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DEAN FUJIOKAと観客が手を取り合って生んだ新たなヒストリー アジアツアー東京公演レポ

2019年04月06日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今年1月に自身2枚目のアルバム『History In The Making』を発表し、2月から初のアジアツアー『DEAN FUJIOKA 1st Asia Tour 2019 “Born To Make History”』をスタートさせたDEAN FUJIOKA。その東京公演最終日が3月30日、NHKホールで開催された。


(関連:DEAN FUJIOKA、自身初のアジアツアーへの想い語る「香港がスタートだとすると台湾は学校」


 今回のツアーでは、国際派俳優として活動する彼のキャリアを反映するかのように、国内外を含む11都市で13公演を敢行。中には過去にライブで訪れたことのなかった日本の土地や、彼がモデル/俳優デビューを果たした香港、上海、俳優として評価を得た台湾も含まれている。この東京公演は、香港や上海、台湾といった海外でのライブに向かう前の日本でのファイナル公演。ギターロックやヒップホップ、エレクトロニックミュージックなどを筆頭にボーダーレスな音楽要素を楽曲に詰め込んできた彼の今が伝わってくるような夜だった。


 まず印象的だったのは、冒頭のオープニング演出だ。今回は初のアジアツアーとあって、中国の時代劇風のオープニングSEが会場に鳴り響くと、そこにアーメンブレイク風のドラムビートが重なり、サウンドプロダクションが一気にEDM以降のクラブミュージックに変化してDEAN FUJIOKAがステージに登場。過去の様々な音楽への興味を反映させながら、同時にそれを“今のもの”にアップデートする彼らしい方法で、今のアジアの雰囲気が表現されていく。そのまま「Permanent Vacation」がはじまると、早速「東京!」と観客を煽り、大歓声の中でフューチャーベース風の揺れるシンセなども取り入れたモダンなエレクトロ/ポップサウンドが会場に充満。中盤以降はDEAN FUJIOKAがシンセを担当し、バンドと観客を「もっともっと!」と手で煽って、演奏の迫力や熱気がぐんぐん増していく。こうした1曲目のパフォーマンスにも顕著な通り、この日のライブは過去の公演と比べても、バンドとのより親密な駆け引きの中で演奏を盛り上げていく傾向がますます顕著になっており、ミュージシャンとしてのキャリアを重ねて進化した現在の彼らしい雰囲気だった。


 以降も様々な音楽性を横断する、DEAN FUJIOKAらしさが詰まった楽曲を次々に披露。観客のカラフルなペンライトに包まれながらはじまった「Speechless」では途中トラップ風のフロウを披露し、EDMスタイルの「S.O.F.」ではマイクスタンドを掲げて観客を煽るなど、サウンド/ライブパフォーマンスともに様々な表情を見せていく。MCでは国内外を含むツアーらしく冒頭に英語のMCを披露すると、その後日本語で「みんな来てくれてありがとう! 後悔はさせない。最後まで楽しんでいってください!」と伝え、「Thirsty」を皮切りにデビューアルバム『Cycle』期の楽曲を5曲続けて披露するメドレーへ。「Midnight Messenger」のmabanuaによるリミックスバージョンも加えながら、UKロック、エレクトロポップなど様々な音楽性が会場を覆う。「Sweet Talk」では原曲以上にメロディアスなギターフレーズが追加されるなど、ライブならでは、そして今だからこその工夫がされていることも印象的だった。冒頭に四つ打ちのビートを大胆に取り入れ、サビで原曲にも通じるジャズ風のアレンジに戻った「April Fool」では、途中バンドメンバーの紹介をはさんで、DEAN FUJIOKAがビートボックスをはじめると、盛り上がる観客に向けて「この世で一番飛べるのは、DEAN FUJIOKAのダブステップ!!」と告げて、会場をさらに盛り上げる。周知の通り、これはどついたるねんのライブパフォーマンスをきっかけにSNS上で話題となったフレーズ。それを自身のステージに取り入れたライブならではの演出に、歓声が止まらなかった。


 その後は〈世界で一番幸せな/二人になろう〉という歌詞に楽曲が切ない意味を加える「Maybe Tomorrow」を挟んで、「Accidental Poet」では椅子に腰かけた彼がFrancis And The Lightsや、Bon Iverの『22, A MILLION』を思わせるゴスペル風コーラスをリアルタイムで生成するなど、最新アルバムに詰め込んだ実験の数々がステージ上で再現されていく。とはいえ、この日さらに印象的だったのは、これまで以上にアレンジを大胆に変更した終盤のメドレー群だ。ここでは「Newspaper」「Banana Muffin Blues」といったロック/パンク曲を皮切りに、続く「Showdown」も原曲とは異なるパンキッシュなアレンジで演奏され、ついには「Priceless」もパンクロック風のアレンジに。過去のライブではしっとりとした曲調で観客と合唱することもあったこの曲が、まったく別物と言っていいほど疾走感溢れる曲に生まれ変わっていく。様々な楽曲をリリースしてきた今だからこそ、そうした楽曲を使って“遊ぶ”ような雰囲気が、ライブをより魅力的なものにしていた。


 そしてDEAN FUJIOKA流の「桜ソング」として最新アルバムに収録された「Sakura」に続き、彼流の「みんなのうた」として未来を担う子供に向けられた「DoReMi」を披露する、いわば合唱ソングパートへ。とはいえ、「Sakura」はジャジーなトラックとDEAN FUJIOKAのラップを融合させたアーバンな曲調で、「DoReMi」にもトラップ特有のフロウが挿入されるなど、様々な音楽的なアイデアが詰め込まれている。以降は彼のヒット曲のひとつ「Let it snow!」を披露。「この曲は、ここにいるみなさんへの応援歌です。一緒に未来を作っていきましょう!」と伝えてはじまったアンセム「History Maker」では、サビで拳を天井に掲げ、会場いっぱいに観客の大歓声がこだまする。続く最新アルバムのタイトル曲にして中国語で歌われる「History In The Making」では、〈Put your hands up〉というコーラスを観客が合唱する中、左右のスクリーンに日本語の歌詞を表示。「共に未来を作ろう」「共に時代を作ろう」という自身のメッセージを伝えて本編を終えた。


 アンコールでは「Echo」や「Legacy」、そしてDEAN FUJIOKA自身のふるさと=福島県のことを歌った歌詞が、「故郷を持つすべての人々の歌」へと変わる「Fukushima」を経て、ラストはデビューアルバム『Cycle』の1曲目「My Dimension」を披露。アコースティックギターのストロークにあわせて、左右のスクリーンに「DEAN」「FUJIOKA」の文字が映し出され、UKロック風のメロディにカニエ・ウェストの「Stronger」辺りにも通じるラップが乗る、彼らしいボーダーレスな楽曲に観客の大合唱が生まれて、この日のライブを終えた。


 今年1月にリリースした『History In The Making』は、前作『Cycle』以降に制作された楽曲が、ここ数年間の彼の音楽活動のドキュメンタリーのように制作順に並べられている。そのうえで最終曲の「History In The Making」では、「ここからみんなで新たなヒストリーを作ろう」と未来への気持ちが歌われていた。音楽活動をはじめた最初期の楽曲から最新の楽曲までを横断しながら、ライブならではのアレンジも加えて観客とともに一体感を生み出したこの日のライブは、まさにDEAN FUJIOKAと観客が手を取り合って生んだ新たなヒストリーのひとつであり、彼のこれまでの感謝と未来への期待とが、同時に伝わってくるような一夜だった。(取材・文=杉山 仁)