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「ULTRAMAN」特撮版ファン唸らす3DCG映像はどう生まれた? 神山健治&荒牧伸志両監督に訊く【インタビュー】

2019年04月01日 23:02  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

『ULTRAMAN』(C)円谷プロ(C)Eiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi (C)ULTRAMAN 製作委員会
2019年4月1日(月)より、Netflixにてフル3DCGアニメーション『ULTRAMAN』が配信開始された。
原作は「月刊ヒーローズ」にて連載中の同名のマンガ作品(清水栄一×下口智裕)。ウルトラマンが地球を守るために戦いを繰り広げていた日々から時が経った世界を舞台とし、ウルトラマンの力を継ぐ者たちが、スーツをまとって新たなる侵略者との戦いに臨む模様が描かれている。

本作は、『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ、『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』の神山健治、『APPLESEED』『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』の荒牧伸志が共同で監督を担当するというダブル監督体制。

これまでそれぞれの作風で第一線を歩んできたふたりの才能がどのように融合し、完成へと至ったのか。
セルルックなキャラクターとフォトリアルなウルトラマン・異星人たちが同居する画作りへのこだわりや、技術的な挑戦、作品の見どころについて語っていただいた。
[取材・構成=山田幸彦]

※この原稿は、『ULTRAMAN』の本編に関する内容を一部含んでおります。予めご了承下さい。

『ULTRAMAN』

■『ウルトラマン』世代のこだわり


――昨今パワードスーツが登場する作品は多く存在しますが、そんな中『ULTRAMAN』映像化にあたって、作品の個性をどのように打ち出していこうと思われましたか?

神山
ウルトラマンの不思議な力を受け継いだ現代の主人公が、スーツを着て戦う。そして、そのスーツはウルトラマンの力で動いている……というところが、数多のスーツを着て戦うヒーローと本作の違いだと思います。
なので、原点の『ウルトラマン』の神秘性をいかに引き継いで表現できるかがポイントでした。

荒牧
原作ではスーツの機能などはあまり説明されていないところもあったんです。
パワードスーツかどうかといった部分も明言はされていなかったので、「リミッターを解除と言っても、脱いだ方が強いのか?」など、そういうところも含めて映像で補完していきたいと思いました。

神山
“着てる感”をもっと出したい、というのはありましたよね。

荒牧
あと、早田進がかつてウルトラマンと同化して巨大なヒーローになって戦っていた、というバックストーリーがあったので、そこを上手く説明しつつ、ウルトラマン因子を主人公の進次郎がどう受け入れていくのかというのを描ければ、他のヒーローとは違うものになるのかなと考えました。


――おふたりとも世代的に、『ウルトラシリーズ』とのファーストコンタクトは、『ウルトラQ』『ウルトラマン』からでしょうか?

荒牧
そうですね。『ウルトラQ』が始まったときは、今までTVで観たことがない映像だったので、本当に衝撃でした。映像もモノクロですし、ちょっとしたホラーでしたね。

神山
僕は『ウルトラマン』の放送された年に生まれていますから、観たのは再放送からなんですけれども、ほぼ『ウルトラマン』と共に育ってきたところがあります(笑)。

――今回の『ULTRAMAN』では、進次郎の変身シーンなどで原点である『ウルトラマン』の効果音をそのまま使用されていますよね。

神山
あの音にピンと来るかどうかで、世代が分かれるんでしょうね。ウルトラマンの力をしっかり引き継いでいるという表現であると同時に、特撮版シリーズを好きだった人たちへのサービスみたいなところもあります(笑)。

荒牧
「ちゃんとわかってるよ!」というサインでもあるし、「ないがしろにしてないよ!」というメッセージでもあるというか(笑)。


――また、サービス的なところで言うと、第1話冒頭のウルトラマンとゼットンの対峙は、原作でも写実的なタッチで描かれていましたが、映像でもリアリティたっぷりに描写されていましたね。

荒牧
あの場面は、観ている人に「アニメを観始めたはずなのに!」という驚きから入ってもらおうと思ったんです。
直後、アニメタッチの子ども時代の進次郎が登場するので、画的に成立させるのに苦労はしたんですけれど、導入としては面白くなったかなと。ゼットンの声も当時と同様のものですし。
そういうところが僕ら世代のこだわり部分なのかなと思いますね。

――そんなおふたりにとって、印象的なウルトラ怪獣・異星人はなんですか?

神山
メトロン星人ですね。『ウルトラセブン』作中で、メトロン星人が四畳半でちゃぶ台を挟んでモロボシ・ダンと会話をするというシーン(第8話「狙われた街」)が、子ども心にものすごく印象的でした。
観た日の夜、自分の家の襖の前にメトロン星人が立っているという夢を観たくらいインパクトがありました。「異星人が家の中に入ってくるのはこんなに恐ろしい体験なのか!」と。
僕だけでなく、数多の人にインパクトを与えた異星人なのではないかと思いますね。

荒牧
同じ様な体験で言うと、僕は田舎に住んでいたので、湖から怪獣が出てくるシーンなんかがあると、しばらくは近所の湖に行きたくないと怯えたりしていましたね(笑)。
怪獣・異星人で言うと、バルタン星人が造形的に面白くてとても好きです。第4話のラストでエイダシク星人がバラバラになって数が増えていくシーンなどは、そのバルタンをオマージュしたところですね。


