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卒業発表の長濱ねる。欅坂46の「裏センター」が駆け抜けた眩しき3年半

2019年03月29日 19:40  CINRA.NET

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メイン画像:2018年7月に富士急ハイランド・コニファーフォレストで行なわれた『欅共和国 2018』より photos by 上山陽介
■欅坂46、4人目の卒業者
3月7日、「お知らせ、335」と題されたブログで長濱ねるの卒業が発表された。欅坂46の卒業者としては今泉佑唯、志田愛佳、米谷奈々未に続く4人目となる。

アイドルの卒業は、時期が来れば自ずと訪れる学校の卒業とは異なり、常に突然の出来事としてやってくるものだが、他方、1月20日放送の『欅って、書けない?』でニューハーフバーのママに「『やりたいこと』と『やった方がいいこと』どっちを優先したらいい?」と尋ねていたことや、Lady Gaga主演の映画『アリー/ スター誕生』を見たことを報告する2月1日のブログ「映画、325」で平手友梨奈とのツーショット写真と共に「悲しくて哀しいのに観た後になにか心決めてる自分がいて」と綴られていること、さらには体調不良やスケジュールを理由に、あるいは告知なしに『欅って、書けない?』や自身がパーソナリティーを務めるラジオ番組『欅坂46 こちら有楽町星空放送局』、最新シングル『黒い羊』のカップリング曲“Nobody”のPV、“黒い羊”のテレビパフォーマンスへの不在が続いたことから、ファンの間には不穏な空気が漂っていたのも事実である。

『欅って、書けない?』のMCを務める土田晃之は、3月10日放送のラジオ番組『土田晃之 日曜のへそ』で、『日向坂46デビューカウントダウンライブ!!』の応接室に訪れた長濱ねるに「もっと早くにね、卒業とかしたかったんじゃない?」「よく頑張ったね」といった言葉をかけたと語っている。

■欅坂46への特例加入、けやき坂46との兼任……初めから語られうる物語があった長濱ねる
1998年9月4日に長崎で生まれた長濱ねるは、欅坂46のオーディション最終審査当日に長崎から上京してきた母親に連れ戻されて審査を辞退することになったため、他のメンバーとは約3か月遅れとなる2015年11月に欅坂46に特例加入した。それと同時に、ひとり異なる制服を着た長濱ねるだけで結成されたけやき坂46としての活動が始まり、兼任活動は、2017年9月に「漢字欅の稼働もさらに多忙を極め」たことにより欅坂46専任となるまで続いた。

かつて「長濱ねるの仲間」として集まったけやき坂46は、2019年2月11日に日向坂46へと名を改め、3月27日にデビューシングル『キュン』をリリースした。長濱ねるが卒業を発表する前日と前々日に神奈川・横浜アリーナで行なわれた『日向坂46デビューカウントダウンライブ!!』はけやき坂46のラストライブを兼ねたものでもあった。

そのような経緯があって長濱ねるは欅坂46のデビュー曲“サイレントマジョリティー”の歌唱に(欅坂46としては2016年の『紅白歌合戦』を除いて比較的最近まで)参加していないが、同曲を収めたデビューシングル『サイレントマジョリティー』には、早くも長濱ねるがセンターを務めるユニット曲“乗り遅れたバス”が収録されている。

ちょっとした表情や仕草、発言、無発言のひとつひとつが深読み、拡大解釈されることでアイドルが物語を紡いでいくなか、バスに乗り遅れた長濱ねるには幸か不幸か初めから語られうる物語があった。

■個人活動でグループを世に広めた眩しき「裏センター」
欅坂46の2ndシングル『世界には愛しかない』で晴れてタイトル曲の歌唱メンバーとして選抜入りした長濱ねるには現在までに、ソロ曲“また会ってください”“100年待てば”、『黒い羊』の収録曲“否定した未来”や、ユニット曲“微笑みが悲しい”“夕陽1/3”“バスルームトラベル”“音楽室に片想い”、坂道AKBのセンターを務めた“国境のない時代”、IZ4648(AKB48、乃木坂46、欅坂46、IZ*ONEのメンバーで結成された特別ユニット)の“必然性”など、けやき坂46兼任時代のものを含めて30曲もの楽曲が与えられたが、それらは全て長濱ねるが、欅坂46および長濱ねるを追いかけるファンに与えてくれたものでもある。

