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富士テストでスーパーフォーミュラ新車を掴み始めた石浦宏明と中嶋一貴。台頭する若手には警戒感も

2019年03月29日 13:11  AUTOSPORT web

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石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)
富士スピードウェイでの第2回公式テストを終え、いよいよ開幕戦鈴鹿へと向かう2019年の全日本スーパーフォーミュラ選手権。今季は3度目のタイトル獲得を目指すドライバーが3人おり、富士テストではそのうちのひとり、山本尚貴が総合トップタイムをマークしたが、トヨタ勢のふたり、石浦宏明と中嶋一貴も上昇気流に乗りつつある雰囲気を感じさせている。新車『ダラーラSF19』乗りこなしの現況などについて、石浦と一貴に聞いた。

 2015&17年王者の石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)は前回の鈴鹿テスト終了時、新車の感触について「全然順調じゃない」と語りつつ苦笑していたが、富士テストでは初日午後にセッション3番手タイムをマーク、2日目にはセッション中のタイミングモニター上で幾度となく上位に顔を出すなど、石浦らしい存在感を発揮し、上昇ムードを感じさせた。

「そうですね、良くなってきました。今日(2日目)はちょっとトラブルが出て消化不良な面もありましたけど、セッションによってはいいタイムで走れていたと思います」

 2日目は最終的なベストタイム順位こそ午前6番手、午後7番手にとどまったが、トラブルもあったとの状況を考慮すれば、石浦の上昇は間違いないと見ていいところ。ただ、これがコース適性による変化なのか、あるいは1回目、2回目とテストを進めてきたことによる新車への進化が主なのかは気になる。

 すると石浦からは、「クルマに対しての部分ですね」との答えが。いよいよ彼と彼の陣営がSF19というマシンを“つかんで”きたといっていいようだ。やることはしっかりやって開幕戦に臨める、ということだろう。

「はい。トラブルがテストで出てくれているのもいいことだと考えられますしね。もちろん、今日の(富士での)クルマの感じからそれを(開幕戦の)鈴鹿にどう活かしていくかは、また別の難しい話ですけど、良くなってきていると思います」

 石浦の上昇内容詳細については後述するとして、もうひとりのトヨタ勢“2タイムスチャンピオン”、2012&14年王者・中嶋一貴(VANTELIN TEAM TOM’S)も富士で石浦同様に上げ潮ムードを感じさせている。

 2日目は午前3番手、午後5番手のセッション順位につけるなど、一貴と東條力エンジニアのスーパーフォーミュラでの初タッグ、こちらも存在感を発揮してきたといえよう。

「いろいろと試していて、試せば新しい発見もたくさんあるので、あとはそれをうまくまとめていければ、というところだと思います。タイムは、それぞれのタイヤの状況とかが違うので、読みづらいですよね」

「(自分の位置的には)鈴鹿と同じくらいじゃないですか? やはり、結局は本番で『そのときのコンディションに合わせ込んだ人が勝つ』ということでしょう。(自分を含めて多くの選手が)その範囲内だと思います。自分たちなりにしっかり歩めてはいます」

 さて、一貴はSF19というマシンへの変化の規模をどうとらえているのだろうか。先々代のスウィフトSF13(旧名FN09)から先代のダラーラSF14への変化に比べると、今回のSF14からSF19、ダラーラ同士での車両更新は、やはりというべきか、「前回と比べれば全然(変化の規模は)小さいと思いますよ」という。

 前回の変化を100としたら、今回の変化はどれくらいだろうか、と訊くと、一貴は「誰か20くらいって言ってましたよね?」。これは鈴鹿テスト時点での石浦の談話である。そして一貴は、「そうですね、20か、もっと小さい、かな? フロントタイヤが太くなっていることを考えると、クルマ自体での変化は10くらいかもしれません」と分析した。鈴鹿での石浦の「20」はタイヤ込みの印象だと感じられたので、そうだとすれば、2タイムスチャンピオン両名の分析は概ね一致するところとなる。

