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KMNZ初単独VRライブに見た“二次元と三次元の壁が溶ける瞬間”

2019年04月05日 09:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年に総数6000人を越え、TV界に進出したり、年末の「ネット流行語大賞」でグランプリを獲得したりと飛躍の年を迎えたバーチャルYouTuber。2019年は、彼女たちのVRライブが盛り上がりを見せそうだ。その一組として注目されるバーチャルガールズユニット、KMNZ(ケモノズ)が、初の単独VRライブ『「KMNZ VR LIVE」 in cluster』を開催した。


(参考:【KMNZインタビュー】「m-flo presents “OTAQUEST LIVE”」出演のリタ&リズが明かす、ライブへの熱い思い


 KMNZはLITAとLIZからなる“けもみみのくに”出身の2人組ガールズラップユニット。昨年活動を開始するとMXの地上波バラエティ番組『VIRTUAL BUZZ TALK!』のMCに抜擢され、様々なゲストとの軽快なトークで人気を獲得。同時に、グリー傘下のWright Flyer Live Entertainmentが提供するライブ配信プラットフォーム「REALITY」での定期配信や、YouTubeでのラジオ番組などで急速に認知を広げてきた。昨今増加傾向にある音楽系のバーチャルYouTuberの中でも、ヒップホップを基調にビートミュージック、ロック、J-POP、アニソン、ボカロ曲などを、ストリート感覚を持った雰囲気で横断するユニットだ。昨年8月に初のオリジナル曲「VR」をリリースし、iTunesのヒップホップ/ラップ・カテゴリでデイリーチャート1位を記録。年末には大阪城ホールで開催された「m-flo presents “OTAQUEST LIVE”」に2次元と3次元の垣根を越えて出演したことも話題となった。


 今回のライブは、昨年輝夜月のVRライブも開催された仮想空間上のイベントスペース「cluster」内で行なわれ、観客はハイエンドVR端末やVR Ready相当のPCで各地から会場にログイン。アバターとしてライブハウスを自由に歩き回りながら、拍手をしたり、サイリウムを振ったりと様々なアクションを取ることができる。この日のためだけに用意されたKMNZ仕様のクールなクラブの階段を降りると、受付横にはオリジナル曲やゲスト参加曲、カバー曲に使用されてきたイラストを展示。このイラストからも、スチャダラパー「サマージャム‘95」やtofubeats「水星 feat,オノマトペ大臣」、HALCALI 「Strawberry Chips」といったヒップホップテイストの曲に加えて、『らき☆すた』の「もってけ!セーラーふく」や『けいおん!』の「ふわふわ時間」、みきとPやナユタン星人、まふまふらボカロ/歌い手シーンの楽曲まで、様々な音楽を横断する2人の魅力が伝わってくる。その姿はRIP SLYMEのRYO-ZとDJ FUMIYAのプロデュースでデビューしたHALCALIのバーチャル版、もしくはDAOKOを筆頭にしたラップシンガーたちの最新形とも言えそうな雰囲気だ。


 ライブは彼女たちの代表曲にして、執筆時点では唯一となる、自身名義のオリジナル曲「VR」でスタート。〈バーチャルリアリティ/君との夢が叶うパラレルワールド/あと1ビット/繋がる世界溶け出すの〉という歌い出しをバーチャル空間で迎えたこの日のライブに重ねると、楽曲に乗りながら「Hey yo what’s up!(ヘイヨーワラップ)KMNZでーす!」とお馴染みの挨拶へ。「KMNZ初めてのVRライブ!」「私たちとHZ(ヘッズ/KMNZファンの総称)のみんなで最高のライブにしようね!」と伝えて会場の熱気が一気に上がっていく。この曲は国内外にファンを持つ若手トラックメイカーSnail’s Houseがプロデュースを担当しており、彼らしいキラキラとしたシンセを生かしたブレイクスが華やかな雰囲気を生んでいるのも印象的だ。その上で2人が交互にラップを繰り出し、「君と/僕との/重なるストーリー」と互いの声を重ねると、会場の一体感はさらに上昇。LIZが「バイブスもっと、上げてこおお!!!!」と観客を煽ったり、2人が手を重ね、「今日は、絶対成功させます。エイ、エイ、オー!」と声を合わせるなど、ライブならではの掛け合いもこの日ならではだ。


