2019年04月10日 10:31 弁護士ドットコム
普段何気なく使っているGoogleのサービスだが、時にはトラブルが発生することもある。
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3月13日の昼ごろには、Googleが提供するGmailやGoogleドライブなどが使えなくなる障害が起きた。メールの送信ができない、ファイルを添付するとエラーになるといったもので、システム障害に伴って、支障をきたしたという人も多かっただろう。
最近は、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)全盛の時代と言われることもあるが、恐ろしいのは、すべてをGAFAに依存して、トラブルが起きてしまった場合だ。
例えば、もし普段は無料で使っているGoogleのサービスが全面的に崩壊して、ドライブ上に保存しているデータや、メールの記録などが消滅するなどした場合、何らかの法的請求をすることは可能なのか。藤井総弁護士に聞いた。
「今やGoogleのサービスはライフラインのように日常生活に浸透していますが、電気を利用するために電力会社と契約しないといけないように、Googleのサービスを利用するためにはGoogleとサービス利用契約を結ぶ必要があります。
契約を結ぶとはいっても、紙の契約書に押印するわけではなく、一般的にクラウドサービスには利用規約が用意されていて、ユーザーは利用規約に同意することを前提とした申込み(アカウント作成)を行うことで、いつの間にかサービス利用契約が結ばれていることになります。
この利用規約には、サービス利用契約の内容が書かれていますが、その中で特に重要なのが、トラブル発生時のサービス事業者の責任範囲です」
藤井弁護士はこのように説明する。
Googleのサービス利用規約を見てみると、「本サービスに対する責任」という項目で、以下のように書かれている。
「法律で認められる場合には、Google ならびにそのサプライヤーおよびディストリビューターは、逸失利益、逸失売上もしくはデータの紛失、金銭的損失、または間接損害、特別損害、結果損害もしくは懲罰的損害について責任を負いません。
法律で許されている範囲内で、黙示保証を含む、本規約が適用されるいかなる請求についても、Google ならびにそのサプライヤーおよびディストリビューターが負う責任の総額は、ユーザーが本サービスを利用するために Google に対して支払った金額を上限とし、または、Google が選択した場合には、再度ユーザーに対して本サービスを提供することに限定されるものとします。
いかなる場合においても、Google ならびにそのサプライヤーおよびディストリビューターは、合理的に予測することができない損失または損害については、何らの責任も負いません。
Google は、一部の国において、ユーザーが消費者としての法的権利を有する可能性があることを認識しています。ユーザーが個人的な目的のために本サービスを利用している場合には、本規約または追加規定の中のどの規定も、契約によって放棄することが認められない消費者の法的権利を何も制約するものではありません」
この利用規約について、どう考えればいいのか。 「利用規約を見慣れていない人がこれを読んでも、結局Googleは責任を負わないのか、それとも責任を負うのか、よくわからないでしょう。
混乱の原因となるのは、『責任を負いません』と繰り返し述べる一方で、『法律で認められる場合には』『消費者の法的権利を何も制約するものではありません』といった、『法律』に関する条件を設けている点です。なぜGoogleは、すっきり堂々と『一切責任を負いません』といわないのでしょうか。それは、ユーザーが消費者である場合、『消費者契約法』に違反してしまうからです」
消費者契約法とは、どのような法律なのか。
「事業者と消費者との間の契約において、一般的に弱い立場にある消費者を保護するための法律です。消費者契約法は、事業者の損害賠償責任の『全部を免除』する条項を無効とします。また、事業者の損害賠償責任の『一部を免除』する条項は、事業者に故意又は重過失がある場合は無効とします。
例えば、『いかなる場合も一切の責任を負わない』という条項があったとすれば、損害賠償責任の全部を免除しているので無効です。また、『いかなる場合も損害賠償の金額は月額利用料を上限とする』という条項も、損害賠償の一部を免除していますので、事業者に故意又は重過失がある場合には無効です。ちなみに『重過失』とは、結果の予見が容易に可能で、結果の回避が容易に可能であった場合のことです。文字通り重い過失を意味します。
これで、ようやくGoogleが利用規約で『責任を負いません』と責任を免除しながら、『法律で認められる場合には』『消費者の法的権利を何も制約するものではありません』といった法律に関する条件を設けていたのか、明らかになりました。Googleは、消費者契約法などの法律に反しない範囲で最大限、損害賠償責任を免除しているのです」
では、もしGoogleのサービスが全面的に崩壊し、ドライブ上に保存しているデータや、メールの記録などが一切なくなるなどした場合、ユーザーは何らかの法的請求をすることは可能なのか。
「ユーザーが消費者であれば、消費者契約法が適用されますので、もし障害の原因がGoogleの故意か重過失にあれば(そんな事態が起きるかどうかは別にして)、責任の全部免除も一部免除も無効なので、損害賠償請求は可能です。
Googleに過失はあったが重過失とまではいえなかった場合はどうなるのか。
「この場合、責任の全部免除は無効ですが、Googleは利用規約で『Google(中略)が負う責任の総額は、ユーザーが本サービスを利用するために Google に対して支払った金額を上限とし』として、あくまでも責任を一部免除しているので(全部を免除しているわけではないので)、直ちに無効にはなりません。
そうなると、『Googleに対して支払った金額』が損害賠償の上限金額となるわけですが、Googleのサービスの多くは無料で提供されており、支払った金額が0円の場合が多いでしょう。そのため、結局は1円も補償されないケースが多いでしょう。無料のサービスを利用するなら、何かトラブルがあっても補償はされない、ということは覚悟しておく必要があります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
藤井 総(ふじい・そう)弁護士
「世界を便利にしてくれるITサービスをサポートする」ことをミッションに掲げて、ITサービスを運営する企業に「法律顧問サービス」を提供している。ITサービスを提供する企業やIT関連部門、IT関連組織が法律顧問サービスの主な導入企業になり、その業種はASPサービス事業者、ISP事業者、EDI事業、ハードウェアメーカー、コンサルティングファーム、海外政府系機関等、多様。
事務所名:弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
事務所URL:http://www.itbengoshi.com