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黒川芽以×大九明子監督『美人が婚活してみたら』対談 「なるべくリアル感を届けたかった」

2019年03月30日 10:11  リアルサウンド

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 『勝手にふるえてろ』の大九明子監督最新作『美人が婚活してみたら』が現在公開中だ。人気漫画アプリ『Vコミ』で累計1000万PVを突破し、長期間ランキング1位を獲得した人気コミックを実写映画化した本作では、長く続いた不倫の終焉をきっかけに、32歳のWEBデザイナーのタカコが、本気で始めた婚活をとおして自らと向き合い、もがき苦しみながらも、30代の女性が自分の足で歩き出すまでが描かれる。


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 今回リアルサウンド映画部では、タカコ役で主演を務めた黒川芽以と監督を務めた大九明子にインタビュー。制作や撮影の裏話から、お互いの印象、そして脚本を手がけたシソンヌじろうのマル秘エピソードまで、じっくりと語り合ってもらった。


ーー大九監督にとっては前作『勝手にふるえてろ』以来の新作映画ということになるわけですが、どこか『勝手にふるえてろ』と近い部分があるように感じました。


大九明子(以下、大九):テーマということで言うと、1人の女性に焦点を当てていると言う意味ではそうかもしれません。原作がどうあれ、自分自身が好きな人物像を作っていってしまうので、“女の生き様”みたいな匂いは似てくるのかなと思います。ただ、今回はよしもとさん制作の映画なのですが、かねてから噂には聞いていたものの、ものすごいスケジュール感で……(笑)。


ーー具体的にどのようなスケジュール感だったんですか?


大九:『勝手にふるえてろ』が第30回東京国際映画祭で観客賞をいただいて、スタッフたちと浮かれていた2017年の12月頃にちょうどこのお話をいただいたんです。そこから2018年2月末に撮影に入って、4月には完成させて……(笑)。


黒川芽以(以下、黒川):私も今まで経験してきた中で一番早いですもん(笑)。


大九:ね(笑)。ビックリしました。撮影も9日間で大変でした。『勝手にふるえてろ』の流れでそのままそのスタッフにやってもらった感じだったので、『勝手にふるえてろ』に近しい空気感があるというのは、スタッフがほぼ被っているのも理由かもしれません。


ーー大九監督と黒川さんのタッグは2014年にWOWOWで放送されたオムニバスドラマ『ああ、ラブホテル』以来2度目となりますが、久々にお仕事をしてみていかがでしたか?


黒川:最初に一緒にお仕事をしてから結構時間も経っていますし、前回はオムニバスドラマの中の1話で撮影も1日だけという短さだったんですけど、やっぱり面白い方だなという印象が強かったです。「こうしてみて」「ああしてみて」という指示が、今までの自分になかったものを引き出してくれるので、一緒にやっていてすごく楽しくて。前回1日だけのお仕事だったのに、今回こうやってまた声をかけてくださったのが本当に嬉しかったです。しかも『勝手にふるえてろ』で大九監督がすごいことになっているタイミングだったので、同時にプレッシャーも感じました。あとは「美人」というタイトルに対してのプレッシャーもすごくあって……(笑)。


ーーいやいや(笑)。


黒川:本当に毎日家に帰るとそのプレッシャーに押しつぶされそうになりながら……。でも現場に行ったら大九監督は明るくて優しいし、すごく面白い演出をしてくださるので、とても楽しかったですね。


大九:黒川さんはキャリアも長いので、一ファンとしていろいろな作品を観ていたんです。そんな時に初めて『ああ、ラブホテル』でご一緒して、意外とガーリーというか、コメディエンヌな部分がすごくあるなと思ったんです。どちらかと言うと、きれいでセクシーなお姉さんのような、男性のミューズのような役どころが多かった気がしたので、黒川さんのそういう面をもっと引き出せる人がいたらいいなと。普段の黒川さんは、女の子が一緒に連れ回したくなるようなタイプだと思うんですよね。


黒川:確かに友達から「芽以が彼氏だったらいいのに」ってめっちゃ言われます。


大九:そうそう。男性からすると、もしかしたら「そんな黒川芽以は見たくない」というようなちょっとおちゃらけた部分もあるのかもしれないですけど、女性はたぶんそれでグッと心を掴まれるんじゃないかと。そのいじくる役が私に回ってきたので、素直に嬉しかったですし、光栄でした。


ーー黒川さんはこのストーリーにとても共感したそうですが、具体的にどのあたりが?


