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「ガンダム」を描いた“職人”大河原邦男のメカニックデザイン論 「重要なことはいつの時代も同じ」【インタビュー】

2019年04月05日 19:22  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

大河原邦男
4月16日まで東京・3331 Arts Chiyodaにて開催されている展覧会「ラフ∞絵」。
秋本治さん、天野喜孝さん、高田明美さんと共に参加するのは、メカニックデザイナーの大河原邦男さんだ。

『機動戦士ガンダム』や『装甲騎兵ボトムズ』、『タイムボカンシリーズ』をはじめ、数多くのメカニックデザインを手がけてきた大河原さんは、どのよう経験や環境を経て多彩なデザインを生み出すに至ったのか?

その原点やデザインを生み出すプロセスなど、パーソナルな部分を語ってもらった。
[取材・構成=石井誠]

■幼い頃から触れて来たミリタリーメカニックとメカに対する好奇心
――大河原さんのメカ好きとなる原体験は、どんなものだったのでしょうか?

大河原
私は1947年生まれで、生まれる2年前までは日本は戦争をしていたんです。
そんな環境なので、幼い頃には本物の兵器を見る機会がたくさんありました。

うちの近くに米軍基地があり、進駐軍の姿を良く見ましたね。
ちょっと離れたところにある多摩川の北側は調布の飛行場でしたし、近くを通る府中街道から少し入ったところに旧陸軍の弾薬庫があって、それを米軍が接収して利用していたということもあって、弾薬を運ぶ軍用車や道路整備に使われた米軍の重機も子どもの頃には相当見ていたんです。
そういう環境がメカ的な原点になります。

当時は、空を見上げると、ロッキードのF-104という戦闘機が厚木基地と横田基地を行き来している姿が見えて、米軍兵が乗るウィリスMBというジープが走り回っている。
『装甲騎兵ボトムズ』の監督である高橋良輔さんと話をすると、同じような原体験があるからかメカの感性が似ているんですよね。

――そうした環境は後にミリタリーテイストのメカをデザインするのに影響していそうですね。

大河原
そうですね。デザインという部分では、小学校時代から図画よりも工作が好きな子どもでした。
小学校時代と言えば、今からもう60年くらい前になるんですが、その頃に教えてくれていた先生がレジンなどの当時としては珍しい、特殊な素材を工作に使わせてくれて、授業でブローチを作るというような立体造形を体験させてくれたのも影響しているのではないかと。

また、うちの蔵にあったアナログの蓄音機や電気蓄音機なんかの機械をいじっているうちに、内部構造などが気になって分解しちゃうんです。

その後、今度はその部品を使って何かを作ろうとしたりと、そんな感じで遊んでいたのでメカに対する憧れや親しみというのは子どもの頃からずっと持っていましたね。

――デザイン的なものでは、どんなものに魅力を感じていましたか?

大河原
ミリタリーものは、製造しやすくて丈夫というような、機能からくる美しさに魅力を感じましたね。
現在主流の樹脂をメインとした感性ではなく、溶接したりネジ留めしたりという金属的な要素が好きで、それが後に金属加工に目覚めていくことに繋がっているんじゃないかと思います。

■「アーティスト」ではなく「職人」であるというこだわり

――今回参加されている「ラフ∞絵」展では、デザインの工程が展示されるわけですが、普段はどんなプロセスでデザインをされるんでしょうか?

大河原
作業としては、赤鉛筆を使って大まかな形を描いて、そこからデザインを詰めていくのが主流ですね。
今回、一緒に参加される秋本治さん、天野喜孝さん、高田明美さんたちと、それぞれが描く代表作をモチーフにイラスト化する「チェンジ・アンド・チャレンジ」という企画がありまして。
私は、自分の描きやすいようにメカに置き換えてみようという形でイラスト作成しています。

私の場合、ロボットなどのメカは民族衣装や仏像などからヒントを得てデザインしていくので、キャラクターも同じような感覚でメカに置き換えるという形で描かせてもらいました。
作業していて一番楽しかったのは、高田さんの『魔法の天使 クリィミーマミ』ですね。


――どういった部分が楽しく作業されたポイントですか?

