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OB訪問で相次ぐ「就活セクハラ」防ぐには 大学側も警戒、学生に注意呼びかけへ

2019年03月29日 12:20  キャリコネニュース

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住友商事元社員の男性(24)が、就職活動のOB訪問を通じて出会った女子大生にわいせつな行為をしたとして、3月26日に逮捕された。2月にはゼネコン大手の大林組の男性(27歳)が、同じくOB訪問で知り合った女子大学生を自宅に呼び、わいせつな行為をしたとして逮捕、今月15日に不起訴処分になっている。

OB訪問をした女子学生が被害に遭う事件はたびたび起きている。2007年には、三菱UFJ銀行の男性行員(24)がリクルーターを装い、女子大生をカラオケ店に連れ込み無理やりキスをしたとして強制わいせつの疑いで逮捕。2013年には共同通信の人事部長が、就活中の女子大生に不適切な行為をしたとして懲戒解雇されている。

2016年には、トヨタ自動車の系列企業の大手部品メーカーの採用試験を受けた元女子大生が、当時の同社幹部男性から合格と引き換えに不適切な関係を迫られたとして損害賠償訴訟を起こした。裁判は和解が成立している。

「報道もされない無名企業を含めると、事件数も被害者数も更に多いはず」と見るのは、ブラック企業アナリストの新田龍さんだ。そもそも、なぜこうした事件が起きてしまうのか。新田さんは、加害者側には『自分に採用権限があると思わせておけば、被害者は声を上げることはないだろう』と舐めてかかっている」ところがあるという。

「OB訪問で会う相手には採用権限ないこと多い。『口利きする』などは真に受けないように」

OB訪問の現場ではこのほか、

「『自分に異性として魅力があるから相手が了承している』と勘違いし、セクハラとして訴えられることを想定していない」
「就活生と先輩社会人という関係性で『下駄を履く』ことができるため、経験豊富な異性を相手にするよりも比較的労力をかけずに相手と親密な関係になれる。好機と捉え、その機会を楽しもうとするあまり、その後のリスクを考慮しない」

などの要素も加わり、不適切な行為に及んでしまうと分析する。

被害者側も、報復や選考、後輩への悪影響を恐れるだけでなく、「相談することで自意識過剰と思われたくない」「どこに相談したらよいか分からない」「相談や告発で嫌な思いをしたくない」などの理由から、泣き寝入りしてしまうケースが多いと見られる。

トラブルを回避するためには、学生側はどう自衛すればいいのか。相手と会う際は「二人きりて夜、人気のない場所では会わない」「LINE等の個人連絡先の交換は避けて企業と大学のPCメールアドレスでやり取りする」「会話を録音する」といった方法のほか、

「OB訪問で会う相手には一般的に採用権限がないことが多いので、『俺が口利きする』、『家に来たら◯◯してあげる』といった交換条件や甘言は真に受けないようにする」

ということも念頭に入れておく。疑わしいことがあった場合は、大学や労働局に相談し、企業に対して「御社にはこのような採用手法があるのか?」と公式に確認を入れることも効果的だという。

都内私大「ハラスメントに遭わないようにという学生側への指導がこれまで欠けていた」

事件が立て続けに発生したことを受け、大学の就活支援も変わりつつある。都内のある有名私立大学では、年に3回行っているOBOG訪問ガイダンスに来年度から、大林組や住友商事の事例を紹介することを決めた。

講座ではこれまで、卒業生名簿の探し方や連絡のマナー、質問のポイントなどを教えていたが、「事件が続いたので、訪問する際の時間や場所に注意するよう呼びかける予定」だという。

別の私立大学では大林組の事件を受け、卒業生名簿を検索できるPCに注意喚起を掲載した。5月に予定しているガイダンスでも、OBOG訪問のトラブルに注意するよう指導する計画だ。

この大学は、OBOG訪問のマッチングをするアプリと提携しているが、これまで、アプリ利用時にハラスメント被害に遭わないよう大学から注意することはなかったという。

「どちらかというと社会人に礼を失さないようにという指導が中心で、ハラスメントに遭わないように、という学生側への指導は、大学としても欠けていたように思います」

「セクハラの温床になるようなOB訪問は企業として推奨したり、選考要素に入れるべきでない」

新田さんは「そもそもOB訪問の必要がない状態こそ理想」という立場だ。就活生の間では、「OB訪問で社員に気に入られれば選考が有利になる」などとも言われているが、

「セクハラの温床になるようなOB訪問は企業として推奨したり、選考要素に入れるべきではないと考える。就活生の間では都市伝説のように語り継がれているが、そのような事実がないのであれば、企業側が公式に否定すべき」

と主張する。実際、OBOG訪問をする学生には、「選考で有利になるかもしれない」という憶測に加え、「実際に働いている人に内部の実情を聴きたい」という意図がある。しかし、企業が認めたOBOGとだけ会える仕組みでは、「企業側によって編集された『望ましい情報』が一方的に伝えられるだけの茶番劇でしかない」と言う。

「企業側はネガティブと思われるような内部事情、例えば実労働時間や有休取得率、ノルマの難易度などを全てオープンにし、『ネガティブなことも全部含めて納得ずくで入社する』という状況を作り出すべきです」

2月に社員が逮捕された大林組は、今月15日に「ハラスメント対策室」を設置した。6日には行動規範も発表し、今後のOBOG面談は「会社施設(本社・本支店・工事事務所等)の会議室又はオープンスペース」「学生の所属学校施設」、「喫茶店・レストラン等(個室は不可)」のいずれかで行うと明記した。OBOG訪問を受ける際には場所や時間、学生の氏名を事前に会社に届け出させるとしている。