kg増えたことを考えると、まったく歯が立たないのではないかと、どっちになるのか走ってみないと分からないという状況です。自分たちでも自分たちのパフォーマンスが分からなくなってきる状況ですので、本当に明日、走ってみないと分からないと思います」とホンダ佐伯氏。

 3メーカーそれぞれが公式テストでは全力を見せずに迎えることになった、と考えられる2019年のGT500の開幕戦。メディアだけでなくメーカー側もチームもドライバーも、誰も勢力図を読み取れない2019年の戦いは、土曜日の予選で一気に解答を得ることになりそうだ。