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年の差32歳! K-tunes Racingのベテラン新田守男とルーキー阪口晴南のコンビはどんな化学反応を生む!?

2019年04月02日 22:21  AUTOSPORT web

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今季K-tunes RC F GT3をドライブする新田守男と阪口晴南のふたり。早くも良好な師弟関係が築かれているようだ。
2019年のスーパーGT開幕まであとわずか。多くの車種やトップドライバーがひしめき、今季もたくさんのバトルが見られそうなGT300クラスだが、今季楽しみなコンビのひとつが、K-Tunes Racingから参戦する新田守男と阪口晴南のコンビだ。

 新田は1967年生まれ。ツーリングカーで育ち、スーパーGTの前身であるJGTC全日本GT選手権の初年度である1994年第4戦SUGOでインターゲット オオスカ ポルシェを駆りGTデビュー。これまで3回のGT300チャンピオンを獲得し、これまで20勝。現役最年長ではないが、大ベテランと呼べる存在だ。

 一方阪口は1999年生まれ。レーシングカート時代に多くの実績を残し、FIA-F4から全日本F3選手権にステップアップ。今季K-Tunes Racingに加入し、レクサスRC F GT3をドライブすることになった。ふたりの年齢差はなんと32歳! 親子ほどの差があるふたりが今季スーパーGTで戦うことになる。そんなふたりの関係、そして今季に向けて、チームを率いるJGTC初代王者の影山正彦監督も交えて聞いた。

■「初めて買ったのはレコード」「ダウンロードの時代です」
──ではまず、ふたりの年齢差を読者の皆さんにもご理解いただこうかと思います。それぞれ、青春時代のお気に入りの音楽や初めて買った曲を教えてください。
新田守男(以下新田):え~!? 青春時代……? 初めて買ったレコードは『およげたいやきくん』(笑)!
影山正彦監督(以下影山):オレ『黒ネコのタンゴ』。あ、オレ聞いてない?

──いえいえ大丈夫です。新田選手、それはCDですか?
新田:レコードだね。CDじゃないよ。あと、オレはランちゃん派。
影山:オレはスーちゃん派。

──えーと、なんでしたっけ……。
新田:知らないわけないでしょ! キャンディーズだよ(※1)。で、オレはどちらかというと感覚的には今が青春かなぁ。十代の頃はあんまり青春しているイメージがない。

──話が違う方向に行ってしまうので……そのネタはこの辺で(笑)。では阪口選手が買った初めてのCDは?
阪口晴南(以下阪口):僕はもうダウンロードの時代なので……。iTunesで買う感じです。CDは一枚も買ったことないです。
新田:ダウンロードぉ!? 違法ダウンロードでしょ?
阪口:違います!(笑) 初めて自分でお金を出して曲を取り込んだとなると、back numberとかですかね……。今の十代はみんな聞いてるんじゃないでしょうか。
新田:バックナンバー……!?
阪口:みんな知ってますよ。

■走りのジェネレーションギャップはありません
──年の差は十分に伝わりました。では新田選手、以前から阪口選手のことはご存知でしたか?
新田:もう、ホントに晴南が小さなときから。晴南がARTAで初めてサポートを受けたとき(※2)の発表会で、ちっちゃい子どもがシャレたジャケット着てきて。な。
阪口:はい(笑)。
新田:『かっわいいコだな~!』と思って。それが第一印象かな。

──そんなふたりが今年コンビを組むことになりました。驚きですか?
新田:初めて会ったときに、まさか組むことになるなんて想像もしていなかったからね。でもその後も(阪口)良平(※3)と仕事の付き合いが多いし仲もいいから、晴南のことはずっと気にしてたよ。だから今年ドライバーを決めるときに、晴南の名前が挙がった。今までトヨタやaprの頃から育成で一緒にたくさんのドライバーとやってきたけど、これが一緒に組む最後の若手かもしれないよね。
影山:それは困る! まだまだやってもらわないと!
新田:70歳くらいまで走らなきゃダメ(笑)!? そういう意味では、晴南は純粋にワンメイクフォーミュラしかやったことがない。でもスーパーGTはすごくお客様も来るし、いろいろな意味でプロのレースだからね。高木真一と一緒にやって、イチからいろんなことを学んできたような関係になる相手だろうな……と思ったね。

──では阪口選手、新田選手のことは前からご存知でしたか?
阪口:先ほど新田選手がおっしゃられていた、体制発表会のイメージがすごく強いですね。そのとき僕は7歳とかでしたし、リハーサルですごく緊張していたんです。でもリハーサルで、新田さんが笑いをとっていたイメージがあるんですよね。その印象がすごく強いです。
新田:それはオレがイジられ役だから(笑)。
阪口:すごくムードを作っていかれる方なんだな~と思っていましたね。

