F1オーストラリアGPが開幕する2日前の水曜日の夜9時半、メディアセンターを出て、サーキットの出口に向かっていると、途中でレッドブルのピエール・ワシェ(テクニカルディレクター)に出会った。
「チームの首脳陣が水曜日から夜遅くまでサーキットで仕事をしているなんて、珍しいね」と言うと、ワシェは「明日はエイドリアンも来ることになっているよ」と、来るべき新シーズンに向けて、チームのモチベーションが高まっている様子を教えてくれた。
今シーズンのレッドブル・ホンダの新車「RB15」の開発に“空力の鬼才”と称されるエイドリアン・ニューウェイが本格的に参画していることは、周知のとおりだ。ニューウェイのやる気に再び火をつけたのが、パワーユニット(PU/エンジン)がホンダに変更されたことだった。
ホンダは2チームに同じスペックを供給すると語っており、いわゆるレッドブルがワークスで、トロロッソはカスタマーという区別はしていない。しかし、ホンダはまったく同じパッケージを2チームに供給しているわけではなく、冷却類などの補器類のレイアウトをチームごとにカスタマイズしている。これは昨年までのルノー時代にはなかったことで、レッドブルのデザイナーにとってはありがたい話だった。
またホンダがエクソンモービルとの燃料の開発を進めてくれたおかげで、燃費も向上。レースに搭載する燃料量をギリギリまで少なくすることができ、レース戦略がこれまでよりも緻密に行うことができるようになった。
マックス・フェルスタッペンがレース後半にルイス・ハミルトン(メルセデス)に追いついたものの、しばらくアタックせずに追走していたのは、燃費を考慮して、仕掛けるのをラスト3周に絞り、それまでは燃費モードで走行していたからだった。結局、その最中にフェルスタッペンが1コーナーを飛び出して、ハミルトンとの差が広がったために、計画倒れに終わった。
このようにパワーユニットをホンダにしたことで、2010年から4連覇したレッドブルのスタッフのやる気にスイッチが入ったことは間違いない。その象徴がニューウェイだ。チーム代表のクリスチャン・ホーナーはこう語る。
「エイドリアンはデザイナーとして、F1史上最もレベルの高い人間であると同時に、負けることが大嫌いな人間だ。ホンダとの素晴らしい関係を手にして、彼が開発にやる気を出すのは自然なことだった」
木曜日のレッドブルのホスピタリティハウスの前では、到着したばかりでチームのウェアに袖を通すのもままならない状況のニューウェイが、ワシェと真剣な表情で話をしていた。そのテーブルにはニューウェイのトレードマークともいえる、赤いノートが置かれていたことは、言うまでもない。