今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと、小松礼雄チーフエンジニア。第2戦バーレーンGPでは予選で好パフォーマンスを発揮するものの、スタート時のアクシデントやレースペースの不調も相まって入賞を逃す結果に。それでもその後のインシーズンテストでは、クルマの理解もいっそう深まったようだ。そんなレースウィークの模様とテストでの手応えを、小松エンジニアがお届けします。
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バーレーンGP、予選はレッドブルに迫るタイムを出すことができてクルマはすごく良かったのですが、逆にレースでは全然ダメでした。その時は原因がきちんと把握できていなかったのですが、直後に行われた週明けのインシーズンテストでセットアップをいろいろ試した結果、何が悪かったのか掴めました。まずはバーレーンGPの金曜日から振り返りたいと思います。
バーレーンGPのフリー走行1回目(FP1)と3回目(FP3)は、日中の走行になるので路面温度が高すぎ、夜に行われる予選やレースに向けてはあまり参考にならないセッションになります。FP1では、クルマのバランスがあまり良くなく、ドライバー2人ともあまり良い感触を持っていませんでした。しかし、これは路面温度が50度にもなるセッションでは予測されていたことなので、想定内ではありました。
そして、フリー走行2回目(FP2)では走り出しからクルマのバランスも感触も良く、実際に予選タイヤを使っての一発のタイムもとても良かったです。しかし決勝に向けて燃料を積んで走り出すと、なかなか難しいクルマだということがすぐにわかりました。ラップタイムも良くなかったので、この段階で心配すべきことは日曜日の決勝レースのことだけでした。
土曜日のFP3は、通常であれば予選の練習をするところですが、路面温度が高くてできることも限られていたので、レースのことだけを考えていろいろと実験をしました。興味深い結果を得られて、それをレースに生かせると思ったのですが、結果的にはそれでもレースペースは良くなりませんでした。
予選ではロマン(グロージャン)がQ1で(ランド)ノリスのアタックを妨害したということで3グリッド降格ペナルティを科されましたが、あれはきちんと無線で伝えなかったレースエンジニアのミスでした。ロマンをコースに出すタイミングは良かったのですが、ノリスが随分後ろにいたから、追いつくことはないだろうと安心していたようです。もちろんノリスがアタック中だということはわかっていましたし、ロマンがバックストレートに入ったの時点ではまだロマンとノリスとの間に余裕がありました。
ところが同じくアウトラップだった(セバスチャン)ベッテルはかなり飛ばしており(ロマンの後ろに来るまでにすでに3台追い抜いていました)、バックストレート後半でロマンを追い越しました。あの行為はよくなかったと思います。ドライバーの間ではお互いアウトラップの場合、『最終コーナーの手前で追い抜いてはいけない』という暗黙の了解があります。最終コーナーの前のストレートに入ったらお互いがアウトラップの場合、後ろのクルマは前のクルマを抜かず、ペースを落として間隔を開けるのが普通です。
しかしベッテルはこの紳士協定を無視してロマンを最終コーナー前のストレートで抜きました。これによってロマンはベッテルとの間隔を作るために最終コーナー直前でペースを落さなければならなくなりました。そして後方から迫って来ているノリスに気づかず、最終コーナーでノリスを妨害してしまいました。
もちろん、ウチのエンジニアが『後ろからノリスが来ている』とはっきりと伝えていれば問題ありませんでした。しかしエンジニアが何も言わなかったので、ロマンが最終コーナーでミラーを見て、後ろからアタック中のノリスが来たとわかった時には妨害してしまう形になってしまいました。
ノリスのアタックを妨害してしまったので、3グリッド降格のペナルティは正しいことだと思います。しかし、ロマンにペナルティポイントを1ポイント科すという裁定には納得がいきません。今回の件は、チームの責任でドライバーが原因ではないからです。たとえばピットアウト時に『アンセーフリリース』があったとしても、ドライバーにペナルティポイントを科すことはありません。それと同じことですので、今回のF1スチュワードの裁定には一貫性が欠けていると思っています。
■決勝レースで確認できたハースF1のウイークポイントと高まるチームの一体感
決勝レースでは、ロマンがスタート直後の1コーナーで後ろから衝突されましまい、実質的に彼のレースはここで終わってしまいました。予選8番手がペナルティで11番グリッドとなり、ちょうど混乱のおこりそうなところにいたのも影響しました。一方で、予選6番手のケビンのスタートはそれほどひどいものではありませんでしたが、その後はペースが上がらず苦戦して、13位で終えました。
ケビンのペースが良くなかった原因は、タイヤを含めて日曜日にコンディションが大きく変わったことです。この日は特に風が強かったのも状況をさらに悪くしました。朝、サーキットに向かうときに僕たちが乗っているミニバンでも、横風で運転手がカウンターを当てるくらい強い突風が吹いていました。でも、その状況はみんなが同じこと。クルマも、彼のタイヤの使い方もよくなかったのですが、それはレース後のインシーズンテストで原因が判ったので良かったです。
あれだけひどいレースの後で、同じサーキットでテストができたのは幸運でした。オーストラリアではクルマは何も悪くなかったので、もし開幕戦直後にテストをしていたら、何の問題意識も持っていなかったと思います。予選があれだけ速かったのに、決勝であのような状況になるとはまったく予想していなかったので、あのときは何が起きたのかわかっていなかった。だから、それを解決するのに同じサーキットでテストをするというのはすごくいいことです。
そして今回、予選までのアプローチでも、チームとしての成長を感じる場面がありました。予選で速いというのはFP2の時点でわかっていたのでFP2の後、僕が問題として挙げていたのはレースのことだけで、その問題に対する実験をFP3のメニューにしたかったのです。
でも当然、ドライバーは予選直前のFP3ではニュータイヤでのアタックの練習をやりたい。だけど良いクルマがあると助かるなと思ったのは、僕が「FP3ではレースに向けてこういうことをやろう」と言うと、ドライバーふたりがすぐに「やろう」と了解したのです。それは、予選でのクルマのパフォーマンスが良いと言うことを彼らがわかっていて、課題はレースペースにあることをふたりともちゃんと理解していたからです。
そういったチームとしての課題の共有の意識も上がってきたし、落ち着いて行動できるようにもなってきたのかなと思います。以前だったら「予選前だからそういうことはしたくない」と言われても驚きませんでした。結果的に実験したことはレースでは機能しなかったけれど、良い意味でも悪い意味でも、結果が得られたというのはチームにとってすごくよかったです。
特にケビンの場合、FP3で行ったテストがニュータイヤでは機能しなかったので、FP3で一発のタイムをまったく出せていないんです。ケビンにしてみれば、普通だったら予選前の最後のセッションでまったくタイムが出せなかったと不安になってもおかしくないですよね。でもそんなこともなくて、予選Q1の最初の周であのタイムを出してくれた。お陰でタイヤを1セットしか使わずに済みました。
トップ3チーム以外でこれができたのはケビンだけです。要は今年のクルマは彼らが自信をもってドライブできるクルマだということですし、チームとの信頼関係もよくなってきました。これは4シーズン目になったチームの成長の証しだとも思います。
テストを通じてクルマへの理解も深まりましたし、そういう意味では次の中国GPでも大丈夫だと思いますが、ウチは最高速があまり速くないのでその面での不安はあります。バーレーンのレースのように最高速も低くクルマもきちんと機能しないとなると、勝負になりません。度合にもよりますが、そのどちらかだけだったら。まだレースになったと思います。
上海での目標は、バーレーンGPの予選で発揮した速さを、決勝レースでも発揮すること。今度こそはちゃんとレースをしたいと思います。