「部下が指示待ち人間で困る」「なぜ自分の頭で考えないのか」と悩むリーダーは少なくないでしょう。しかし、"指示待ち部下"は、上司であるあなた自身が作りだしているかもしれません。今回ご紹介する『ケンタッキー流部下の動かし方』(あさ出版)は、主体性のある部下を育てる手法を、自分に合うやり方で知ることができる一冊です。
著者は、ケンタッキーフライドチキンを運営する日本KFCホールディングスで26年あまり人材育成トレーナーを務めた森泰造氏。飲食業界は正社員の半数近くが3年以内で辞めていくのがほとんどの中、2015年に行なった新入社員育成改革で「新入社員の2年以内離職率ゼロ」を達成した実績の持ち主です。
著者によれば、リーダーは次の5つのタイプに分けられるといいます。
・「自分のやり方にこだわりすぎる」
・「部下に対し厳しさが前面に出てしまう」
・「部下にやさしすぎる」
・「短期的な結果を大切にする」
・「部下に上から目線」
本書では、自身がどのタイプか判定するチェックリストとともに、タイプ別で読むべきポイントの章を教えてくれています。(文:篠原みつき)
指示待ち部下は「指示が来る」と思うから待っている
本書で印象的だったのは、まず、なぜ部下が"指示待ち人間"なのかを説く部分です。
「"指示待ち人間"部下の育ての親は、リーダーであるあなたです。リーダーがいちいち細かく指示をしていると、部下は「言われたことだけこなしていればいい」と考えるようになります」
「『アドバイスしたら終わりだ』これは、私がリーダー向けの研修で必ず言う言葉です。リーダーがアドバイスしたとたん、部下は考えることをやめ、アドバイスされた通りのことをやるようになります。そして、自ら工夫して創造的な仕事をするという発想がなくなり、"指示を待つことが仕事"という部下が出来上がるのです」
なんとか部下を育てようとあれこれ指示することが、却って部下のモチベーションを下げているのです。自分から動く人になってもらうには、リーダーが「自ら動かなくては」と部下に思わせる環境を作ることが大切です。
とはいえ「指示や命令をしないと不安」「任せることで失敗したら大変」という心配もあるでしょう。ケンタッキーでは、「コーチング&サポート」を推奨しています。相談されてもすぐ正解を言うのではなく、部下の話を聞いたうえで部下に自分の頭で考えさせ、自ら導き出した考えに従って行動させる。そしてミスしそうになったらフォローする。この繰り返しで、指示待ち人間ではなく自らの頭で考えて動く人材が育つといいます。
同時に大きなビジョンを示して仕事の意義を伝える、任せっぱなしではなくフィードバックする、責任はリーダーがもつなど、部下の不満を愚痴る前に、やることは色々あるとわかります。
「良い接客だね」ではなく「手がふさがったお客様のドアを開けてあげたよね」できるだけ具体的に褒める
「ほめて伸ばす」が良いとされる昨今ですが、本書では「むやみやたらにほめても部下は成長しません」と断言しています。上司が部下をほめる理由は、部下を成長させて組織やチームとして成果を挙げるため。それには、しかるべきタイミングで伸ばすべき「行動」をほめることが重要です。
離職率の低いケンタッキーは、「レコグニション=称賛」の文化があり、良い働きをわざわざ探し出してほめ合うことに力を入れています。店長は常に愛情をもってメンバーを観察し、「良い接客をしていたね」ではなく「手がふさがったお客様のドアを開けてあげていたよね。ありがとう」など、具体的に、できるだけ直後にその場に駆け付けてほめるといいます。
すると何が良かったのか明確になり、他の従業員にも行動の規範を示せます。何がほめられるのかはっきりさせることで、組織力のアップにつながるのです。
加えて、認められることで職場に居場所がある安心感が生まれます。レコグニション文化のある組織では、職場が働く人にとって輝ける場所となり、定着率も上がっていくのです。
叱る前にルールを明確に、「こんなミスをするなんて、いったいどうしたんだ?」と「期待」を込めて叱る
一方で、「叱る」場合はルールの基準をあらかじめ共有しておくことが前提です。「知らなかったのに叱られた」では、反感や不信感が生まれてしまいます。
何よりのNGは「こんなミスをするなんて、だから君はダメなんだよ」などと人格否定すること。逆に相手を気遣いつつ、「こんなミスをするなんて、いったいどうしたんだ?」と、本当ならできるはずという期待を込めながら叱ると、人は期待に答えようとします。リーダーの言い回し一つで、部下のモチベーションを高めることができると感じられれば、リーダーの仕事自体が楽しくなっていくのではないでしょうか。
2018年4月に経団連が発表した「産業界が学生に求める資質、能力、知識」の1位は「主体性」でした。若者に主体性を求めるなら、リーダーがそれを引き出す意識を持つべきでしょう。現在管理職の人はもちろん、ぜひ若いうちから、一朝一夕では身につかない「組織を動かすコツ」を、本書で学ぶことをお薦めします。