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■アニメのキャラクターと特撮の実在感の融合を目指す
――メトロン星人のお話が出ましたが、『ULTRAMAN』作中でも、ゼットン星人のエドが人間たちといるだけで、画面に異物感がありますよね。

神山
しかも背広まで着ていますからね(笑)。

荒牧
エドに限らず、異星人のキャプチャーのときにどう芝居してもらうかを考えるのも面白かったです。頭がでかいので、ちょっと動くだけで存在感が出るんですよ。


神山
頭の大きい異星人をモーションキャプチャーで撮るときは、役者さんの頭の上に目安になる物をつけて、「目線はここからです」と指示しています。今回は等身大の異星人なので、意外とキャプチャーに向いていましたね。

――フル3DCGで描かれる作品ということで、今回の『ULTRAMAN』ではどういったルックの映像を目指されましたか?

荒牧
最初に考えたのは、キャラクターをアニメっぽくしつつ、ウルトラマンや異星人にはある程度質感を付与して、特撮っぽさを出すというバランスです。
ウルトラマンに関しては間違いなく行けると思っていたんですが、画面にキャラクターが同居しているときは成立するか心配でした。

神山
単純なセルルックでもなく「これは果たしてアニメなのか?」という不思議な映像に仕上がったと思います。そこに至るまでの落としどころに苦労しましたよね。

ウルトラマンのスーツ姿で進次郎が顔を出しているカットなどは、アニメの絵がスーツにそのままはめ込まれた感じになりかねませんし。
作業を進めるなかで、セルルックとフォトリアルな質感を両立させるコツがわかってきました。たとえば、キャラクターの色分けは、セルアニメのようなはっきりしたものではなくグラデーションをつけたり、いろいろ工夫をしています。


荒牧
キャラクターに関して言うと、早田や井手(光弘)あたりはデザイン的に密度があるから平気なんですけど、レナちゃんは大変でしたね。


神山
そうですね。セルアニメでは正面寄りの角度が可愛くなるものなんですが、3Dで作った場合、それが必ずしも良くなかったりして。ほっぺたの奥行きがわかるくらいの角度のほうがハマったりするんですよ。

――シーンごとに質感のバランスに悩まれることもあったのでしょうか?

荒牧
夜のシーンではリアルな質感で成立していたものが、昼のシーンではそのままの質感で画面を作ると浮いてしまうことがありました。そのあたり難しいところでしたね。

神山
加えて、僕は作画のアニメから来ているし、荒牧監督はCGから来ているから、お互いに折衷案を見つけるところにも時間がかかりました。

荒牧
「そこ、アニメ感出し過ぎじゃないですか?」「大丈夫、大丈夫!」とか。その逆もあったり(笑)。

■ライブシーンの観客の挙動にも要注目!
――今回、技術面で新基軸は取り入れられているのでしょうか?

神山
すごくリアルなテクスチャのウルトラマンや異星人と、ツルッとしたキャラクターたちを融合させるためにアウトラインを入れているんです。
これが新たに挑戦した部分でしたので、なかなかコントロールが難しくて。特にレナなんて、線が少なくて可愛く見えなきゃいけないキャラクターなのに、一番欲しいところに線が出なかったり、目の下や鼻筋に線が出てしまったりと、地味に苦労したところではありましたね。


荒牧 
技術的な見どころですと、8話のライブシーンですかね。いちいち歌っている人に観客が反応していたりします(笑)。

神山
アイドルのライブを描いたアニメも数多あると思いますが、観客が歌っている人に合わせてちゃんとノッている映像は初めてじゃないですかね。「そんな細かいところ誰得なんだろう?」とも思いつつ(笑)。
ソフト・ハード的なチャレンジというよりは、テクニックの部分ですね。

荒牧
「そこ頑張るとこか!?」っていう。力技ですよね(笑)。

――では、最後にあらためて『ULTRAMAN』の見どころをお願いします。

神山
進次郎という主人公をどう描くかが一番苦労したところでした。
最初は僕も荒牧さんも、「何者でもないことにずっと悩んでいるところが、進次郎の魅力になるだろうか?」ということをずっと考えていたんです。
でも、今はむしろ彼みたいなタイプの主人公の方が現代的で共感を呼ぶのかもしれないなと。

原作を尊重しつつ、僕らなりに視聴者の方が入り込みやすいキャラクターを作ってみようというアプローチをしてみましたので、そこを楽しんでもらえるといいなと思います。

荒牧
あとは、アクションシーンに関しても原作を読んでいる方の期待を上回るくらい膨らましているので、大きな見どころです。

スーツと異星人の戦いにもいろいろなシチュエーションを用意してありますし、意外な角度からアクションを見せることにもチャレンジしています。
さらに、3体登場するULTRAMANも、それぞれの戦い方に個性を出していますので、ドラマと共にスケールアップしていくアクションも楽しんでいただければと思います!

『ULTRAMAN』
(C)円谷プロ(C)Eiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi (C)ULTRAMAN 製作委員会