大河原
私には、こういう色味のデザインのオファーというものがほとんどないんです。
だから、マーカーも金属的な色味を使うことがあっても、こういうパステルな色はほとんど使ったことがなくて。

今回は、『クリィミーマミ』のいくつかの要素をまとめて1枚の絵にするというイメージで描かせてもらいました。

――大河原さんは、よくご自身のことを「アーティストではなく職人だ」と仰っていますが、仕事のスタイルに関してもそういう姿勢が出ているのでしょうか?

大河原
私の場合、この業界に入ったのは生活のため、仕事をしてお金をいただくということが根底にあるんです。
私が業界に入った1970年代から80年代にかけては、アニメの企画が立てばそのほとんどが放送されてしまうような勢いのある時期で、1週間に4本や5本の作業をするのは当たり前でした。
そういう状況の中で合理的に仕事をして、1本の仕事のギャラは安くても、4本やれば4倍になる。そういう生き方をして来たんですよね。

このスタンスは、アーティストではなくて、職人なんですよ。
アーティストだったらそうした作業の仕方を許せなくなると思うんですが、私はそうした割り切った仕事が許せてしまう。
ちゃんとギャランティがいただけるオファーという形でなければ自分の趣味で絵を描くことはないので、今回「ラフ∞絵」展に参加する4人の中では最も異質かもしれないですね。

絵を描くより立体として作る方が好きなので、今回の展示では絵だけではなく、自分で作った立体物も展示しています。


――普段のお仕事は、イラストやデザイン画といった完成したものが、納品形態であり到達点であるわけですが、こうした仕事の工程を見せるということに関しては、どのように感じますか?

大河原
納品したものがフィニッシュになるわけですから、こうしたものを見せることはほとんど無いですよね。ラフに関しては廃棄処分にされることがほとんですから。

今回展示するデザイン画に関しても、『科学忍者隊ガッチャマン』などの70年代前半からの仕事は、ラフなどは何も残っていないんですよね。
他の作品でも、フィニッシュにつながるラフや企画したけど放送に辿り着けなかった作品の絵などが残っていたので、そういうものを展示しています。

それらもプロデューサーの布川ゆうじさんがこういう企画を立てなければ、日の目を見ないものばかりですね。

――本展覧会の見どころはどこにあると思いますか?

大河原
一緒に参加する秋本さん、天野さん、高田さんはみなさん名の通っている方で、過去の作品を背負っているわけですから、かなり面白い展示になっていると思います。
一度で4人分のバラエティ豊かな展示を一度に見られるような展覧会はなかなかありません。2週間という短い開催期間ですが、ぜひ多くの方に見に来ていただきたいです。
→次のページ:大河原流のデザイン完成までのプロセス


■大河原流のデザイン完成までのプロセス
――デザイン作業に関しては時間をかけるタイプではないという感じですか?

大河原
そうですね。私はそんなに「ああでもない、こうでもない」と悩む方ではなくて、ラフは一発決めてというのが多いです。

――「こうしたモチーフで」というような形で依頼が来た時に、頭に浮かんだものを描いていくという感じでしょうか?

大河原
私の場合は、オファーがあったらすぐに仕事を始める、次に別のオファーがあった時も同じくすぐにその仕事に入る、そして又次のオファーが有った時も同じく作業に入る。
手を付けた仕事のイメージは無意識でも頭の中に残っているので同時に多くの仕事のイメージを作ることが出来ます。

ふと朝方とかに夢の中で「あそこは、こんな風にした方がいいんじゃないか」とイメージが繋がることもある。
そういう意味では、同時にいくつかの作業をするのは、相互作用があってすごくいいと思うんですよね。人間の脳はそれが出来る構造になっているように思います。


――複数の仕事をこなすことが、ある意味デザインの秘訣でもあるんですね。

大河原
私は生活をするためにこの業界に入ったので、どうしても生活費を稼がなくちゃならなかった。
そのため、何本もの仕事を同時にこなして、来る仕事は一切断らないという生き方をしてきたわけですが、そうなると「このジャンルのメカは好きだけど、こっちのジャンルは苦手」というようなことになることがまずない。

だから何でもやらせていただくことができて、どんなオファーがあっても企画書を読んだときに「こういうコンセプトにしよう」と考えることができるようになったんですね。

メカデザイナーという仕事は、単にメカのデザインをするというよりは、その作品の世界観を作り出すことが大事です。なのでそうした部分も一緒に考えています。

――メカデザインとして世界観を構築するうえで、大事なことはありますか?

