2019年04月12日 11:02 弁護士ドットコム
「控訴審では警察の過失を認めていただき、被疑者の逮捕よりも被害者保護が優先されると言ってもらった。本当に私にとって、とっても大切なこと。夫の供養になると思っています」
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2010年11月、秋田市の弁護士・津谷裕貴さん(当時55)が自宅に侵入してきた男に刺殺された「秋田弁護士殺害事件」。4月10日に東京都内で開かれた判決報告集会「警察の使命 市民の安全が最優先~秋田・弁護士殺害事件高裁判決を読み解く」で、妻の良子さんは涙ぐみながらあいさつした。
この事件の特徴は、良子さんの通報で駆け付けた警察官2人が、津谷さんが刺された現場に居合わせていたことだ。なぜ、警察官2人は津谷さんを助けられなかったのかーー。良子さんら遺族は、津谷さんが殺されたのは警察官の不適切な対応が原因として、秋田県と加害者の男性に国家賠償請求訴訟を起こした。
一審の秋田地裁は県への請求を棄却。控訴審で、仙台高裁秋田支部は2月13日、「警察官2人が適切に権限行使して対応していれば殺害されることはなかった」「臨場後の対応は失態を重ねて最悪の事態を招いたもの」などとして県と男性に約1億6430万円の賠償を命じる逆転判決を言い渡した。県側は2月27日、最高裁に上告している。
良子さんは当初、加害者に対する憎しみの気持ちでいっぱいだった。事件後、警察官に当時の状況を話しているうち、どうやら自分が見聞きした内容と現場に臨場した警察官が話していることが違うことに気づいた。「やっぱりおかしい」と確信したのは、刑事裁判の終わり頃だった。
良子さんは遺族だが、事件の目撃者でもある。裕貴さんが刺された瞬間はみていないものの、その前後を目撃している。
裁判が始まる前、「目撃したことを話させてください」と何度も検察官に伝えたが、「裁判員裁判なので、わかりやすく、理解しやすいように」「争点が決まっているので」と説明されるだけだったという。
さらに、裁判員裁判で裁判員が警察の不始末や過失に目がいった場合、「犯人から関心がそれてしまい、量刑に影響があるかもしれない」というようなことも言われ、「なんとなくプレッシャーをかけられる感じだった」と振り返る。
結局、良子さんは公判で目撃者として法廷で証言することはなく、あくまで被害者参加の立場で遺族として夫の人がらや思い出を話した。
後から請求した警察官が作成した供述調書は、良子さんが見ていないことが書かれており、検察官が作成した供述調書は肝心の「警察官が入ってきたところ」以後は白抜きで、証拠化されていなかった。
被害者参加弁護士をつとめた近江直人弁護士は「公判前整理手続の時点で、争点が良子さんの目撃していないところに落とし込まれた。良子さんは警察官と目が合っているが、良子さんがその場にいたことを表面化すると、(警察官の)事前の動きから明らかにしなければならない。つまり、良子さんの目撃証言はいらないように運んでいったということだ」と話した。
集会の終わり、良子さんは集まった支援者に感謝を述べた。
「私たち遺族は、刑事裁判も民事裁判も裁判にかかる全てのことが夫の供養になると思って取り組んできた。1審は残念な結果になったが、求めていた真実はほぼ明らかになったと思っています。ここまで来られたのも皆様のおかげです」。
(弁護士ドットコムニュース)