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ノルウェー発ジャズコレクティブ集団WAKO、来日独占インタビュー「インタープレイは僕らの強み」

2019年04月06日 11:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ノルウェー発の次世代ジャズコレクティブ集団・WAKOが今、世界のジャズファンから熱い視線を集めている。独特の浮遊感と情熱的なインタープレイ、卓越したメロディセンスで北欧ジャズの中でも抜きん出た存在感を放つWAKO。今から6年前、音楽の街トロンハイムのノルウェー科学技術大学ジャズ科で結成されたWAKOは、2015年には1stアルバム『The Good Story』を発表。彼らの深く真摯なフリージャズサウンドは、たちまちノルウェー音楽界を席巻し、その後も地道なツアー活動で世界各国に幅広いファン層を獲得してきた。


 昨年8月には3枚目のアルバム『Urolige sinn』をリリースし、同作は発売から2カ月もせずにSpotifyで10万ダウンロードを記録。今回、世界ツアーの一環として、3月に初来日を果たしたシェーティル・アンドレ・ミュレリッド(ピアノ)、マーティン・ミーレ・オルセン(サックス)、バルー・ライナット・ポウルセン(ダブルベース)、シーモン・オルダシュクーグ・アルバートシェン(ドラム)の4人に、独占インタビューを行った。(落合真理)


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■即興こそが僕らのトレードマーク


――まずタイトルの『Urolige sinn』は英語で「Uneasy minds」という意味ですが、その由来から教えてください。


バルー:タイトルは、ジャケット写真の題名「Skavlet Fore」に関係している。雪山をスキーで行く男の写真はドキュメンタリー写真家アンデシュ・ベア・ヴィルセが1909年に撮った写真で、skavは雪の質を意味しているんだ。タイトルには僕たちの世代を指す『Snowflake Generation』(傷つきやすい世代)も考えたけれど、ノルウェー語にこだわりたくて、結局『Urolige sinn』(落ち着きのない心)にした。僕たち世代はいろいろな選択肢があるが故に何を選んでいいのか、わからない「キレやすく混乱した若者たち」と呼ばれていて、そこにも引っかけたんだ。


シーモン:アイデンティティのない世代という意味でね。


――なるほど。そもそも4人は同じ大学に通っていたんですよね。


マーティン:大学のジャズ科で出会ったんだ。一緒にプレイし始めたのは2013年かな。


シェーティル:僕とシーモンとバルーは同じクラスで、マーティンは1つ上のクラスにいた。小さなコミュニティだから、お互いのことを知っていたし、学生時代からずっと一緒にプレイしてきたんだ。


――シーモンとバルーは5月に来日するEspen Berg Trioのメンバーでもありますが、エスペン・バルグはジャズ科の教授の1人ですよね。彼からはどんな影響を受けましたか。


シェーティル:実は僕も彼からピアノレッスンを受けていたんだ。2年くらいかな。試行錯誤していた時に、たくさんの課題を出してくれたおかげで、自分のスタイルが確立されていったといえるよね。


バルー:僕とシーモンにとって彼は恩人だね。彼とプレイするようになって初めて幾何学的な音や難しいハーモニーを知ったし、そのおかげでオーガニックな音楽を心掛けるようになった。


シーモン:彼の音楽は複雑なので、深いレベルでの理解が必須なんだ。高度な技術が必要とされるので心して臨まないとロボットが演奏しているみたいになってしまう。でも成功すれば、最高の場所に辿り着くことができる。彼は僕らをプロフェッショナルのレベルに引き上げてくれたし、日本を含め、僕らが今まで見たことのない景色を見せてくれた。


――他には、どのようなアーティストに影響を受けましたか。


シェーティル:それはちょっと答えるのが難しいね。僕らWAKOは4人でひとつのカルテットで、バンドなんだ。それぞれの声を持つ、ひとつの共同体でもある。


シーモン:名前をあげればキリがないね。僕ら皆、別のものを聴いているし、それぞれ異なるから、ダイナミクスが生まれ、ユニークな音楽がクリエイトされる。WAKOは僕が経験したバンドの中でも最も平等主義だと思う。このバンドにリーダーはいないしね。


バルー:作曲はマーティンとシェーティルがメインだけれど、ほとんどは全員が即興で参加しているんだ。


――バンドの即興性はWAKOの面白さでもあり、特徴ですよね。


シェーティル:僕らはコレクティブバンドなんだ。即興こそが僕らのトレードマークで、僕ら4人はお互いに影響し合っている。ほとんどの曲はステージ上で、その場で作られているんだ。