■鈴鹿テストで苦戦した石浦。原因は想定より小さかった変化幅

 ここで話を石浦の富士テストでの上昇内容に戻すが、石浦はその前提となった鈴鹿テストでの苦闘状況についてこう説明した。

「去年の夏、富士でSF19の開発車両でテストをしたときに、タイヤの違い(フロントタイヤ幅広化)とかもあって『今までのSF14的なセットでは速く走れない』という感じでビックリしたんです。僕たちはそれをベースに準備をして前回の鈴鹿テストに行きました」

 ところが、「去年の夏からタイヤも(サイズ面は昨夏と同じでも)今シーズン仕様へと変化してきたりしていると思います。そして結果的には、“このSF19”に対しては『そこまで深く考える必要はなかったか?』みたいな感触を鈴鹿で得ました」

 かなり大きいと思っていた新車の変化幅が、“シーズン仕様のSF19”では想定していたほど大きくはなく、“タイヤ込みでも20程度”だったということだろう。

 そこで石浦陣営は今回の富士テストに向けては、「一概にはいえませんけど、イチヨン(SF14)的な感じのまとまりになってきているのかな」という方向に軌道修正して、しっかり対他的なポジションも上げてきたのである。SF14で2度の王座獲得、状況次第では去年までに4連覇をしていてもおかしくなかった石浦、さすがの早期カムバックといってよさそうだ。

 石浦と一貴、そして2013&18年王者で今季はDOCOMO TEAM DANDELION RACINGに移籍して戦うホンダのエース山本と、今季は2タイムスチャンピオンが3人。もちろん3人以外にも王者候補は多いが、3人のうちの誰かが3度目の栄冠をつかむのか、その場合につかむのが誰なのかは、やはり今季最大の焦点でもある。

 石浦は昨年最終戦で敗れた直後にもこの状況について語っていたくらいで、現役3人で最初の3回目到達に強い意欲を示す。「3人並んでいますからね。頑張ります」。一貴も「そろそろ取らないと、と思っています」と、5年ぶりの王座を見据える。

 対ホンダという部分では、石浦も一貴も要警戒の念を強める。富士テストではエンジン面は互角という見た目だったが、富士が伝統的にトヨタの得意コースであったことを踏まえると、「今のホンダは強い」との見方を両者は強めざるを得ないようだ。

■ふたりの王者が警戒する山下健太の存在感。「ヤマケンだけ抜けている」

 また、同じトヨタ勢ではKONDO RACING、特に山下健太の速さを警戒している意のコメントがこれも異口同音に聞かれた。石浦が「お隣さん、速いですよね(KONDOは富士でピットが隣だった)。現状、追いかけているんですけど追いついていないです。シーズン前半のうちにしっかりつかまえないと」と語れば、一貴は「今のところトヨタ勢ではヤマケン(山下健太)だけ抜けているかもしれませんね」と評す。

 確かに山下は鈴鹿でも富士でも安定して常にタイム上位にいた。石浦と一貴は、山下が富士テストで中古タイヤを履いて速さを発揮していたことも指摘。その仕上がりぶりに驚いている。トヨタ陣営内のバトルもこれまでとは違う構図になるかもしれない。

 ちなみに富士テストでは赤旗による車両回収が鈴鹿テストに比べて激増した印象だったが、これについて、一貴が「確かに多かったですね。富士ではダウンフォースを薄くするので、ピーキーでトリッキーなところがクルマに出てくるのかもしれません。それにしても(赤旗中断が多い)、という感じでしたけど」と分析する。

 マシン生来のダウンフォース絶対量が増したと評されるなか、これはあり得る状況だろう。鈴鹿は強大なダウンフォースに頼れる面も大きいが、直線の長い富士では違う難しさが出てくる。新人や若手が赤旗の原因となることが多かった点も、それを裏付ける。

 開幕戦まではまだ3週間ほどあるものの、開幕前のコース上での“材料”はとりあえず出揃った今季のスーパーフォーミュラ。あとは各陣営がどうアタマを捻って、どんな“料理”を開幕戦鈴鹿で出すか。今年も各レースでさまざまな戦いが見られそうだが、3度目の王座への先着を争うトヨタ勢のふたり、石浦と一貴の戦いぶりはやはり戦局を大きく左右することになりそうだ。