2019年04月05日 09:01 リアルサウンド
次世代の通信規格である「5G」という言葉は最近よく耳にするようになったが、この言葉はスマホメーカーの動向や最新スマホ情報とともに語られることが多い。そんな5Gに関連して、多くユーザが気になるあのスマホの動向が報じられた。
(参考:Appleの新サービスたちに勝算はあるのか? 競合多い『AppleTV+』などを改めて分析)
■Apple成長への影響は限定的
アメリカ大手メディアCNBCは3日、5G対応iPhoneに関するUBSのアナリストTimothy Arcuri氏の発表を報じた。スイスに拠点を置く世界的な金融機関に所属する同氏によると、5G対応iPhoneは2020年には出荷されない可能性が高まっている、とのこと。5G対応に遅れている原因として、5G対応チップの調達に遅延が生じていることがある。Appleは2021年の5G対応を目指しているようだが、この目標の達成には「大きな技術的ハードル」が立ちはだかっていることも指摘されている。
もっとも、5G対応の遅れがAppleの成長に及ぼす影響は限定的だと考えられている。というのも、近年iPhoneの買い替えサイクルがかつてより長くなって、3~4年程度となっているからだ。それゆえ、iPhoneユーザの5G対応もゆっくり進むと予想されるので、5G対応iPhoneのリリースが他のスマホメーカーより遅れてもAppleの成長に大きな打撃は与えないだろう、と同氏は分析している。
■5G対応チップをめぐる綱引き
以上のようなArcuri氏の分析に対しては、「なぜAppleは5G対応チップ調達に遅れをとっているのか」という疑問を抱くだろう。この疑問は、Appleとチップメーカーとの複雑な関係を紐解くことで答えることができる。
かつてiPhoneのチップには、チップメーカー大手のQualcomm社製のものが採用されていた。ところが、2017年1月にチップ契約に関する主張の違いから2社の関係は悪化し、ついには法廷で争うことになり現在も係争中である。そのため、Appleは2018年12月に発表されたQualcomm社製5G対応チップ「Snapdragon 855」を使うことができない。
Qualcommとの関係が悪化したため、AppleはIntelと新しいチップ契約を結んだ。Intelのチップは4G対応のものに関してはQualcommと遜色がなかったのだが、5G対応チップの開発が大きく遅れているので2020年の供給には間に合わないのである。
5G対応チップ供給メーカーの候補には、Samsungを挙げることができる。しかし、同社はAppleと直接的な競合関係にあるので、スマホの心臓部とも言える最新チップをAppleに供給するとは考えにくい。また、中国メーカーHuaweiは今年1月末に5G対応チップを発表しているので供給メーカーの候補と考えられるのだが、HuaweiとAppleが契約する可能性も低い。というのも、昨年から米中関係が緊張しており、さらにはHuawei部品にはセキュリティ上の懸念もあるからである。
■5G時代はGoogle Stadiaが有利?
ところで、Appleのようなプラットフォーマーが5Gに対応することによって生じるメリットとは何だろうか。そのメリットは多数考えられるが、もっとも注目されるのが高品質なゲームサービスを提供できるようになることだ。大容量で通信遅延の小さい5Gを利用すれば、4K画質やVRといった負荷の大きい描画処理を要求するゲームをオンラインで提供することができる。こうした高負荷なゲームをプレイするには、従来ではハイスペックなPCやゲーム機が必要であった。しかし、5G時代では負荷の大きい処理をクラウドサーバで実行することによって、ユーザがプレイするデバイスの要求仕様を下げることも可能となる。その結果、5G時代ではデバイスに縛られないオンラインマルチプレイが実現するのだ。
こうした5Gのメリットを最大限に生かすものとして考えられているのが、ゲームストリーミングサービスである。具体的には、Googleが発表した「stadia」とAppleの「Apple Arcade」がこの種類のサービスに該当する。このふたつのサービスの特徴を比較すると、どうやらstadiaのほうがより5G時代に相応しいと見ることができる。なぜならば、stadiaはGoogleが所有する巨大なクラウドサーバを活用するサービスなのに対し、オフラインでもプレイできることをセールスポイントとしているApple Arcade は5Gのメリットを最大限に引き出しているわけではないからである。
5G時代が本格的に到来すれば、様々なテック系サービスで大きな地殻変動が起こることが予想される。名実ともに世界的ブランドであるAppleであっても、5G対応が過度に遅れたり5Gを最大限に生かすサービスの構築に失敗すれば、現在の地位を維持することは難しくなるだろう。
(吉本幸記 )