シーモン:インタープレイは僕らの特性であり、強みなんだ。リーダーがいたら、その人の趣向がバンドの方向性を決めるんだろうけれど、僕らにはそれがない。逆にいえば、それは弱点だけれど、僕らの場合、突き進めば突き進むほどユニークな音楽が生まれる。


――WAKOならではの音楽ですね。アルバムの中で、それぞれお気に入りの曲があれば教えてください。


バルー:シェーティルが書いた「En liten halvtime senare」だね。シンプルなハーモニーでありながら、とてつもなく入り組んでいる。コード進行が予測不可能なんだけれど、メロディはキャッチー。この曲はいつもライブで披露していて、来日前にコペンハーゲンでMVを撮ったばかりなんだ。


シーモン:僕のお気に入りではないな。いい曲だけど。(他メンバー笑)僕は2曲目の「Skavlet Føre」。ユニークで特別な魂が宿っているからね。


シェーティル:両方とも僕の曲だから、マーティンの「Snart blir jeg far」かな。「もうすぐ父になる」という意味なんだけれど、彼にそんな予定はないはずなんだ。なんかおかしいよね。この曲は美しいチューンで、ライブでやるといろいろな展開が起こるんだ。


マーティン:全員が一緒にこれらの曲を作れたことを誇りに思うよ。WAKOならではの瞬間がつまっているよね。僕のお気に入りは……タイトルは覚えてないな。


シーモン:タイトルはどれも後でつけたからね。


マーティン:お気に入りというのはわからない。全部の曲でひとつだし、アルバム全体を反映しているからね。


■ただ音楽を愛しているという気持ちだけで前進してきた


――バンドとしての結束力がとても強い4人ですが、お互いに、どのような影響を与え合っていると思いますか。


シーモン:バンドとしてビジネスを始める前から、友だちだったということが大きいよね。


シェーティル:他のバンドでは珍しいんじゃないかな。僕らは兄弟みたいだからね。しかも、それぞれ忙しいので、すごくインスピレーションを与えてもらっているよね。シーモンとバルーはEspen Berg Trioで香港や日本に行ったり、マーティンは優れた作曲家でオーケストラの楽曲も多く手掛けている。昨年はベスト・ジャズ・レコードでノルウェー・グラミー賞も受賞しているし。だから4人共、あらゆる角度に向かって影響を与え、受け合っているんだ。


シーモン:学生時代からずっと一緒にプレイしていることが僕らにとって重要なんだ。大学卒業後は本当にお金がなくて注目もされていなかったけれど、だからこそ音楽を諦めずに、活動を続けることが大切だった。僕らには何もなかったけれど、ただ音楽を愛しているという気持ちだけで前進してきた。


シェーティル:この2年はノンストップでがむしゃらにやってきた。最初は楽しいから、やっていただけだけれど、最近は少しずつ大きなステージでプレイできるようになった。少しは気付いてもらえるようになったかな。


――最後にWAKOの次のプロジェクトを教えてください。


シェーティル:年内にはレコーディングに入りたいと思っている。あと9月には2枚目のアルバムで共演したストリングスとのコンサートが入っている。マーティンが作曲した楽曲で1年半ぶりのビッグプロジェクトだ。実はWAKOがこんなに、いろいろなプロジェクトをするようになったのは、エスペンがくれたホームワークがきっかけなんだ。


シーモン:(笑)。マジで!


シェーティル:リトミックの宿題があって、いろいろな曲を書いてみたんだ。ジャズスタンダードから、フリーインプロビゼーション、ストリングスなど、WAKOの基礎となる曲の数々をね。そこから今のWAKOが生まれたんだよ。


バルー:それらがWAKOのベーシックになっているし、WAKOの音楽はボーダーレスなんだ。今夜もWAKOは下北沢の雰囲気に合わせて、新しい音楽を作り出そうとしている。それってシンプルなことだよ。だって僕らの気分にあわせて、その場でプレイするだけだからね。


***


 下北沢AppoloでのWAKOのステージは、メロディアスでありながら挑戦的で、オリジナリティに富んだ即興演奏が、まるでひとつの映画を観ているようであった。4人の創出する予測不可能なインプロビゼーションと怒涛のインタープレイこそが、WAKOのアイデンティティであり、醍醐味なのだと確信させられた夜であった。今後もWAKOの一層の成長と進化を期待したい。