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「セクハラ議員の名前さらします」 川越市議会の条例が波紋

2019年04月01日 11:01  弁護士ドットコム

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ハラスメント議員の名前を公表するーー。こうしたことを定めた条例が、埼玉県川越市で3月上旬から施行されている。前市議が市の女性職員にハラスメント行為をしたとされる問題を受けてのもので、議員自らが「実名をさらす」覚悟に、ネットでは驚きの声も出ている。


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●ハラスメント根絶が目的

「川越市議会ハラスメント根絶条例」として、大泉一夫市議(公明)が提出した。議員によるハラスメント(セクハラ、パワハラなど)の防止と根絶を目的としている。



議員の責務として、議員が市職員にハラスメントをしている場面に遭遇した際には、その議員に「厳に慎むべき」と指摘するよう努めなければならない、と明記。ハラスメントの報告を受けた議長が事実を確認したら、その議員の名前を公表しなければならないと定めた。



また、議員が被害者のプライバシーの確保に十分配慮し、議員を辞職した後においてもハラスメントに関して職務上知り得た秘密を漏らしてはいけないことも記した。今回の条例はどのような点が画期的だろうか。地方自治の問題に詳しい湯川二朗弁護士に聞いた。



●「議長の権威」抑止に活用

ーーハラスメントの抑止力として、今回の条例はどう評価できますか



「地方議会議員や市長によるハラスメントが最近問題になっている中で、川越市議会で、自ら襟を正すという趣旨で、議員による職員に対するハラスメント根絶を目指す条例が全会一致で可決されたことは画期的なことだと思います。



特徴的なことは、議長に議員ハラスメントの防止根絶に努め、迅速適切な必要措置を講じる責務を認めたことです。議長には、事実関係を把握し、ハラスメントを行った議員の氏名の公表の責務もあるものとしました」



ーーその点がどうして特徴的なのでしょうか



「議員によるハラスメントの被害申告があったとしても、その事実関係の把握は容易ではありません。



ところが、議長の権威をバックにして事実関係の把握に努めようとするもので、実効的なハラスメントの抑止策の試みだと思います。通常、議長は議員経験をある程度経た与党会派から選ばれるため、議長の権威を無視することは考えにくいです」



ーー逆に懸念されることはありますか



「そうですね。諸刃の剣のような部分もあるように思います。うまく使えば実効的なハラスメント抑止策となりますが、逆に、ハラスメントの定義があいまいなこともあり、多数会派による少数会派の抑圧に利用されるのではないかという懸念もあります。



現に、条例の制定にあたっても、えん罪・議員バッシングを指摘する声もあるようです。思慮深い、適正な運用を期待したいものです」



ーーこうした条例は他自治体へ広がる可能性はあるでしょうか



「2017年12月に国立市で、2018年6月には狛江市で、市長や議員によるハラスメントが発覚したことをきっかけにして、議員のハラスメントを防止する条例が制定されています。



以前からも、議員政治倫理条例の中にハラスメント防止条項を定めるものもありましたが、ハラスメント防止に特化した条例が制定されているのが最近の特徴のように思われます。



今後とも議員ハラスメントが問題となるときは、同種のハラスメント防止条例が制定されていくことと思います。この動きが、地方議会が首長・行政に対する監視機能を適切に果たし、二元代表制の本旨を実現できるようになる一助になることを願っています」



(弁護士ドットコムニュース)




【取材協力弁護士】
湯川 二朗(ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身。東京で弁護士を開業した後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。土地区画整理法、廃棄物処理法関係等行政訴訟を多く扱っています。全国各地からご相談ご依頼を受けて、県外に行くことが多いです。

事務所名:湯川法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/kyoto/a_26100/g_26104/l_123648/