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「電波少年」「ウルルン」「あいのり」……『TIMESLIP TVer』で平成を彩った人気番組を振り返ってみた

2019年04月11日 09:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 新しい元号も発表され、いよいよ31年余に及ぶ平成も幕を閉じようとしている。それに伴い、各メディアでは平成という時代を振り返る企画が目白押しだ。もちろん地上波テレビも例外ではなく、さまざまなジャンルの番組を通じて平成を回顧する特番が相次いでいる。


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 ただ、そうした特番はどうしても平成全体のダイジェスト的構成になることが多く、取り上げられる番組の一つひとつが流れる時間は長くない。昔ハマった番組などが出てくると、個人的には「もうちょっとじっくり見てみたい」と思うことも少なくない。


 そこに、そんな私の願望を満たしてくれそうな企画が民放の公式テレビポータルであるTVerで始まった。「TIMESLIP TVer(タイムスリップ ティーバー)」と題して去る3月15日から始まったこの企画、平成を飾ったドラマやバラエティのセレクションを期間限定ながら、一回なら一回分まるごと見ることができる。


 そのラインナップを放送開始の年代順に並べてみよう。1990年代だと『ずっとあなたが好きだった』(TBSテレビ系)、『GTO』(フジテレビ系)、『進め!電波少年』(日本テレビ系)、『世界ウルルン滞在記』(TBSテレビ系)、『あいのり』(フジテレビ系)など、2000年代だと『トリック』(テレビ朝日系)、『富豪刑事』(テレビ朝日系)、『夢をかなえるゾウ』(読売テレビ)など、そして2010年代だと『マジすか学園』シリーズ(テレビ東京系)、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)、『天皇の料理番』(TBSテレビ系)など。これらが第1弾で、4月15日からの第2弾では、「大食い選手権」シリーズ(テレビ東京系)や『時効警察』(テレビ朝日系)などが予定されている。


 こうして見ると、『ずっとあなたが好きだった』、『GTO』、『家政婦のミタ』のようなゴールデンタイムやプライムタイムの人気ドラマの一方で、『トリック』、『マジすか学園』、『時効警察』のような深夜ドラマがテレビ文化のなかにしっかりと根付いた時代が平成だったことや、『進め!電波少年』、『世界ウルルン滞在記』、『あいのり』など、現在のバラエティの主流でもあるドキュメンタリー的要素を盛り込んだロケ企画が平成になって続々と登場し始めたことに改めて気づく。リアルタイムでそれらの番組を見ていた世代にとっては懐かしさで一杯だろうし、そうではない若い世代にとってもいまのテレビと比べて新鮮な発見があるはずだ。


 TVerと言えば、2015年に始まったテレビ番組の無料配信サービス。放送が終わってから1週間程度配信され、見逃した番組などやもう一度見たい番組を視聴することができる。よく番組の終わりに「もう一度ご覧になりたい方はTVerで」などとサービスの告知がされるので、その存在を知っているひとも多いだろう。


 このTVerは、それまでずっとネットとは一線を引いていたテレビがネットとの連携に大きく一歩を踏み出したという意味で画期的サービスだった。パソコンだけでなく、アプリをダウンロードしてスマホでも気軽に視聴可能という点で、テレビの視聴スタイルを広げた意味合いもある。


 またそれに加えて今回の「TIMESLIP TVer」で大きな意義を感じたのは、この企画が各テレビ局個別のものではなく、在京の民放キー局5局の共同によるものだという点である。元々TVerが局の垣根を超えたプラットフォームであることが、今回の企画をとても有意義なものにしている。


 具体的には、番組を局単位ではなく横断的に振り返ることができることで、時代とテレビの関わりがよりはっきり見えてくる。先ほど配信されている番組を局ごとではなく、年代順に並べたのは、そのあたりをわかってもらいたかったからである。


 たとえば、局の異なる『ずっとあなたが好きだった』と『進め!電波少年』は、同じ1992年に始まっている。前者はマザコンの夫役の佐野史郎の強烈な演技が評判になって最終回には34.1%(ビデオリサーチ調べ。関東地区)という高視聴率を記録し、後者は「アポなし」ロケで名を馳せ、「猿岩石のユーラシア大陸横断ヒッチハイク企画」で社会現象的ブームを巻き起こした。


 いうまでもなく、両者はドラマとバラエティで、ジャンルも違っている。だが改めて見てみると、それぞれ「なんでもあり」の過激な設定や企画でありながら最後は感動の場面が待っているといったパターンの共通点も浮かび上がる。そこには、昭和が終わって平成に入ったばかりの時代のなかで、それまでのテレビの「お約束」を壊して新しいものを作ろうという、当時のテレビの並々ならぬ意欲と熱気が感じ取れる。


 要するに、ジャンルを問わずテレビ番組は、いまや時代を証言するアーカイブになったと言えるだろう。


 元来、テレビは一度見たらそれっきりで、流れ去るものとしてあった。だがその後家庭用ビデオデッキなどの普及によって個人で番組を録画して所有する時代になり、ドラマだけでなくバラエティもひとつの「作品」として繰り返し鑑賞する傾向が強まった。さらには平成に入ってネットが普及すると、オンデマンドサービスなどを通じて番組は公に共有されるもの、つまりアーカイブとなった。


 そうした歴史の流れの現在地を、今回の「TIMESLIP TVer」は示している。先ほどもふれたように、通常は見逃した番組やもう一度見たい番組を見るためのもので、あくまで地上波テレビのほうがメインだが、「TIMESLIP TVer」の場合は、ネットのほうがメインになっている。SNSを通じて、アーカイブを共有するバーチャルな「お茶の間」が生まれる可能性もあるだろう。今回は期間限定だが、そこには今後進むであろうテレビとネットの共存にとって参考になる部分もあるに違いない。


 いずれにしても、日本のテレビも1953年の本放送開始から65年以上の時を重ね、そろそろ自らの歴史を語るべき段階になった。


 もちろん世の中の最先端を行くのもテレビの変わらない魅力だ。だが、昭和から平成へとその時々の時代の空気を呼吸しながら、テレビは数多くの名作や話題作を生み出してきた。その点、テレビはすでに一種の文化遺産でもある。今回の「TIMESLIP TVer」は、後世に残すべきそうした「テレビ遺産」を真剣に考えるためのきっかけになり得るのではないかと思う。


(太田省一)