──すでにふたりでテストを何度もこなしていますが、年の差を意識することはありますか?
新田:『若いから』というと語弊があるかもしれないけど、僕たちは育ってきたステップのなかで、“痛い”ことをしながら学んでくるじゃないですか。でもまだそれを学んでいないな……というのが要所に出ますね。ウチ(K-tunes Racing)の社用車を%&◎てみたり……。
阪口:その話はダメです。本当にダメです!
新田:まあ、良平が叔父ということもあるのか、若いドライバーのなかでも、あまりチャラチャラしていない。大人との会話の中でもあまり失礼がないようにしている。でもその反面、「若いからそういうこともあるよな」というのは感じるよね。
阪口:僕にとっては当然学ぶことが多いので、まだチームメイトというより、先生というか、講師のような印象があって……(笑)。もちろんアドバイスもたくさんくださっていますし。ただ、走りの面ではジェネレーションギャップのようなものがないんですよね。そこはすごく、僕が理解しやすかったです。あと、夜に食事に行っても、全然おふた方の方が若いんですよ! とにかく脂っこいものをすごく食べますし(笑)。逆に僕が「食え!」って言われるくらい。
新田:監督がそうだからねぇ……(笑)。

■初めてのGTでの思わぬ落とし穴!?
──では阪口選手、初めてのハコのレーシングカーは慣れましたか?
阪口:その質問はよくされるのですが、カートから四輪にステップアップするときは今回以上の差がありましたし、クルマを速く走らせるという面では一緒だと思っています。当然、今まで乗って来たフォーミュラとの違いはありますが、やはりそれをすぐにアジャストしないと、プロドライバーとは呼べないと思っています。クルマも最初から良い雰囲気でしたし、意外と早く自分のコントロールの範囲に収められた印象です。
新田:ハコが初めて……とよく言うけど、「ハコが初めてだから」とか僕はあまり気にしたことがないんですよ。いちばん最初に思ったのは、直接会って仕事する時点で、ひとりの人間としての考え方が、比較的晴南は素直に受け入れられるコだった。そういう方が先に来たかな。若いから真面目にクルマのことを考えるのは当たり前なんだけど、ピントがズレている子もいるんです。「勝ちたい」と言っても勝つために何をしたいと思っているのかが、全然ズレている人もいる。根本的に合わなかったら、一年間交わることがないままレースをしなければならなくなる。晴南はそれがなかった。でも実際運転する面では、フォーミュラからハコだと、クルマの動きに慣れるのは大変かもしれないけど、カートからこれだけキャリアがあるでしょ? そんなに慣れるのは難しくないと思うよ。
影山:でもまだ、弱点と課題は大いにあるよね。

──差し支えなければ、どのあたりが課題でしょう?
影山:今の話を踏まえて言うと、いま、すごく不安なところがあるんですよ。晴南はカートでも速かったし、FIA-F4でも全日本F3でも戦ってきたわけでしょ? 順応性も高い。

──はい。
影山:でもいちばん心配なのは、クルマの乗り降り。
阪口:!!
新田:さっき監督が言ったとおり、カートで育ってレース経験は長いので、走るという面ではどうすれば速く走れるというのは常に思考回路の中にあるんでしょうね。でも人間は経験したことがないことに直面すると、フリーズするんでしょうね。
阪口:(泣)。
新田:ドライバー交代の練習するでしょ? いちばんはじめ、まずクルマから下りてこない(笑)。で、交代しました……はいいけど、今度は『ドア閉めろよ』って(※4)!
阪口:すいません……!
影山:ブーンってピットインして、キーって止まる。で、守男がドアを開けるでしょ?
新田・影山:……(間)……。『早く下りてこいよ!』って(笑)。でさらに『ドア閉めろよ!』と。
新田:ドア開きっぱなしでピットに戻っちゃう。シートベルト締めたら手届かないのに(笑)。コンマ5秒ずつ速く走ってきたって、これじゃ全部抜かされちゃう。ドライバー交代で、こんなに成長が遅いヤツはなかなか……。
阪口:ドアは忘れちゃいます。今までドアなかったので……(泣)。

──では、そんな心配もありつつも、それぞれ今季への意気込みを教えてください。特に新田選手は最多勝記録更新(※5)もかかっています。
新田:真一のところ(※6)も、オレと同じようにGTデビューの若手がコンビだからね。真一も僕も、最多勝記録が伸ばせるのは相方次第かなと(笑)。すご~く優しく、ていねいにお世話をしながら、晴南ががんばっていける環境を、できる限り作っていきたいと思います(笑)。
阪口:チーム含め、皆さんが信頼してくださっていると思いますので、初年度ですが、自分なりに経験は積んできたつもりです。去年もいい結果を残してきたチームですし、僕が加わったことで、成績を落とさないようにしたいですね。そしてスーパーGTの勢力図がどうなるかは分かりませんし、開幕戦で自分たちの立ち位置がどこなのかはまだ分かりませんが、最終的にシリーズチャンピオンを目標としつつ、新田さんの最多勝記録更新をお手伝いできるようにしたいですね。

──今日はありがとうございました!

※1 キャンディーズ:1970年代に一世を風靡したアイドル。1978年に解散。筆者は1976年生まれなので知らなくても無理ない……!?
※2 ARTA:阪口晴南はカート時代、ARTAのサポートを受けていた。
※3 阪口良平:スーパーGTやスーパー耐久で活躍するドライバー。晴南は甥にあたる。
※4 ドア閉めろよ:スーパーGTでは、ドライバー交代時マシンを下り、後乗りドライバーのシートベルトを締め、ドアを閉めてからピットに戻る。
※5 最多勝記録:2018年に2勝を挙げた新田と、同じく2勝の高木真一が20勝で並んでいる。
※6 真一のところ:今季ARTAは高木真一と福住仁嶺のコンビ。福住は今季GT300フル参戦デビュー。