また“二人セゾン”“風に吹かれても”“ガラスを割れ!”“アンビバレント”といったタイトル曲で平手友梨奈の真後ろのポジション「裏センター」に配置されてきたことや、長濱ねるの意思を尊重したい、と言いつつも卒業を引き止められなかったことを悔やむメンバーの声からは、欅坂46の掛け声「謙虚、優しさ、絆」を体現したような長濱ねるが「危なっかしい」欅坂46(参考記事:平手友梨奈の帰還。アンビバレントで危なっかしい、欅坂46の特異な魅力)を支える中心的な存在のひとりであったことが窺える。

『夏の全国アリーナツアー2018』の楽曲間パフォーマンスで長濱ねると平手友梨奈が背中合わせになる場面があったが、そのときの「平手の背中は私が守る」と言わんばかりの長濱ねるの姿は、そのことを象徴しているように映った。

さらにグループとしての活動に留まらず、昨年11月の時点で累計発行部数20万部を突破したグループ内では初の個人写真集『ここから』の刊行や、冠番組『ねるねちけいONLINE!』、ドラマ『七夕さよなら、またいつか』『長崎発地域ドラマ かんざらしに恋して』、CM「AGAヘアクリニック」への出演など個人としての活動を通して欅坂46というグループを世に広めていった長濱ねるは、まさしく「伝達者」という意味での「天使」と呼ぶに相応しい存在であった。自身の卒業を発表したブログで「記憶のどの瞬間を切り取っても眩しくて楽しくて幻みたいなのです」と語られるその「眩し」さとは、われわれが見た長濱ねるの姿と同じものであったのかもしれない。

■「バスに乗り遅れた」長濱ねるの歩みと歌詞世界のリンク
そうした「光」の側面に対して、長濱ねるには途中加入への「負い目」がつきまとっていたようでもあり、そのことは長濱ねるの誕生日9月4日と重なった昨年の『夏の全国アリーナツアー2018』ほか様々なところで語られているし、長濱ねるへの感謝を綴った菅井友香の3月10日更新のブログ「ねる」にも記されている。

長濱ねるの途中加入をそのまま歌にしたような“乗り遅れたバス”が現在披露されることはなくなったが、長濱ねるはソロパートで<ごめん 一人だけ 遅れたみたい あの場所に 誰もいなくて どこへ行ったらいいのかなんて わからなかった 片道の夢 手に持ったまま 坂の途中で 途方に暮れた><だから 一人きり 歩き始める みんなとは 違う道順 だって今さら追いかけたって 間に合わないよ 私の未来 自分で探して いつかどこかで 合流しよう>と歌う。

坂の途中で途方に暮れながらも未来での合流を夢見た「長濱ねる」は、最後のソロ曲となった“否定した未来”で未来への逡巡を歌い、欅坂46の1期生の集大成的な“黒い羊”のPVでリクルートスーツを着てひとり階段を降りる。

長濱ねるの歩みと歌の世界の重なり合いは、それが意図的であれ偶発的であれ、アイドル文化が多かれ少なかれ「かわいい子がかわいそうな目に会うのを見せる/それを見たい」という残酷さの上に成り立っていることを浮き彫りにするが、おそらく長濱ねるはそんなこと露程も思っていないだろう。

■卒業後は「心を込めて生きていきますね」
アイドルの活動期間は明確に定められているわけではないが、学校と同じように有限である。これからさらなる飛翔を予感させていただけに長濱ねるの卒業を惜しむ声は後を絶たないが、有限の期間において「閃光の中」つまり「瞬間的な強い光の中」を駆け抜けた長濱ねるは、アイドルとしてのおよそ3年半という時間を通常よりも早い速度で生きた。「卒業後については約束なく気持ちを緩めて考えられたらなと思っています。心を込めて生きていきますね」と綴ったのは、自身の均衡を保つために生きる速度を正常な状態へと戻す必要があったからなのかもしれない。

3月26日更新のブログ「日向坂、338」によると「私の最後の日」は未確定だが、活動期間は7月までとなり、現在は4月と5月に控えるアニバーサリーライブのリハーサルを行なっている。夏までの残りの時間、長濱ねるがアイドルとして生きるその姿を感謝と未来への祝福と共に見届けていきたい。