映画『風の電話』が2020年初春に全国で公開される。
同作は、死別した従兄弟ともう一度話したいという思いから佐々木格が岩手・大槌町にある自宅の庭に設置した、電話線の繋がっていない黒電話を据えた白い電話ボックス「風の電話」をモチーフにした作品。東日本大震災以降、「風の電話」には3万人におよぶ人々が訪れている。
映画は、1人の少女が広島から故郷の岩手に帰り、「風の電話」に辿り着くまでの道程を通して、「傷ついた心の救済」と「私たちが忘れかけている大切なもの」を映像に刻み付けたいという思いで制作されているという。
主人公のハル役を演じるのはモトーラ世理奈。ハルと行動を共にする森尾役に西島秀俊、ハルに影響を与える重要人物に三浦友和、西田敏行らがキャスティングされている。監督は『M/OTHER』『ライオンは今夜死ぬ』などの諏訪敦彦。諏訪が日本映画でメガホンを取るのは『H story』以来、約18年ぶりとなる。
諏訪監督は「熊野詣での時代から、旅は生まれ変わるための再生の行為です。私たちも傷ついた主人公ハルの魂とともに、『風の電話』を目指して旅をしてみようと思います」とコメントしている。
■諏訪敦彦監督のコメント
スマホを片時も手放すことができない私たちは、まるで片手の操作だけであらゆる世界に繋がっているという錯覚に陥ります。しかし、そう簡単には繋がらない人や世界というのがあることを、私たちは忘れてしまっているのかもしれません。「風の電話」は岩手県大槌町の丘にひっそりと置かれています。わかりやすい標識や、案内図はなく、「さあ、自分の力でここまでやっておいで」と私たちに旅を誘っているかのようです。熊野詣での時代から、旅は生まれ変わるための再生の行為です。私たちも傷ついた主人公ハルの魂とともに、「風の電話」を目指して旅をしてみようと思います。私としては、日本を舞台にした久しぶりの撮影となりますが、その道しるべのように、素晴らしい出演者たちが参加してくれることになりました。映画は何かを見せるものであると同時に、見えない何かを想像させるものでもあると思います。この映画がその想像の力を快復できる旅になることを願っています。
■佐々木格のコメント
会えなくなった人に想いを伝える電話「風の電話」。亡き人とつながれるという思いが、人に生きる希望を与えることができます。人は人生において、自分の物語を創出し、それを生きていると考えることができます。最愛の人を失った時、遺された人の悲しみを癒すのは、その人の持つ感性と想像力です。人間には、失ったものを取り戻したいと切望する想いがあります。癒しには、亡き人に再会できる、再びつながれるという想像を通して新しい物語が必要となります。
この度、「風の電話」の映画化が決まりましたが、主人公ハルは、旅の途中で様々な人たちの優しさに触れ、少しづつ心を開いていきます。故郷の岩手県大槌町で「風の電話」を訪ね、自問自答する中で、どんな時にも人生には意味があることに気付きます。
自分は今「人生から問いかけられている」だから、たとえ今がどんなに苦しくても、全てを投げ出す必要はないのだと。