バーバー・モータースポーツパークで開催されたインディカー・シリーズ第3戦。予選でポールポジションを獲ったのは佐藤琢磨、予選2番手はグラハム・レイホール。第3戦ホンダ・グランプリ・オブ・アラバマでレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングがフロントロー独占した。
開幕2戦の彼らの予選順位は、琢磨が20番手と14番手で、レイホールは2戦とも10番手で、これは予想外の結果だった。当の本人たちもバーバー・モータースポーツパークでの自分たちのパフォーマンスに驚いていた。
前年より大きくグリップ力の下がっていた路面のためか、チーム・ペンスキーとアンドレッティ・オートスポートという強豪2チームが予想外の苦戦。彼らのドライバーは誰ひとりとして予選ファイナルに進むことができなかった。
琢磨はそんな中、Q1で1分08秒7171を出して5番手、Q2は1分08秒6234にタイムを縮めて4番手につけ、今年初の予選ファイナルとなるファストシックス進出を決めた。
ポールからの上位6グリッドを競うファストシックス。琢磨はハード・コンパウンドのブラック・タイヤによる連続周回でベスト・ラップ記録を目指した。
しかし、ソフトコンパウンドのレッドタイヤが正解だったと気づき、ピットでレッドで履き替えて1ラップのみのアタックを敢行。
1分08秒5934(平均時速120.711マイル)という自己ベストは、コースによりラバーが乗った状態だったとはいえ、ユーズドレッドで記録された。
今季初、キャリア8個目のポールポジション獲得だ。走行を重ねる度にスピードアップをしていき、最後のアタック・ラップでの大逆転のPP。琢磨にとっては大きな達成感の得られる、劇的な予選となった。
琢磨のチームメイトのグラハム・レイホールは、1分08秒6971でトップにいたが、琢磨が彼を2番手に押し下げた。
それでもレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、ダニカ・パトリックとバディ・ライスによる2005年のシカゴランド以来となる予選ワンツーを実現。
グラハムも「昨年は好成績を残せずにいたが、チーム全体が頑張り続けてきた。その成果が今日の予選結果に現れている。みんな充実感を得ていることと思う」
「昨年は見られなかった笑顔が今日の我々のピットにはあった」と喜んでいた。
予選3番手はスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、4番手はジェイムズ・ヒンチクリフ(アロー・シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)、5番手はセバスチャン・ブルデー(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・ヴァッサー・サリヴァン)とペンスキーとアンドレッティがいなくてもインディカーの競争がレベルダウンすることはなく、激しい戦いの末にフロントロー独占は達成されたのだ。
アップダウンに富み、リズム良く駆け抜けることが必要なバーバーのコースでは、ホンダエンジンにアドバンテージがあるのか、彼らのエンジンユーザーが予選でトップ5を占めた。
シボレー最上位はエド・カーペンター・レーシングのスペンサー・ピゴット。Q3初出場の彼だが、Q1で今年のバーバーでの最速ラップとなる1分08秒3548をマークした。
しかし、ユーズド・レッドでの勝負となるQ3で1分09秒台しか出せず、ファストシックス最下位の6番手となった。それでも、3人の元チャンピオンを起用する3台体制のチーム・ペンスキーを予選で上回ったのだから、ピゴットとチームは自信をつけることができただろう。
琢磨は「ポール獲得は最高の気分。自分にとってはインディカーのロードコースでの初PPだし、チームでフロントロー独占だし、夢のリザルトです」と喜び、その後には、「明日のレースが大事。そのためにも決勝前のウォームアップでマシンを競争力あるものに仕上げないと」と気を引き締めていた。
プラクティス1で発覚したスピード不足をとうとう予選までで解消できなかったペンスキー勢。彼らの予選結果はウィル・パワーが7番手、シモン・パジェノーが14番手、ジョセフ・ニューガーデンが16番手だった。
ニューガーデンは過去2年続けてバーバーで勝っているだけに3人の中で最も後方グリッドというのは衝撃的ですらあった。
■快走を見せた佐藤琢磨の決勝レース
