2019年04月02日 10:11 弁護士ドットコム
夫が結婚するまで精神疾患を隠していた。法的に問題はないのかーー。結婚4年目だという女性から、こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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女性によると、夫は15年以上、精神科への通院歴があり、病気のことを知っていたら、結婚は踏みとどまっていたそうです。
仕事が続かない、収入が少ないといった問題で離婚話にいたることもあり、「なぜ一番身近な妻に隠していたのか」と憤りを感じているそうです。
精神疾患を隠していたことを理由に、法的に離婚が認められることはないのでしょうか。下大澤優弁護士に聞きました。
法的な離婚原因として、「強度の精神病」というものがありますが、今回は認められるのでしょうか。
「民法770条1項4号の『配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき』とは、夫婦としての協力義務を果たすことができない程度の精神症状で、しかも、その症状が不治のものであることを意味します。
今回の相談では、少なくとも満3年以上の期間、婚姻生活が維持されていたのですから、夫の精神疾患が『強度の精神病』に該当するとは考え難いでしょうし、精神疾患が不治であることを裏付ける事情もありません。
ですから、強度の精神病を理由とする離婚請求は認められないでしょう」 では、他に検討の余地はないのでしょうか。
「民法770条1項5号の『婚姻を継続し難い重大な事由』の有無を検討するほかありません。
『婚姻を継続し難い重大な事由』とは、夫婦が婚姻生活を営む意思を失い(主観面)、婚姻生活の実体も失われ(客観面)、回復の見込みがない状態を意味します。
今回は、夫が精神科への通院歴を隠していたことにより、妻の婚姻生活を営む意思は失われたものと考えられます。
しかし、そもそも、入籍の際に、夫婦となる者が相互に自身の病歴を自発的に明らかにすべき法的義務までは認められないと考えられますから、夫が精神科への通院歴を隠していたことが、婚姻生活の実体を回復不可能なまでに消滅させるほどの事情であるとはいい難いでしょう。
話をまとめると、現時点で『婚姻を継続し難い重大な事由』の存在が認められる可能性は低いといわざるを得ません。ただし、今回のトラブルをきっかけに夫婦間の衝突が激しくなり、別居に至った場合には、将来的に『婚姻を継続し難い重大な事由』の存在が認められる可能性はあります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
下大澤 優(しもおおさわ・ゆう)弁護士
2012年司法試験合格、2014年に弁護士登録。勤務弁護士を経て2016年に定禅寺通り法律事務所(仙台市)を開設。離婚・男女関係のトラブル(婚約破棄等)に注力している。
事務所名:定禅寺通り法律事務所
事務所URL:https://jozenji-law.com/