創設61年目のシーズンを迎えた2019年のBTCCイギリス・ツーリングカー選手権が4月6~7日に開幕。ブランズハッチのショートレイアウト“インディ”で争われた予選では、悪天候を味方につけた2017年王者、チームBMRのアシュリー・サットン(スバル・レヴォーグGT)がポールポジションを奪取するも、続くレース1ではタイヤチョイスを当てたBTCレーシングのジョシュ・クック(FK8ホンダ・シビック・タイプR)が移籍初戦で見事な逆転勝利。レース2では今季投入の新型BMW330i Mスポーツもデビューウインを飾っている。
2019年初セッションとなる最初のプラクティスからシリーズを席巻しそうな勢いを見せたのは、BMW UKのファクトリーバックアップを受けるウエスト・サリー・レーシング(WSR)が仕上げたブランニューモデル、7代目BMW3シリーズのG20型で、BMW Pirtek Racingのアンドリュー・ジョーダンがトップタイムをマーク。続くプラクティス2では移籍組のトム・オリファントを先頭に、BMW330i Mスポーツが1-2-3フォーメーションを築いていく。
しかしウエットコンディションへと変貌した予選で最速タイムを記録したのは、同じFRマシンでもスウィンドン・レースエンジニアリングがチューンしたフラット4ターボを搭載するスバル・レヴォーグGTだった。
「ポールを獲れてうれしいけど、正直言って予想外の結果だった」と語るのは、2017年BTCCタイトル獲得者のサットン。
「正直に言って天候が鍵だったと思う。僕たちはこれまでも、こうした悪条件下でいつも強さを発揮してきたからね。確かにFP1から悪くないペースを披露できていたけど、もしこれがドライのままだったら、トップ10で満足していただろうね」
フロントロウには昨季までサットンのチームメイトを務め、今季はボクスホール・ワークスのパワー・マックス・レーシングに移籍を決めた“悪童”ジェイソン・プラト(ボクスホール・アストラBTCC)がつけ、セカンドロウにはディフェンディングチャンピオンのコリン・ターキントンとオリファントのBMW2台が、そして3列目にはチーム・ダイナミクスのマット・ニール、ダン・カミッシュのFK8ホンダ・シビック・タイプRが並ぶグリッドとなった。
小雨が舞い、霧も発生するコンディションで迎えたレース1のスタート時点で、グリッド前方の上位勢はほぼ全車がソフトコンパウンドのレインタイヤを選択。シグナルが消えた瞬間にはポールシッターのサットンに続いて3台のBMWが躍進し、最前列から発進したプラトのボクスホールはFFモデルの宿命でスタンディングスタートでの前輪トラクションが充分に得られず、周囲のFR勢に飲み込まれて6番手にまでドロップすることに。
しかしオープニングラップを終えたタイミングで、コース上にいる誰もが「レインタイヤはミスチョイス」だと気付かされることに。
みるみるペースを失い行く先頭集団を尻目に、後方から猛然と追い上げを開始したのは、10番手からスタートを切ったBTCレーシング・ホンダのクックで、昨季までのFK2型から最新のFK8型にスイッチした新興チームにボクスホールから移籍し、初のマシンながらもグリッド上ではスリックタイヤをチョイスする“ギャンブル”に出ていた。
マットグレーにピンクのアクセントカラーが入ったFK8のクックは、オープニングラップこそわずかにポジションを落としたものの、8周目にはトップ10に復帰すると9周目には5番手、続く10周目には「まったくプッシュせず、ふつうに周回した」だけでレースリーダーに浮上してみせる。
レース中には最大で9秒ものマージンを築いたクックだったが、レース終盤に差し掛かったところでトラフィックに見舞われ、残り3周時点で今季から参戦を果たしたルーキードライバー、F1王者ルイス・ハミルトンの実弟であるニコラス・ハミルトンのフォード・フォーカスRSと接触して、ひやりとする状況にも陥りつつ、なんとか24周のレースを走破してトップチェッカー。シーズン初戦にして移籍後初勝利を決めてみせた。
そのシビックに続いて2位に入ったのも、予選15番手からスリックで賭けに出たTradePriceCars Racingのジェイク・ヒル(アウディS3セダンBTCC)で、最後の表彰台となる3位にも同じくスリックで勝負したモーターベース・パフォーマンスのトム・チルトン(フォード・フォーカスRS)が続いている。一方、レインを履いたポールシッターのサットンはなんとか9位に留まるも、BMW勢は軒並みトップ10圏外に去り、プラトもスリックへの履き替えで25位に終わった。
続くレース2は路面状況が改善したことでオープニングとはまったく逆の展開となり、15番手スタートのジョーダンがBMW330i Mスポーツのパフォーマンスを見せつける走りを披露。スリックでもハード目のプライムタイヤを装着した2013年王者は、抜群のオープニングラップですぐさまトップ10に浮上すると、9周目には3番手に。
ここからサットンのスバル・レヴォーグGTとともに首位のR1勝者クックを追い詰める展開となり、グラハムヒル・ベンドの攻防で首位に立ったサットンにピタリと追随して2番手に上がったジョーダンは、17周目のホームストレートでスバルに並び掛けると余裕のマージンを持って1コーナーでトップ浮上に成功。そのまま9秒ものリードを築いてBMW330i Mスポーツのデビュー戦で勝利を飾ることとなった。
「シーズン前のテストでも充分な距離を走り込めなかったことを考えれば、今日この素晴らしいマシンの最初の勝者になれて本当に光栄だよ」と、喜びを語ったジョーダン。
「WSRは本当に“箱から取り出したらすぐ勝てる”マシンを僕らに与えてくれた。ドライバーは大きな苦労もせずに、細部のセットアップですぐに速さを引き出すことができた。これはチームの仕事がいかに優れているかの証明だ。R1はタイヤチョイスが支配的な結果になったが、安全策を採ってもこうして週末に大量のポイントを稼げたんだから最高だ」
2位のサットンに続き、3位にはシシリー・モータスポーツのエース、アダム・モーガン(メルセデス・ベンツAクラス)が入り、4位にアウディのヒル。そして5位にはこちらもブランニューモデルのチーム・トヨタGB withスピード・ワークス・モータースポーツ、トム・イングラムのトヨタ・カローラBTCCが入っている。
最終のレース3はリバースグリッドの3番手からスタートしたチルトンがトップチェッカーを受けたものの、序盤でのバトルでマット・ニールのFK8シビックと接触した際、彼のマシンにダメージを与えてポジションを得たとの裁定を受け5秒のタイムペナルティ加算に。
これにより、4番手からスタートしたCobra Sport AmDチームのロリー・ブッチャー(FK2ホンダ・シビック・タイプR)が自身とチームにとっての初優勝を飾っている。