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『ハード・コア』山下敦弘×向井康介が撮影の裏側を明かす 「原作愛から自分たちで首を絞めた」

2019年04月03日 16:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 4月2日、代官山蔦屋書店にて『ハード・コア』Blu-ray&DVD発売記念トークイベントが行れ、山下敦弘監督、脚本家の向井康介が登壇した。


参考:『ハード・コア』と表裏一体をなす『BLUE団 in DAWN』 山下敦弘×山田孝之の信念がここに


 『ハード・コア』は、狩撫麻礼/いましろたかしのコミック『ハード・コア-平成地獄ブラザーズ』を実写映画化したヒューマンドラマ。社会に溶け込めない不器用な男たちの人生が、謎のロボットの出現によって一変していくさまを描き出す。


 山田孝之が主人公・右近を、原作の大ファンである荒川良々が右近の親友・牛山を、映画・ドラマに大活躍中の佐藤健が右近の弟・左近をそれぞれ演じた。


 現在発売中のBlu-ray豪華版には、宮本杜朗監督による『ハード・コア』のメイキングドキュメンタリー『BLUE 団 in DAWN』が収録されている。単なる“メイキング映像”ではなく、1本の映画と言っていい強度を誇ったドキュメンタリー作品となっている。キャスト・スタッフともに壮絶な撮影だったと語る現場では、一体何が起きていたのか。


 山下は、「原作も夜のシーンが多かったので、昼間でもアパートを暗幕で暗くして撮影していました。季節が夏だったので、暗幕をかけると熱がこもって温度も異常なほど上がっちゃって……」とその暑さを振り返る。『BLUE 団 in DAWN』の中では、山田が「(撮影が)9時から5時までだよ!」と語る姿が映し出されているが、これは朝の9時から翌日の朝5時まで。つまりほぼ丸1日の撮影を行っていたのだ。


 なぜこんな過酷な撮影状況となったのか。トークショーの司会を務めた、代官山蔦屋書店シネマコンシェルジュの吉川明利氏が疑問を投げかけると、山下は「確かに予算がもう少しあればよかったのですが……。原作・キャスト・企画を考慮して、どんな予算なら回収できるか、それを計算して決まったものですね」と分析。向井も、年々映画にかけられる予算が少なくなっているのを肌で感じるという。「作られる映画の本数が増えたせいかもしれませんが、この3、4年で以前より予算も減ってきた印象です」(向井)


 過酷な撮影となった背景には、スタッフ・キャストの原作への愛が大きかったところにもあると山下は語る。「みんなが原作を好きになってくれたので、“切ってもいい”と思えるシーンが少なくて。だから自分たちで首を絞めたというのはありますね(笑)」(山下)


 作品の中で一番の名シーンと言えるのが、居酒屋で繰り広げられる右近と左近の兄弟喧嘩。このシーンの誕生について、向井は「右近と左近の本音がぶつかり合うシーンなので一番の鍵になると思っていました」とコメント。山下は「最初のアイデアでは、左近が大泣きするというものだったのですが、健くんと話していたら『泣かないんじゃないですか』と言われて、そうだよねと(笑)」と振り返った。


 劇場公開時に「この映画が遺作でもいい」とコメントしていた山下は、その後“『ハード・コア』ロス”に陥っているという。「本当に『ハード・コア』以降撮れなくなっているので、ちょっと怖くなってきました。特別な原作だったので、今までとは違う作品に挑戦できればと」とコメント。デビュー作『どんてん生活』からコンビを組んでいる向井も、「ぼくたちは、いましろさんの作品からものすごい影響を受けてきました。原作ではなくても、そのテイストは色濃く入っていたので、直球で原作をやったというところで、この20年で一周したという感覚はあります」と続ける。


 2人がタッグを組んだ2005年公開『リンダ リンダ リンダ』でも、山下は大きな“ロス”に陥ったようで、「10代の女の子たちと毎日のように見つめ合って話していたら、なにか錯覚して、当時は28歳だったので、自分も同級生のような気持ちになってしまって。その時間が無くなって放心状態でした(笑)」と山下が当時を思い出すと、向井も「早く編集しろと(笑)。本当に抜け殻だった」と語り会場を笑わせた。


(取材・文=石井達也)