2019年03月30日 09:41 弁護士ドットコム
ある日突然、事件に巻き込まれ、「被害者」あるいは「加害者家族」になった人たちは何に困っているのかーー。
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被害者と加害者家族の支援にかかわるNPOの代表者らが3月23日、東京都内で開かれたシンポジウム(主催:NPO法人「WorldOpenHeart(WOH)」)で、率直な思いを語った。
この日、被害者支援をおこなう片山徒有さん(「あひる一会(あひるのいちえ)」「被害者と司法を考える会」代表)と加害者家族を支援する阿部恭子さん(WOH代表)が対談した。
阿部さんは「加害者家族も被害者の状況と似て、蚊帳の外に置かれている。何が起きているか分からず、情報も十分に貰えていない」と問題視。犯罪被害者や遺族、加害者家族の支援を通して、みえてきたことを語った。
犯罪は、事件の直接的な被害者だけでなく、遺族にも深い傷を負わせる。しかし、被害者、遺族ともに支援は薄い。2000年に設立された「あひる一会」は、遺族を含めた「被害者」を支援する団体だ。
片山さんは1997年、ダンプカーによる横断歩道上のひき逃げ事故で次男の隼くん(当時8歳)を亡くした。当初、運転手は不起訴処分になったが、片山さんが検察に処分理由を聞いても「答える義務はない」と取り合ってもらえなかった。冷たい対応に、片山さんは強い不条理感を抱いたという。
「当事者が頑張らないと、つぎに続く人が同じような辛い目にあってしまう」。
そう思った片山さんは、被害者や遺族を支援するための活動を開始した。一方で、「被害者の視点を取り入れた教育」として刑務所や少年院などで入所者に向けた講話や指導などもおこなっている。
長年、被害者は司法の場で「蚊帳の外」に置かれていた。事件の当事者であるにもかかわらず、裁判で意見を述べたり、知りたい情報を得たりすることはできず、支援も整っていなかった。
片山さんら被害者が声を上げるようになり、2004年には犯罪被害者等基本法が成立、2008年には被害者が裁判に直接参加できる「被害者参加制度」が始まった。
被害者支援は進んできているが、今も被害者が知りたい情報は十分に得られないことがあると片山さんはいう。さらに、被害者参加制度にはある問題があると指摘した。
「被害者、遺族はさまざまな思いを抱えて生きています。裁判に参加できるのは、極めて強い応報感情を言葉にできる『強い被害者』のみです。
公判で最大限の求刑かそれを上回る刑罰を望む被害者は少なくありません。しかし、その通りの判決が出ることは少なく、ストレスを感じてしまうこともあります。
また、傍聴席からは被害者の一喜一憂すべてが晒しものになってしまいます。これは苦痛が高まるだけです」(片山さん)
阿部さんが加害者家族の支援を始め、WOHを設立したのは2008年のことだ。これまで加害者家族から受けた相談は約1500件にのぼる。
しかし活動に対しては、一般の人から「被害者のことを考えると、加害者家族の支援が本当に必要なのか」という疑問をぶつけられることもある。
阿部さんは、こうした声について、加害者の家族は「悪」というイメージが社会にあるからではないかと指摘する。
「加害者にならないように気をつけても、いつ加害者家族になるかは分かりません。他人事ではないのです。
事件の背景に、親の虐待やDVがあるなど、加害者家族も『隠れた加害者』というケースもあります。しかし、加害者が事件を起こした原因を突き止めるのは時間がかかることで、捜査段階ではまだ分からないことです」(阿部さん)
阿部さんによると、加害者との関係によって、家族の受け止め方は異なるという。
「親であれば、更生できるように子を支えたいと願っている人が多いです。逆に、配偶者の場合は、相手に裏切られたという気持ちが強いこともあり、加害者と離れることを望む人もいます。
また、兄弟姉妹では、事件のために結婚できなかったなどと憎しみを抱くこともあります。
中には、被害者側以上に『私の人生に傷をつけた。もっと刑罰を重くしたい』という感情をもっている家族もいます。これは仕方ないことですし、支援にあたっては、家族の生の感情を大事にしています」(阿部さん)
加害者に対する被害者の怒りが、加害者家族に向かうことも少なくない。そんな時、被害者と加害者が対話することで、被害者の怒りが和らぎ、心から悲しむことができるようになるなど、よい方向に向かうケースもある。
「対話をするにあたっては、なるべく多くの人に関わってもらいます。1回の対話で終わることはありませんし、時間はかかります。ただ、続けることで被害者側も視野が広くなり、加害者側も内省が深まります」(片山さん)
被害者から加害者家族に対する圧力が強すぎるケースについて、阿部さんが片山さんに相談し、両者の対話が実現したこともある。
「まわりは事件のことをどんどん忘れていきます。対話につなぐことで、事件のことを誰かと一緒に共有することができます。人生の中に、事件が深く入ってしまった人ほどいろいろな人と関わっていくべきです」(阿部さん)
阿部さんによると、被害者が事件のことを忘れたいと思っていたり、事件にこだわっていなかったりする場合もある。そんな場合には、必ずしも対話が必要とはならないという。
(弁護士ドットコムニュース)