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秋本治、大河原邦男ら語る「ラフ∞絵」の見どころは? 「ネームはすっぴん、完成原稿は化粧」

2019年04月03日 13:12  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

秋本治、大河原邦男ら語る「ラフ∞絵」の見どころは? 「ネームはすっぴん、完成原稿は化粧」
日本のマンガ、アニメ、キャラクターデザインの世界を牽引してきた秋本治、天野喜孝、大河原邦男、高田明美。この4人が描いた約1400点のラフ絵と完成原画を展示する展覧会「ラフ∞絵」が、4月2日から4月16日にかけて東京都・「3331 Arts Chiyoda」で開催される。
初日に実施されたプレス向け内覧会では、同展覧会プロデューサーの布川ゆうじと4人のアーティストが展示作品について語った。


約1400点にもおよぶ展示作品は、秋本治の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、天野喜孝の『ファイナルファンタジー』シリーズ、大河原邦男の『機動戦士ガンダム』、高田明美の『魔法の天使 クリィミーマミ』といった代表作だけでない。中には未発表作品もあり、「チェンジ・アンド・チャレンジ」と題した4人がそれぞれに描いた他アーティストの代表作品も見ることができる。

■布川ゆうじ


布川と4人のアーティストは、今から45年ほど前に日本を代表するアニメ制作会社・タツノコプロで共に働いた間柄。
布川によると、開催のきっかけは2017年の暮れに開催されたかつてのメンバーによる同窓会の席だという。4人にそれぞれボードに描いてもらったラフ絵の素晴らしさに、ラフ絵の展覧会を思いついた。

布川は「近年はタブレットのペンを使って絵を描く人が増えましたが、鉛筆で白い空間に描いた躍動感のある線を感じ取って欲しい」とアピールする。
「チェンジ・アンド・チャレンジ」についても「彼らの若い時分でもこういったチャレンジはなかなかできない。僕がお題を出して彼らが答えてくれた。文化祭のようなノリで取り組んでいるので、見て楽しんで大笑いして欲しい」と呼びかけた。

■大河原邦男


日本初のメカニックデザイナーとして、『科学忍者隊ガッチャマン』でデビュー以来、48年間で数々のメカをデザインした“メカ職人”の大河原「他の3人は自ら絵を描くアーティストだが、自分はオファーがあってから絵を描く職人に徹している」と語った。


48年前の同日(4月2日)は、大河原がタツノコプロに初出社した日でもあった。
当時はアニメーターとして背景画を描く美術課に配属されたものの、上司の中村光毅に10月から始まる新番組『科学忍者隊ガッチャマン』のメカデザインをやってみないかと聞かれ、右も左も分からないまま引き受けたことで才能が開花した。

『ガッチャマン』放送後は背景担当に戻る予定だったが、同作は大変な人気を得て2年間で105本も放送されたため、メカデザインを描き続けることになった。
間もなく、同じくヒットアニメ『ヤッターマン』でメカデザインも担当することになり、シリアスだけでなくギャグアニメ向けのメカデザインテクニックも身に付けることができた。

しかし、当時描いたラフは全て残っていないという。大河原は「自分にとって、ラフ絵はクリーンアップされていくものなので、放送された作品のラフ絵は基本的に処分している。今回飾っているのは、この10~15年の間に企画が立ちあがったものの、放映に結びつかなかった作品がメインになっている」と明かした。

また、大河原は他の3人と展示内容が違う点として、自らのデザインを元に作成したモックアップを展示していることを挙げた。


「チェンジ・アンド・チャレンジ」では、3人の功績を汚さないように神経を使ったものの、楽しかったと振り返る。中でも『魔法の天使 クリィミーマミ』は、通常、自身に来ることがないタイプのオファーであるため、とくに楽しかったそうだ。


■秋本治


「週刊少年ジャンプ」(集英社)で40年にわたって連載された代表作『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の約50本のネームに加え、現在連載中の新作のラフ絵が展示された。しかし、当初は編集者にしか見せない作品の設計図であるネームを見せることに懐疑的だったと明かした。

秋本は「ところが、同展覧会のスタッフに試しにネームを見せたらすごく反響があったので、やってみようと思ったんです」と心境の変化を語る。
さらにネームはすっぴん、完成原稿は化粧だと例えた。そのうえで、ネームを冷静に起こしていくのが原稿であるため、元のネームの躍動感がある“すっぴん感”が良いと感じていると述べた。


「チェンジ・アンド・チャレンジ」では、『装甲騎兵ボトムズ』から劇中の人型ロボット兵器・アーマードトルーパーがこたつで麻雀をしている風景を描いた。「タツノコプロの仲間なので、ここまでは良いだろう」と探り探りアレンジしつつ、銃を撃つために指を鍛えているという設定で描いたという。

→次のページ:天野喜孝が感じるラフの可能性、高田明美がフリーランスになったきっかけの作品は?