黒川:一番最初に台本を読んで思ったのは、女子同士の会話の面白さです。女性って、男性よりも話すことが多いというか、セリフっぽく言ったり細かく言ったりするところがあると思うんです。まずはそこに共感できるなと思って。あと、私自身が独身で婚活もしたことがないので、30歳前後のまだ結婚していない焦りとか、揺らぐ感じもすごくわかるなって。


ーー黒川さん演じるタカコの細かい仕草やリアクションがとてもリアルでした。


大九:私は現場でポンっとやってもらうのが好きなので、実はあまり本読みとかやらないんです。だけど、今回の作品は女の人にちゃんと届けたかったので、女同士が、男の人が引いちゃうぐらいの丁々発止の毒っ気のある話をしているんだけど、それがとてもチャーミングというすれすれのところをやりたくて。なので、飲み会のシーンなどでは、黒川さんと臼田(あさ美)さんのお2人に本読みをさせていただいて、「2人のノリみたいな遊びがあってもいいので、空気感を生んでほしい」というお話はさせていただきました。その結果、ああいう面白いシーンに仕上がったので、すごく嬉しかったですね。


黒川:あさ美さんもああいう女同士の会話のシーンがすごく上手なので、特に心配もなく、私もなるべくリアル感を届けたいという思いでやっていました。私が大九さんの演出で面白いなと思ったのは、2人の男性を語る時にグラスを使ってやってほしいと言われたこと。私は最初、手でやろうかなと思っていたんですけど、それをグラスにして、競争させたりするっていう演出をしてくださって。


大九:かわいいでしょ? 女の子ってそういうことやるんですよ。黒川さんは普段そういうことやる人だと思って。


黒川:あはは(笑)。


大九:そういう“黒川芽以のかわいさ”を見てほしかったんですよね。


黒川:こんなかわいい演出をしてもらったことがないから、なんかすごく恥ずかしくなってしまって。本当に今までそういう役をやったことがなかったんです。だから、こんなかわいいことをして大丈夫なのかと(笑)。噴水での待ち合わせのシーンも、台本には「待ち合わせで待っている」としか書いていないんですけど、現場で「カエルみたいに口をパクパクしてみて」って言われて、こんな感じかなぁってパクパクやってみたら、「かわいい~」って言ってくれたりして(笑)。恥ずかしいんだけど楽しかったですね。大九監督は女優さんをかわいくしてくれる人なんだと思います。


ーーラストの黒川さんの歌唱シーンもかわいかったです。


黒川:あ、嬉しい(笑)。私、本当はカラオケに行ったら椎名林檎さんの曲を巻き舌で歌うようなタイプなんですよ!


ーーそうなんですか?(笑)


黒川:実際はあんなに可愛らしく歌えないんですけど、あの歌は最後にほんわかする感じで私も好きですね。でも、歌も歌ってるし、普段と違うかわいい感じだから、映画が公開されるのがちょっと怖い……。


大九:あー、そっか(笑)。あの曲はクランクインの直前に曲をお渡しするぐらい、ギリギリだったんだよね。


ーー直前で決めたと。


大九:どう終わらせようかと思って悩んでいたんですけど、『勝手にふるえてろ』でもご一緒した高野正樹さんの曲だったので、これは歌で終わろうと。


黒川:本当に“大九節”という素晴らしい終わり方だと思いました。


ーー今回の作品はシソンヌのじろうさんが脚本を手がけているのもポイントですよね。


大九:これがまたすごい話で。打ち合わせで喋っていると、「あぁ、大丈夫です」みたいな感じなんですけど、全然書いてこないんです。12月に私のところに話がきて、「じゃあやりましょう!」とこっちはスタッフとかに声をかけて準備してやってるのに、じろう先生がなかなか……(笑)。打ち合わせにはご陽気でいらっしゃるんですけど、とにかく何回会っても一文字も書いてこなくて、プロデューサーとかも含めてどうしたらいいんだろうと。もしかしたら「婚活」というテーマとじろうさんという組み合わせに無理があったんじゃないかとか、抜本的に変えなきゃいけないんじゃないかとか、偉い人たちはそう考えていたらしいんですけど、私は「この人絶対書けるはずなのになんで書かないんだろう」と思っていて。年が明けて1回目の打ち合わせの時に、「すみません!」って土下座しながら打ち合わせの部屋に入ってきたんですよ(笑)。


黒川:(笑)。


大九:なんだと思ったら、「僕は面白いものしか書けないんです!」と(笑)。


黒川:名ゼリフですねー(笑)。


大九:芸人さんならではというか。すごく酷なことをお願いしているんだと改めて気がついて、プロデューサーたちとみんなで一生懸命、映画っていうのはコントみたいに四六時中笑わせるということではないので、どうかひとつそこを乗り越えていただきたいと説得して、「頑張れ、じろう!」という感じで(笑)。そしたら、「わかりました、書きます! いつまでに?」って言うので、「明日で」って言ったんですよ。そしたら本当に一晩で初稿を書き上げてきたんです。そこから何回か書き直してもらいましたけど。


ーー具体的にどういう部分が変わったのでしょう?


大九:それこそ最初はもうちょっとベタベタなコメディでした。じろうさんも探りながらだったと思うので、シーンによっては少しコント色が強かったり映画っぽさを意識しすぎたりがあったんですけど、全体のテーマとしてきちんと1人の女の人に寄り添った物語を書いていたんです。だから、もうあとはいじっても大丈夫だと思ったので、普段映画を作る時のシナリオ打ち合わせと同じマインドでやりました。


黒川:本当にドラマみたいな話ですね(笑)。


大九:ね。本当に土下座してる人、初めて見たもん(笑)。


(取材・文=宮川翔)