決勝日もバーミンガムは晴れ。雨に終始する週末という予報は幸いなことに外れた。雨は夜間にだけ降ったのだった。
チームメイト同士がフロントローに並んだスタートは、メインストレートでの加速でポールシッターの琢磨が俄然速く、ターン1にアプローチする遥か前でトップ確保を決めてた。
加速が今ひとつだったグラハムは予選3番手のディクソンからの猛アタックを受けたが、これをギリギリのところで凌いで2番手を守った。
琢磨は2番手以下に明確な差をつけてトップで周回を重ねた。グラハムも2番手をキープ。3、4番手も予選順位通りにディクソン、ヒンチクリフと続いていた。
スタートでポジションをふたつ上げて6番手になったのがアレクサンダー・ロッシで、パワーは10番手まで三つ順位を下げた。
早めのピットインで活路を見出そうとするチームが次々現れる一方で、2ストップの作戦に出るところもあった。
琢磨は17周を終えるところでピットへと向かう。トップグループから先頭を切ってのピットインだった。これでトップはグラハムが立ったが、彼はディクソンを引き連れて次の周にピット。ここでトラブルがあり優勝戦線から脱落した。
ここから琢磨vsディクソンのバトルは始まり、そこに2ストップのブルデーが加わった。ロッシは最後までトップ3のペースに追いつくことができず、最初のピットストップを8周で行う作戦が成功して最終的に4位フィニッシュしたニューガーデンもトップ3に脅威を抱かせるだけのスピードはなかった。
琢磨の快走は続いた。アクシデントやトラブルによるフルコースコーションが邪魔をすることもなく、彼は今シーズン初、キャリア4勝目へと走り切った。
ビクトリーレーンで琢磨は、「チームのおかげ。今日のマシンはタイヤがレッドでもブラックでも本当に速かった」
「ポール・トゥ・ウインはインディカーでは初めて。イギリスF3時代以来だ。今週、これだけ他を圧倒する勝利を飾ることができるなんて思っていなかった」と話した。
琢磨が冷やっとしたのは残り5周でのコースオフ。ターン8でラインがアウト側に膨らみ、芝に飛び出した。
しかし、マシンにダメージはなく、タイムロスも小さく抑えてコースに復帰し、最後までディクソンにアタックのチャンスを与えなかった。
「ある程度の間隔を保ち続けて走り続けていたのは、そうなることを目指して懸命にプッシュしていたから。燃費をセーブしながらも必要な時にはプッシュ・トゥ・パスを使って走っていました」
「最後の10周はかなりハードで、ターン8前のバンプでバランスを崩しました。でも、あそこで飛び出してもまっすぐに行けばマシンにもタイムにもダメージがないとわかってもいました」と琢磨は振り返る。
バーバーでの決勝、琢磨はレースを通して最速だった。終盤にコースオフするミスはあったが、それでもトップを明け渡さないだけのリードが築いてあった。
新品レッドの後にブラックを三連投というタイヤマネジメントは琢磨とディクソン、1位と2位となったふたりが同じだったが、最後にペースダウンを余儀なくされたのはディクソンの方。
琢磨に彼がアタックし、サイド・バイ・サイドになるようなシーンはとうとう一度も見られなかった。琢磨がレースを支配し切っていたということだ。
ディクソンのバーバーでの2位フィニッシュは、これで6回目だ。
「いつか勝てる日が来ると願っているが、今日は2位でハッピーだ。琢磨の走りは素晴らしく、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングが見事な勝利を納めた。僕らは多くのポイントを稼げたことを喜びたい」とディクソンは話した。これで早くも今シーズン2回目の2位。ランキングもキッチリ2番手につけている。
ブルデーも3位フィニッシュで今シーズン初めての表彰台に上り、納得顔だった。
シボレー最上位の4位は16番手スタートだったニューガーデン。予選までの苦境から抜け出し、決勝でのマシンは非常に安定感のあるものになっていた。
レース中のファステストラップはウィル・パワー、2番手のタイムはニューガーデンが記録。ペンスキーの3人の中も最も安定した走りを見せていたのがニューガーデンだった。開幕戦優勝、第2戦2位だった彼はバーバーでは表彰台に後一歩届かなかったが、3戦連続トップ5入りで彼はポイントスタンディングのトップを保っている。
開幕3レースで3人のウイナーが生まれ、3つの異なるチームが1勝ずつを記録。今シーズンもインディカー・シリーズは信じられないほどの混戦になっている。