大河原
これは計算できないですよね。やはり、生きてきて、何を見てきたかということが重なりあうことで、デザインという形にすることができるわけですから。
勉強したから出来るようになるということではないです。

私も、タツノコプロに入って、中村光毅さんから『ガッチャマン』を引き継いだ時に何も教わっていないですから。
中村さんが担当した過去の作品を見て、そこから吸収していきました。

――メカデザイナーの仕事を始めたばかりのころの、大きな刺激を受けたものはありますか?

大河原
入社した頃、1971年に『アニメンタリー 決断』という、第二次世界大戦を描いたアニメ作品をタツノコプロが作っていたんです。
その作品は、実在する戦闘機や戦艦を当時では考えられないほど緻密でリアルに描いていまして。

私はメカデザインを始めたばかりで、当時背景を描く部屋で作業していたんですが、その隣に設定や背景をためておく部屋があったので、「メカデザインってどんな仕事をするのか?」とそこにあった設定書を見に行ったんです。
そして、たまたま『アニメンタリー 決断』のデザインを見てしまった。

だから、メカデザインはそれくらい緻密に描かなくちゃいけないと思ってしまって、そのまま線を減らさずに『ガッチャマン』のメカをデザインしてしまったんです。
それを『ガッチャマン』が監督デビュー作となる鳥海永行さんがそのままアニメーターに渡したので、あの緻密なメカが描かれることになったわけです。
そんなデザインをしてしまったので、アニメーターにはずいぶん怒られました。

そして、そこから『破裏拳ポリマー』、『宇宙の騎士テッカマン』とかなり線が多くなっていくわけです。知らないというのは恐ろしいですよね(笑)。

――その頃、天野喜孝さんとも一緒に作業をされていたんですよね。

大河原
天野さんもかなり緻密に描くタイプだったので、ちょうど私の仕事と合ったのかもしれません。
『ガッチャマン』の中でミイラ巨人という敵と戦うエピソードがあったんですが、ミイラ巨人を天野さんがデザインして、戦いの中でどんどん壊れて内部のメカが出てくるんですが、内部は私がデザインをするという、そんな連携したやりとりもしていました。

――タツノコプロ時代は、そうしたやり取りで現場の仕事を学ぶことも多かったということですね。

大河原
メカというのは、形自体の魅力が大事であるということもタツノコプロで学びましたね。
アニメというのは、アニメーターが1枚1枚描いて絵を動かすので、1本線を増やすことでアニメーターには負担がかかるということも同時に知りました。

だからこそ、黒くシルエットにしただけで、これは何のメカかわかるような個性的な形が必要なんです。
ディテールに関しても、ロボットものの場合は、最初は素のままで出てきて、戦いが進んでいくうちにいろんなオプションが付いて、最終的にフル装備状態になるという流れがある。
そういうマーチャンダイジング的な意識も仕事の中で学びました。

■イラストだけでなく、立体から考えるデザインの見せ方
――大河原さんといえば、立体でギミックを提案してそれをデザインに生かすというお仕事も特徴的ですが、それもマーチャンダイジング的な部分を考えた作業ということでしょうか?

大河原
サンライズの当時の企画室長で、後に社長にもなる山浦栄二さんが「『無敵超人ザンボット3』では3体合体をやったから、『無敵鋼人ダイターン3』では、3段変形にしよう」という話があって、その案を通すのに最初から変形機構を考えたモックアップを作ってスポンサーにプレゼンするという方法をとったんです。
私自身、変形や合体のパズルを解くのが好きだったので、そうした提案をすることで、サンライズ初期の作品で多くデザインをさせてもらいました。

――先ほどお話しいただいた、いろんな機械をバラバラにして、新たに何かを作ると楽しいという考えが、いわゆる子どもがどうギミックを楽しむのかという考え方に繋がっていったという感じでしょうか?

大河原
そうですね。だから、変形のための変形ではなくて、必然性のある変形、このギミックがないとこういう形にならないという、単純なところを探り出すのが好きだという感じがうまくはまったということはあります。

――これまでの仕事で、とくに心が躍ったデザインはなんですか?