 その後、MCを終えると次はカバー曲へ。LIZがYouTubeでカバーした「ふわふわ時間」を彼女のリード&LITAのコーラスで歌うと、続いてLITAがワニのヤカ(YACA IN DA HOUSE)を迎えてカバーしたtofubeatsの「水星 feat. オノマトペ大臣」を、この日はLITAとLIZの2人で披露。LIZのキュートな歌声を活かした「ふわふわ時間」では、ギター・ソロの前にLITAが「スーパーウルトラデラックス演奏タイム!!」と告げて2人でエアギターを披露。高いラップスキルを持つLITAがメインの「水星」では2人の頭上に巨大な水星が登場し、ぐるぐる回る惑星をミラーボールにした綺麗な光景が広がる。こうしたカバー曲に表われるそれぞれの趣味の違いもKMNZの魅力になっていて、異なる個性を持つ2人がお互いをリスペクトし合う雰囲気は、バーチャルYouTuberにおける「てぇてぇ」(=尊い)とは何かを端的に伝えるようだ。また、観客は普段のライブ配信同様ギフトを送れる仕様になっており、巨大なくす玉や花火といったアイテムで自身もライブ演出に加わっていく。


 現実世界のフィジカルな制約から逃れられるVRライブでは様々な演出が可能なため、アーティストによっては通常考えられない動作でVR空間の特異性を生かす人もいるが、この日のライブに感じたのは、あくまで「リアル」に徹すること。精緻に作り込まれたライブハウス内は現実のクラブやライブハウスのようで、KMNZのパフォーマンス自体も、彼女たちの身体性をリアルに伝えるものになっている。また、そうした「リアルな場」としての強度を楽しげな雰囲気で感じさせてくれたのが、途中に挿入された「ABゲーム」コーナー。ここでは2人がKMNZに関する二択問題を出題し、観客が「A」か「B」かを選んでフロアの左右に分かれるクイズを展開。初級編の答え合わせとして「私たち、KMNZ(ケモノズ)って言うんですよ」「知ってました?!」と伝えると、観客が冗談で「!」とリアクションを返すなど、ファンとの息の合ったやりとりもまさにKMNZらしい。


 最後は彼女たちの定番カバー曲のひとつ、スチャダラパーと小沢健二の「今夜はブギーバック」で終了。観客と記念写真を撮って大団円でライブを終えた。……と思っていたのだが、実は本当のハイライトはここからだった。会場の観客を笑顔で見つめていた2人が突如「私たちもフロアに降りられるらしいよ」「まさかー、そんなことない……」「わー!!」とフロアにやってきて、観客と一緒にライブハウスを楽しそうに走り回る。ついには階段を駆け上がって会場の外に到着。入口の「KMNZ」の文字がピンクのネオンで照らされたロゴを前に撮影タイムをはじめ、観客と握手を交わしたりしながら会場を後にした。ここまでがほんの数分の出来事。少しあっけにとられながらも、現実世界では本来別々の場所にいるはずの観客とワイワイ笑いながら走る2人を見ていると、「二次元と三次元の壁が溶ける瞬間は、こんな“楽しさ”の中でこそ実現するんじゃないか」――。そんな感動が頭を過ぎった。


 バーチャルYouTuberの多くは、2次元と3次元の垣根を越えて、バーチャルとリアルが“繋がる”ことをテーマにしている。特にKMNZの場合、その魅力はジャパンカルチャーやオタクカルチャー、ファッションやストリートカルチャーに至るまで、様々な場所に向けられた間口の広さを持っていて、クールでアクティブな印象があるLITAと、キュートでインドア派な印象があるLIZの個性も、本来なら違うグループでもおかしくないほど異なるものだ。けれども、その2人が手を取り合って生まれる2次元と3次元を繋ぐ定期券は、おそらく、2人が想像する以上に多くの人々を魅了する力を持っている。2019年のKMNZはどんな活躍を見せてくれるのか。その未来がますます楽しみになるようなライブだった。


(杉山 仁)