■天野喜孝


アニメのキャラクターデザイナーからキャリアをスタートさせ、『ファイナルファンタジー』シリーズや『吸血鬼ハンターD』など、イラストレーター・画家として世界的な評価を得ている天野。

同展覧会のために完成させたという巨大キャンパス絵は、1~2年前からラフを描きはじめていたが、「この展覧会がなかったら未完成のままだった」という。今回の展覧会で展示したら面白いと感じたからこそ仕上げられたと明かした。


そこまでで終わりの完成原稿と違い、ラフには可能性が溢れていると魅力を語る。
また、ゲーム作品のキャラクターデザインに関しては、ラフに色づけをした濃いイメージのまま、実際のゲーム内にキャラクターとして落とし込んでもらっていると明かした。


展示作品の中には雷神風神をモチーフにした屏風もあった。新たな絵に挑戦するのは自身が描くことに飽きないためでもあるという。
これまで描いたことがない作風のオファーは来ないため、新たな試みをする度に新しい作風のオファーが来るようになったとして、「自分が興味あることをやったら、仕事に繋がったのが現状」と伝えた。

同展覧会では10~20代の若い時分のラフはないものの、近年の代表作を中心に、苦手意識のあるデッサンもあえて展示していることが見どころだと述べた。


さらに「チェンジ・アンド・チャレンジ」では生まれて初めて『ガンダム』を描き、油絵で表現したこともチャレンジだったという。さらに『こち亀』はアメコミっぽく、『クリィミーマミ』はファイナルファンタジー風に、楽しくアレンジしたそうだ。
今後の挑戦について、「壁画」のような大きな絵を描きたいため、「オファーを待っています」と呼びかけた。

■高田明美


『魔法の天使 クリィミーマミ』や『機動警察パトレイバー』など、今も根強い人気を誇るヒットアニメのキャラクターデザインを手がけてきた高田。
同展覧会では自身がタツノコプロから離れてフリーランスになったきっかけの『うる星やつら』や『きまぐれオレンジ ロード』などのキャラクターデザインも展示している。


高田は「今は昔みたいなギュッとした太い線では描いていないので、作風の変化も楽しんで欲しい」と呼びかけた。
鉛筆で描くことに関しても、「鉛筆は基本の画材だと思うんです。鉛筆と紙があればどこでも描ける。絵を描くうえでのハードルの低さは、デジタルで絵を描く人も一度鉛筆を持って手に馴染ませて体験して欲しい」と語った。

「チェンジ・アンド・チャレンジ」では、自身がとくに忙しい時期であったため、十分に時間をかけることができなかったそうだ。
しかし、2019年明けに天野が描いた『魔法の天使 クリィミーマミ』の完成度の高さを見て、「先輩がここまでしっかり描いてきてくれた! 私もやらなきゃ」と大いに触発を受けて取り組んだことを明かした。

最後に、同展覧会の巡回展を期待する声が早くも寄せられていることに対して、「全国各地をまわれるかは、今回の成功にかかっているので、近くに住んでいて足を運べる機会があれば逃さないで欲しい」と呼びかけた。

■概要
展覧会「ラフ∞絵」
開催期間:2019年4月2日(火)~4月16日(火)
開催場所:3331 Arts Chiyoda
住所:東京都千代田区外神田6-11-14
開館時間:11:00~20:00(入館最終案内19:30まで)
休館日:無休
入館料金:一般 2,000円、大学生1,500円、高校生1,000円、小・中学生 無料
お問い合わせ:03-3253-8558(「ラフ∞絵」実行委員会事務局)

■関連イベント
期間中はプロデューサー・布川ゆうじや各アーティストによるトークショーやワークショップを開催予定。詳細は公式サイトをご覧ください。
・4月6日(土)15:00~16:00 メカデザイナー・大河原邦男トークイベント
・4月7日(日)15:00~16:00 プロデューサー布川ゆうじによる「魔法の天使 クリィミーマミ・トークショー」
・4月12日(金)15:30~16:30 漫画家・秋本治トークイベント
・4月14日(日)13:00~14:30、15:00~16:00 キャラクターデザイナー高田明美「Tシャツに好きな色を塗っちゃおう」ワークショップ

※高田明美ワークショップは、応募を締め切りました。キャンセルがあった場合など、後日キャンセル受付をする場合があります。
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