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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第1回】週末に結果を出すために重要なコンディションと2019年勢力図の驚き

2019年03月30日 06:01  AUTOSPORT web

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2019年ハースF1で現場を率いる小松礼雄チーフエンジニアが、F1チームの戦い方をお伝えします
今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと、小松礼雄チーフエンジニア。オフシーズンのバルセロナテストの手応えも充分で臨んだ2019年シーズンの開幕戦、ハースは見事ケビン・マグヌッセンが6位入賞を果たす結果となった。そこまでのオーストラリアGPの現場の模様、そしてハースとF1チームの内情を小松エンジニアがお届けします。

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 みなさん、今シーズンもこちらのコラム、よろしくお願いします。昨年はチームも成長して選手権5位という結果を3年目で残すことが出来、大きな自信になりました。4年目の今年は、3年目を上回るという意味でも新レギュレーションに対応するという意味でも大事な勝負の年となります。

 まずは開幕戦の結果ですが、ケビンが6位入賞。予選の6番手、7番手はウィンターテストからの予想通りの結果で、とてもよかったっと思っています。ただ、ラップタイムの差もそうでしたが、メルセデスが速かったのは予想外でした。オフのテストではそこまで速くはないと予想していましたが、まずはメルボルンでのFP2で見せたメルセデスの速さには驚きました。本当にビックリしました。

 ハースとしては、まずは金曜日に懸念されていたクルマのトラブルがあったのが痛かったです。ケビンのクルマは金曜の夜に冷却関連の部品をほぼ全交換しましたし、ロマン(グロージャン)のクルマは夜にエンジンをかけた際にオイル漏れがあり、いったんエンジンを車体から切り離して該当部品を交換しなければなりませんでした。

 結果、競技規定で年間2回まで許されるサーキットでのカーフュー(夜間労働時間制限)を初戦で破ってしまう羽目になりました。部品を交換して、再びエンジンをかけて車検場にクルマを持っていったのが土曜日の朝の8時くらいで、僕は8時半にホテルに戻って2時間だけ寝て、またサーキットに戻ってきたのですが、スタッフはみんな疲れ切っていました。そして、その疲れが後々、いろいろな部分に影響してしまいました。これは僕が開幕戦に行く前に一番避けたかったことです。

 メルボルンでの第1戦、実は今回、かなりスタッフが変わったんです。ロマンのナンバー1メカニックも奥さんが出産ということもあって、来れなかったので今回は変わりのメカニックがナンバー1をやりました。ここら辺りでコミュニケーションにも問題があり、予選Q1で2回目に走り出す時にすごく時間がかかってしまい、結局、アタックが間に合いませんでした。幸運なことにロマンの1回目のタイムが14番手ギリギリだったのでQ1を通ったのですが、危なかったです。

 その後の予選では、ロマンがよく走ってくれました。というのも、Q2あたりからエキゾーストの一部が割れて、エネルギーのリカバリーが全然うまくいっていなかったのです。結果、MGU-Kがエネルギー不足になりストレートが伸びませんでした。Q3ではこれがかなりひどい状態になり、ラップタイム的にはコンマ2秒くらいロスしていました。

 その状況での6番手は、まさにロマンのパフォーマンスのお陰です。同じパワーユニットを搭載しているフェラーリとの差も、思ったより小さかったですし。オフのテストではコンマ5~7秒くらいの差があると思っていましたが、実際にはコンマ4秒程度。レッドブルとの差もコンマ3秒ぐらいだと思っていたのでほぼ予想通りのパフォーマンス差でした。

 そして決勝ですが、金曜日のゴタゴタがあったので言い訳をするわけではないですが……ピットストップで左フロントのタイヤ交換に手間取って制止時間で7~8秒ロスしてしまいました。

■グロージャンのリタイア原因とタイヤ交換ミスの真相。F1開幕戦での驚き

 左フロントタイヤのガンマンは、ロマンのナンバー1メカニックなのですが、金曜日はほとんど寝ていないし、日曜日の朝からもエキゾーストの修復に追われ、その後もFIAによる燃料搭載量のチェックなどがあり、時間的にもかなりギリギリで彼はかなり精神的に追い詰められていたと思います。もちろん、これはいつでも起こりうることなので言い訳でもなんでもないんですが、チームとしてまだ何か起こった時に上手く対処できる体制を作りきれていないというのが現状だと思います。

 ロマンは結局、ピットストップでのミスがリタイアにつながってしまいました。ピットストップで左フロントのホイールナットがすんなりと入っていかずにスレッド(ネジ山)にダメージを与えてしまいました。

 ナットがまっすぐな状態ではないときに強引にホイールナットをはめようとするとよく起こる、いわゆる『噛む』という状態です。すぐに緩めてはめ直せばまだ済む話だったのですが、その後の対処が良くなく、さらにそのままはめようとしてしまいました。最後はやり直して、ちゃんとはまったのですが、その時点でナットを破損しており結局14周後にホイールが外れていました。

 ケビンは6位入賞しましたが、ロマンはリタイア。しかも、そのリタイアの内容が昨年と同じピットストップでのミスが原因なので、情けない限りです。もともと、ピットストップの遅れだけでも、レースに大きな影響を与えていました。ロマンは(アントニオ)ジョビナッツィがかなりピットストップのタイミングを伸ばしていたので、その後ろで捕まってしまい、その前にいた(ランス)ストロールや(ダニール)クビアトにもピットストップ後は前に出てきた。結果的にピットストップのミスでポジションを5つ落としたということです。そしてリタイア。ピットストップのミスだけでもひどいのに、最悪でした。

 とはいえ、今シーズンに関してはまだまだ期待の方が大きいです。クルマがこれだけ速いというのも証明されたのが自信になっています。開幕前までは、いろいろな人にクルマの印象を聞かれましたが、その時は一応、自分が思っているよりも控えめに言っていましたけど(苦笑)。プレシーズンテストで2日目を走り終えたあたりから、僕はもう距離のことしか言っていなかった。速いことはすぐにわかったので、とにかく完走さえすれば結果は出る。ですから信頼性の確保に集中したかったのです。

 次の第2戦バーレーンも、上位が失敗しなければ7、8位でしょうけど、絶対にその位置に行けるようにしたいです。予選でもメルボルンではロマンが問題を抱えながらも6番手のタイムを出してくれて、ケビンもそれに続いてくれた。ケビンのタイムですらトップ3とコンマ6秒程度の差だったので、やっぱりバーレーンでは2台揃って確固たる位置でフィニッシュしたいです。

 開幕戦ではマクラーレンが速いとは思ってなかったので(ランド)ノリスがQ3に残ったことにはびっくりしました。(セルジオ)ペレスがQ3にいたこともそうですし、ルノーが2台ともQ2落ちしたことにもちょっと驚きました。もう少し上位に来ると思っていたので。ただ中団は混戦だと思います。

 先ほど書いた通り、ウチは今のところ頭ひとつ抜けていると思いますけど、その後ろは全部混戦だと思います。またサーキット特性によってもすぐに中団の順位は変わってくると思います。そこに引きずり落とされてしまうと何が起こるかわからないので、とにかく頭ひとつ抜けている状態を保ちたいです。