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King & Prince「君を待ってる」評 彼らが歌うに相応しいリアリティある応援ソングに

2019年04月03日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 King & Princeが新シングル『君を待ってる』を発売した。今作は、昨年10月の2ndシングル以来約6カ月ぶりとなる通算3枚目のシングル。


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 表題曲の作曲にはSusumu Kawaguchi、草川瞬、佐原康太の3名がクレジットされている。この3名は、5月17日公開の映画『うちの執事が言うことには』の主題歌「君に ありがとう」の作曲も担当しており、King & Princeとしては短い期間に同じ作曲家陣で新曲が立て続けに発表されることになる。「君を待ってる」「君に ありがとう」とタイトルも似通っており、2曲に関連性を見出したくなるような作りだ。


 さて、今回のシングルは「今の自分を変えたい!新しい自分を見つけたい!」と思う人の背中を押すような1曲となっている。いわば応援ソングであり、新学期の始まるこの時期にはぴったりのテーマ選びだ。ちょうど新元号も発表され、新しい時代の幕開けを告げる1曲にもなっているだろう。サウンドは終始爽やかで、流麗なストリングスの響きとリズミカルなブラスセクション、キラキラとした音色が違和感なく融合し、軽快かつ穏やかなポップソングに仕上がっている。展開は非常にオーソドックスで今の時代のポップスの王道の形を採用している。これまでの彼らのシングル同様、王道に正攻法で勝負した快作だ。


 不思議なのは、歌詞には特に季節を表す言葉は使われていないのにも関わらず、この曲を聴いているとどこか“新しい季節の到来”を感じること。それもどちらかと言えば春の訪れだ。2番で〈新しい時代が来る…〉と歌っているというのもあるが、それよりはむしろサウンド面であったり、曲全体から受け取れる印象の領域でそれが色濃く表れていて、曲のどの部分を切り取っても“春っぽい”印象がある。春ソングといえば、“桜”や“花”といった季語を使ったり、歌詞に出会い/別れといったテーマを盛り込んだような定番曲がすでに多く存在している。しかし、この曲はそういった従来の春ソングとは一線を画した曲になっている。


 公園で遊ぶ子供たちを俯瞰視点から描く1番のA~Bメロでは人と人のあいだにある“見えない大きな壁”を歌う。2番では“歌い手”視点から〈必要ないですと言われながら生きてるようだ〉と歌う。まるで彼らが、社会や世間との“乖離”を感じているような歌詞である。〈新しい時代が来る…〉と言っても直後に〈他人事に聞こえる〉と言ってみたり、〈セカイは今日も輪を描いて騒いでいる〉と世の中に対して斜に構えてみたりする。“輪になって踊ろ”うといきなり言うのではなく、そもそも“輪”に対しての距離感がまずスタートにあるのがこの曲の状況設定なのだ。


 このように、この曲の歌詞のベースにあるのは意外にも“孤独感”や“疎外感”といった感情だ。こうした心情は一般的に自作自演作家の作品に多い。作詞を担当したのは高橋優。テレビドラマ『オトナ高校』の主題歌「ルポルタージュ」などでも話題になったシンガーソングライターだ。つまり、この曲は表面的にはありふれた応援ソング~春ソングとしての性質を持ちつつも、同時にシンガーソングライター的な側面を持った楽曲になっている。言い換えれば、社会との距離感や世界からの疎外感を持った主人公が、そうした自分の境遇を打破して新しい世界へと飛び出そうというメッセージに作り上げているのだ。負の感情を基点として、それを自分たちの力でプラスに働かせようという主張は、単純なエールよりもリアリティがある。


 デビュー曲「シンデレラガール」で大ヒットを記録し勢いに乗るKing & Prince。しかし一方で、メンバーがひとり活動休止してしまうという壁にもぶつかっている。今作は、そんな明と暗の両面を持った彼らが歌うに相応しい応援ソングである。彼らがこうした作品を重ねることで切り開く新しい時代に今後も注目していきたい。(荻原梓)