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『ブラック・クランズマン』から見えてくる“今のアメリカ” 強烈なエンディングの意図を読む

2019年03月30日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『グリーンブック』『ブラックパンサー』『ブラック・クランズマン』と、人種問題を題材にした作品がノミネートされた今年のアカデミー賞作品賞。数年前には黒人のノミネートがひとりもいなくて「白すぎるアカデミー」と批判されたことを思い出さずにはいられない。そんななか、デビュー以来、常に作品を通じて人種問題と闘ってきたスパイク・リー監督の新作『ブラック・クランズマン』は、驚きの事実をドラマ化した話題作だ。なにしろ、過激な白人至上主義団体、KKK(クー・クラックス・クラン)に潜入捜査した黒人刑事の物語。一体どうしたら、そんなことができるのか。


【動画】『ブラック・クランズマン』本予告


 物語の舞台は70年代のアメリカ、コロラド州コロラドスプリングス。ひとりの黒人青年が期待に胸を膨らませて地元の警察署に就職する。彼の名はロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)。街で初めての黒人警官だった。早速、事件の捜査に飛び出したいと思っていたロンだったが、与えられた仕事は書類管理。仕事を依頼する同僚には、平然と人種差別をする者もいる。うんざりしたロンが「捜査がしたい!」と署長に直訴すると、黒人政党、ブラックパンサー党の演説会への潜入を命ぜられる。事件らしいことは起こらなかったものの、ロンはそこで出会った女性幹部のパトリス・デュマス(ローラ・ハリアー)に心惹かれていく。ロンはパトリスとの出会いで人種問題について深く考えるようになるのだが、刑事であることを隠してパトリスをデートに誘うロンの恋の潜入捜査(ロマンス)も本作の要素のひとつだ。


 一方、新たな捜査に燃えるロンが目をとめたのは、新聞に掲載されていたKKKのメンバー募集の広告だった。そこに書かれていた電話番号に白人の差別主義者のふりをして連絡したロンは、相手をすっかり騙して面接までこぎつける。問題はどうやって会うか。そこで選ばれたのが、同僚の潜入捜査のベテラン、フリップ・ジンマーマン(アダム・ドライバー)だった。電話ではロン、対面ではフリップ。そんな人種混合チームが、KKKの奥深くに入り込み、最高幹部のデビッド・デューク(トファー・グレイス)に迫っていく。


 70年代に巻き起こったブラックパワー・ムーブメントの最右翼、ブラックパンサー党とKKKという両極端の団体のなかで、根深い人種問題に向き合うことになるロンとフリップ。本作はバディムービーとしての面白さもあって、人種を越えた二人の息が合った掛け合いは『48時間』や『リーサル・ウェポン』を思わせる痛快さ。ジョン・デヴィッド・ワシントンはかのデンゼル・ワシントンの息子だが、父親とはひと味違った飄々とした演技で物語を引っ張って行く。一方、ぼーっと立ってる姿が不思議と絵になるアダム・ドライバーは、押さえた演技で相棒役を好演。ロンの指導のもと、黒人特有の言い回しを学ぶために、ブラックパワーのテーマソングともいえるジェイムズ・ブラウン「セイ・イット・ラウド(アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド)」の歌詞を復唱する姿が微笑ましい。単身、KKKに潜入するフリップはロン以上に危険だが、あえてその危険に挑む背景には、ユダヤ人である彼が自分が差別される側の人種であることを意識したからだ。フリップとロンは同僚としてだけではなく、差別される者同士として絆を深めていく。


 KKKに潜り込んだフリップは、そこでメンバーのフェリックスに目を付けられながら怪し気な計画が進行していることを知る。フェリックスと一部の仲間はテロを計画していて、その標的のひとりがパトリスだったのだ。このあたりから物語はサスペンスフルな展開になっていくのだが、政治的なテーマでありながらもエンターテインメントとして楽しませるのが、スパイク・リーらしいところ。パトリスとロンがデート中に、『黒いジャガー』や『スーパーフライ』など70年代にヒットした黒人映画の話をするシーンがあるが、本作はそういった黒人映画やポリス・アクションなど70年代の映画のスタイルを引用。さらに『國民の創生』『風と共に去りぬ』といったアメリカ映画の名作の映像を織り込み、そうした作品に潜む人種差別問題も取り上げる。いってみれば本作は、巧みなサンプリングと芯の太いグルーヴで生み出されるヒップホップのようだ。


 爆弾騒ぎはフィクションのようだが、スパイクは事実をベースにイマジネーションを広げて、時にはコミカルに、時には恐ろしく、アクション、ロマンス、サスペンスなど、様々なジャンルや感情を盛り込んで映画的な映画を生み出した。そのうえで、スパイクは最後に爆弾を仕掛けている。映画が終わったかと思った瞬間、突然、挿入される21世紀のアメリカのニュース映像。そこではリアルな悲劇が繰り広げられ、本物のデビッド・デュークが、そして、トランプ大統領が登場する。そして、そこでほのめかされるデュークと大統領の関係。スパイクの反骨精神が炸裂する強烈なエンディングだ。最後に流れるプリンスが歌う黒人霊歌「メリー泣かないで」が胸にしみる。フィクションのなかに現実の映像を入れる演出は、レジーナ・キングが助演女優賞を受賞した『ビール・ストリートの恋人たち』にもあったが、どちらの作品からも「闘いはまだ続く」という強いメッセージが伝わってくる。本作はスパイクに念願のアカデミー賞(脚色賞)をもたらしたが、作品賞を受賞した『グリーンブック』も白人と黒人の友情を描いた作品で、こちらは白人監督、ピーター・ファレリーによるもの。2本を併せて観ることで、今のアメリカが見えてくるはずだ。


(村尾泰郎)