■約3年間の休館を経てリニューアルオープン
東京・清澄白河の東京都現代美術館が3月29日にリニューアルオープンを迎えた。
1995年の開館から20年を経て、諸設備の改修と利便性の向上のために2016年から約3年間にわたって休館していた東京都現代美術館。リニューアルオープン日と同時に2つの展覧会がスタートしている。
3年間の休館を経てどこが変わったのか? 新しくなった美術館内外の様子をレポートする。
■人々に「普段使い」してもらえる開かれた美術館に。館内外のサインを一新
東京都現代美術館の建物は南側が木場公園に面し、ガラス張りの壁面から公園で遊ぶ子供たちや散歩をする人々の姿を見ることができる。今回のリニューアルでは公園の続きのように、人々に「普段使い」してもらえる美術館をコンセプトに、パブリックスペースの整備を行なった。
館内外のサインは一新し、エントランスホールや中庭に置かれたコルクの椅子など、什器もサインと一体となったデザインになっている。サイン什器設計は建築家の長坂常(スキーマ建築計画)、サイン計画はアートディレクターの色部義昭(株式会社日本デザインセンター、色部デザイン研究所)が担当。建物が持つ重厚さを生かしつつも和らげるようなデザインで、美術館の内外を明確に区切るのではなく、ゆったりと繋げながら来館者の回遊を自然に促すことを目指した。
美術館の担当者は「美術館が従来持っていた回遊ルートを生かし、公園や街に開かれた美術館を目指す。これまでに以上に開かれた美術館であることを視覚的にも理解いただける」とサインや什器デザインの意図について説明している。
■生まれ変わった美術図書室。「こどもとしょしつ」が新オープン
館内でリニューアルされた主な施設は美術図書室、ミュージアムショップ、レストラン、カフェ&ラウンジなど。
美術図書室は什器のデザインやレイアウトを一新し、新たな空間として生まれ変わった。黒を基調とした落ちついたスペースには映像資料が閲覧できる「メディアブース」に加え、大人も子供も楽しめる美術書を集めたコーナーを拡充した「こどもとしょしつ」が新設された。
ミュージアムショップ「NADiff contemporary」は、現代アートの関連書籍をはじめ、アーティストグッズ、展覧会図録などを販売。東京都現代美術館のロゴなどをあしらった美術館オリジナルグッズや、清澄白河にアトリエを構えるレザーブランド「i ro se」とのコラボレーションによるレザーアイテムの別注カラーを取り扱う。
またスタッフが着用するエプロンは、ファッションブランド「PUGMENT」によるもの。こちらの「Uniform」は限定数で販売も行なわれる。
■レストラン「100本のスプーン」とカフェ&ラウンジ「二階のサンドイッチ」が新オープン
新たにオープンするレストラン「100本のスプーン」とカフェ&ラウンジ「二階のサンドイッチ」は株式会社スマイルズが手掛ける。
「100本のスプーン」はほぼ全てのメニューにフルサイズとハーフサイズを用意しており、赤ちゃん向けには旬の食材を使った離乳食を無料で提供するなど、家族で楽しめるレストランになっている。また店内の「アトリエ」スペースには客が色を足したり引いたりして作品を作り上げる「みんなでつくる彫刻」が設置されるほか、食事を楽しむ客の姿が「作品」になって壁にかけられた鏡に映る「絵になる席」といった仕掛けも。
文字通り2階に位置する「二階のサンドイッチ」はスマイルズの新業態。レストランのシェフが考案した料理をパンに挟んだサンドイッチや、オリジナルドリンクなどを片手にアート鑑賞の余韻に浸れる空間だ。
今回のリニューアルではミュージアムショップから中庭に出入りできるエントランスが新設された。「二階のサンドイッチ」へは、館内の階段からだけでなく、中庭から屋外作品を楽しみながら入店することもできる。
そのほか、企画展示室内のエレベーターが1台から2台に増設。多目的トイレの拡充や出入り口のスロープの増設などバリアフリーの向上、トイレ内のおむつ替えベビーベッド、ベビーチェア設置といった子育て支援設備の充実を図っている。展示室や講堂の床、壁、天井の内装も全面的に更新されると共に、天井の耐震化も行なわれた。
■サウンドアーティスト・鈴木昭男の新規収蔵された作品が建物内外に点在
また新たに設けられる屋外展示場を含む館内外には、サウンドアーティストの鈴木昭男による『道草のすすめ―「点 音(おとだて)」and “no zo mi”』が登場。耳と足をあわせたマークをエコーポイントとして公共空間に設置し、人々の「聴く感覚」の覚醒を誘う鈴木の代表的なシリーズ『点 音(おとだて)』が展開され、来場者がその上に立って耳を澄ますことのできるマークが建物の内外に点在している。
『点 音(おとだて)』のマークを辿っていく最終地点として、屋外展示場では同館のために作られた階段状の作品が待ち受けている。
■リニューアルオープン記念の企画展は「編集」がキーワード。日本の美術家たちの100年間の実践を辿る
リニューアルオープンを記念した展覧会は、企画展『百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-』、コレクション展『MOTコレクション ただいま / はじめまして』の2つ。
『百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-』は「編集」をキーワードに、日本の近現代美術の1つの側面を再考するもの。多様な要素の選択的な編集を通して制作を行なう美術家を「編み手」と捉え、東京都現代美術館が収蔵する作品や資料を中心に、活動を辿り直す。
出展作家は岸田劉生、柳瀬正夢、中原實、吉原治良、朝倉摂、桂ゆき、多田美波、横尾忠則、菅木志雄、磯辺行久、斎藤義重、川俣正、白川昌生、杉本博司、大竹伸朗、O JUN、毛利悠子、Chim↑Pom、風間サチコ、梅沢和木、会田誠、ホンマタカシ、松江泰治ら。
本展では、第一次世界大戦の開戦によってヨーロッパの印刷物を介した情報が減少した1914年を、新しいものの学習の段階から「編集」に展開した始まりの1年と位置づけ、現在までの100年にわたる日本美術の作品群を、3フロアの展示室全体を使って総覧する。
■コレクション展『MOTコレクション』は2010年代の作品にフォーカス。修復を終えて戻ってきた作品群も
3年弱の休館中に約400点の作品を新たに収蔵したという同館のコレクションを紹介する『MOTコレクション ただいま / はじめまして』では、主に2010年代に制作された作品に焦点を当てる。約20作家の作品が個展のような形式で紹介される。
さらに展示タイトルにある「ただいま」の意味を込めて、ロイ・リキテンシュタインの作品『ヘア・リボンの少女』やアルナルド・ポモドーロ『太陽のジャイロスコープ』といったこれまで同館で親しまれてきた作品群も展示。屋外彫刻でもアンソニー・カロやリチャード・ディーコンなどの作品が修復を終えて戻ってきたほか、新たにオノ・ヨーコの『クラウド・ピース』も加わる。
■ミナ ペルホネン、ダムタイプ、オラファー・エリアソンなど今後の企画展にも注目
東京都現代美術館では1年間限定で、リニューアルオープンを記念したロゴを使用する。これは開館当時から使用されているロゴのデザイナーである仲條正義が新たにデザインしたものだ。
同館ではリニューアルオープン記念展の終了後、7月20日から「遊び」をテーマにした展覧会『あそびのじかん』を開催。さらに11月からは『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』、結成35年を迎えるダムタイプの展覧会『ダムタイプ―アクション+リフレクション』、2020年3月にはオラファー・エリアソンの個展など、注目の展覧会が続く。また今年の7月12日からは『TOKYO ART BOOK FAIR 2019』の開催も決定している。