大河原
『装甲騎兵ボトムズ』のスコープドッグですね。
『ボトムズ』の前に、ガンプラブームを受けてプラモデルを売りたいということで、『太陽の牙ダグラム』という作品を高橋良輔監督と一緒に担当したんです。

第1話に登場する有名な「朽ち果てたダグラム」というビジュアルがあるんですが、当時発売された商品では、デザイン的にあのポーズをとることができなかった。
さらに、全高9mという中途半端な大きさとロボットとしての活躍の少なさを見て、放送開始直後から『ダグラム』のメカデザインは意図していたものがうまく表現できていないなと思っていたんです。

そこですぐに次に提案するメカをイメージして、ギミックや形状を伝えるモックアップを作り始めたんです。
当時、模型マニアがガンダムの腰部は分割アーマーにすると足を大きく開くことができると改造していたので、それを最初からデザインに盛り込みたいということ、人が乗り込んで動かすには最低限必要な大きさを提示すること、そして乗り込みやすいように降着ポーズをとれるギミックなどを盛り込んでデザインしていたんです。
ところが『ダグラム』が予想以上に人気が出て放送が1年半にのびて、そのモックはずっと眠っていたんですね。

――『ダグラム』の放送開始直後からずっとスコープドッグのデザインを練っていたんですね。

大河原
良輔さんも『ダグラム』の後の作品では、もうちょっとスピード感を出した演出ができるジープみたいな小さいロボットが活躍する作品にしたいと思っていたようです。
お互いに同じようなことを考えていたということですね。

そこにプロデューサーから「良輔さんがこんな企画をやりたいと言っている」と打診があったわけですが、こちらじゃ「もう出来ていますよ」って感じでした。
それが『ボトムズ』になったわけですから、タイミングが良かったですよね。

その時のモックアップはいくつかあったんですが、処分されてしまって。ただ1体残っているのが、今回の展覧会でも飾られている立体物なんです。

――近年では、リアルロボットとはまた毛色の異なる作品もいろいろと手がけていますが、作業をしていて楽しかった仕事はありますか?

大河原
一番作業をしていて楽しいのは『タイムボカンシリーズ』ですね。
『機動戦士ガンダム』は放送開始から40年にもなると、デザインに関してファンから良し悪しの意見が出ることが多いんです。
でも、『タイムボカンシリーズ』は批判的な意見はなく、みんな楽しんで観ているというリアクションばかりなので、また機会があればやってみたいです。

とは言え、どんな企画でもオファーがあると「どう料理しようかな?」と考えていることが楽しいです。
だから、好きなジャンルがあるわけではなくて、仕事が来るのが楽しいですし、今までやったことがないデザインの方向性はさらに楽しいという感じですね。

――「ラフ∞絵」展は大河原さんのファンであり、メカニックデザイナーを目指す人も見に来ると思いますが、メカニックデザイナーになりたいと思っている方にアドバイスはありますか?

大河原
先ほども言いましたが、魅力あるシルエットを作れるかどうかですね。
今は3DCGが一般的になっているので、その辺りを忘れがちですが、やはりひとつの作品の主役を張っていくのであれば、形の魅力がやはり必要なんです。

ザクなんて兵器として見たら隙だらけですが、あの動力パイプがあるのとないのでは脳裏に残るインパクトが全然違う。
やっぱり、誰でもマネをして描くことができて、魅力があるというのは一番難しいことですが、重要さで言えばいつの時代も一緒かもしれません。

展覧会名: ラフ∞絵
開催期間: 2019年4月2日(火)~4月16日(火)
開場時間: 11:00~20:00(入館最終案内19:30まで)
開催場所: 3331 Arts Chiyoda
〒101-0021 東京都千代田区外神田6-11-14
休館日 : 無休
入場料金: 一般券(一般2,000円/大学生1,500円/高校生1,000円)
プレミアムチケット3,000円
※入場券購入者へは、会場で「特典」をお渡しします。
一般券はモノクロチケット4種のうち1種。プレミアムチケットは
カラーチケット4種セットです。
※中学生以下および障がい者手帳をお持ちの方は入場無料です。
介護が必要な場合、介護者1人まで無料です。
※各種専門学校生は「大学生」のチケットをご購入ください。
お問い合わせ: 公式サイト 4rough.com / 公式Twitter @4rough_official
TEL 03-3253-8558(「ラフ∞絵」実行委員会事務局)
主催: 「ラフ∞絵」実行委員会
広報協力: 株式会社スクウェア・エニックス
特別協力: 楽プリ株式会社、3331 Arts Chiyoda112