LEXUS TEAM WedsSport BANDOH 坪井翔 2019年シーズン、スーパーGT GT500クラスと全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦する坪井翔。シーズンの開幕も目前に迫るなか、国内最高峰のカテゴリーにステップアップを果たした彼に、2018年シーズンの振り返りや、チームメイトの印象、そして今年の目標を聞いた。
埼玉県生まれの坪井は、FIA-F4の初代チャンピオンを獲得し、2016年から全日本F3選手権に参戦。2018年はF3とスーパーGT GT300クラスに参戦していた。まずはこの2カテゴリーでのレースを振り返った。
「F3は結果の通りかなり良いシーズンだったと思いますが、GT300では悔しい思いをしたので、2018年は両極端なシーズンでした」と坪井は語る。
「F3は3年目の集大成ということで、絶対にチャンピオンを獲らなければいけないというプレッシャーのなかでやっていました。チャンピオンを獲れることが当たり前の状況で、どこまで勝てるのか、ファステストラップを記録できるのかと自分自身にプレッシャーをかけていました。そのなかでチャンピオンを獲ることができたので、集大成として良い年になりました」
その言葉どおり、坪井は19戦17勝という圧倒的な成績を残してF3のタイトルを獲得して実力を見せつけた。ただその一方で、つちやエンジニアリングからの期待を背負って戦ったGT300クラスでは、大きな変化に直面し、優勝を挙げることができなかった。
「GT300の方は、クルマがGT3からマザーシャシーになり、タイヤもブリヂストンからヨコハマタイヤに変わったので、いろいろと学ばなければいけないこともあり、戦い方も(2017年とは)違いました」
「迷うこともあって、最初は苦戦しました。ただ予選Q2を2回(第5戦と第7戦)走って、その両方でポールポジションを獲れたりと、速さを発揮することができました。結果には結びつかなかったけれど、シーズン終盤は自分自身の成長を感じられました」
ただGT300での戦いに関しては、この2シーズンで大きな変化を経験した坪井だが、この経験は今年からLEXUS TEAM WedsSport BANDOHよりGT500クラスに参戦するうえで大いに役立つものだったという。
「2017年は2勝したのに、2018年は勝つことができなかったので、結果に関しては悔しさがあります。だけど間違いなく成長に繋がったので、苦しんだぶんだけ成長できました」
「2年間で真逆のクルマに乗ったことは、絶対に糧になります。まったく違うパッケージのクルマに乗ったので、同じクルマに2年乗るよりもドライバーとしての引き出しが多くなっていると思います」
■「国本選手はどういう人なのかな、と……」
2シーズンのGT300クラス参戦では、上述のとおりまったく異なるクルマに乗るという経験をした坪井だが、それを経て今年はGT500クラスにフル参戦する。GT500参戦というひとつの目標を叶えた彼に、現在の心境を聞いた。
「最初は実感がわかなかったです。2018年に(第2戦富士で)スポット参戦して2位になりましたが、GT500クラスでのレースはその1回だけだったので、正直あまりレースをした感じがなかったんです」
「だけどいざレギュラーシートを獲得してからは、セパンテストで走った時にいちばん実感がわきました。話だけだとどうしてもピンとこなかったんですけど、レギュラードライバーとして名前が入ったクルマを見て、『レギュラーなんだな』と。ようやく目標にしていたところに来れたので、ひとつ夢が叶ったというような思いです」
「ただプロとしてはやっとスタートラインに立てたというところで、ここからシビアな戦いが待っていると思います。スーパーフォーミュラでもGT500でも、いろいろなカテゴリーでチャンピオンを獲ってきた人たちがいますし、F1チャンピオンもいるくらいなので、すごくシビアな世界に入ってきたなと思います。ただ素直に嬉しかったですし、目標にしてきたぶん嬉しさが大きかったです」
ちなみに、2018年にスポット参戦をした際はLEXUS TEAM SARDからの参戦だった。そのまますんなりと同じチームから参戦すれば、チームへの慣れもあった。ファンの皆さんのなかには、LEXUS TEAM WedsSport BANDOHからのフル参戦を意外に思う方も多いかもしれない。ただ坪井自身にとっては、LEXUS TEAM WedsSport BANDOHからフル参戦することには大きなメリットがある。
「(レクサス勢の中で)ヨコハマタイヤを使うクルマはLEXUS TEAM WedsSport BANDOHしかいないので、タイヤテストが多くてクルマに乗れる時間が圧倒的に多いし、ルーキーの僕にとってはいろいろな勉強ができるチームだと思います」
「2018年もGT300でヨコハマを履いているので、ある意味、ここに収まるのかなというイメージでした。他のレクサス勢はブリヂストンタイヤなので直接的な結果の比較は難しいですが、圧倒的にタイヤテストの数が多いし、ドライバーとしての技量、引き出しは他のドライバーより増えると思います。これは絶対に今後に活きてくるし、1年目でその経験ができるというのは嬉しいです」
すでに坪井は、テストを通じてLEXUS TEAM WedsSport BANDOHのメンバーと仕事もこなした。「チームの雰囲気は、まわりが思っているとおりかなと思います(笑)。やるときはやりますけど、スイッチオフの時はいい意味でふざけるというか。アットホームで楽しいチームです」
その坪井とタッグを組むのは、このチームで4年目のシーズンを迎える国本雄資だ。お互いの年齢も5歳差と近く、接点も多いのかと思われたが、意外なことに坪井と国本にはこれまであまり関わりがなかったのだという。
「昔から知っているけれど、実は同じカテゴリーのレースに出たことがほとんどないんです。年が近いですが、直接的な関わりがありませんでした。どちらかというと、自分が(FTRS時代に)生徒だったときに、講師だった石浦(宏明)さんのように年が離れている人たちと接することの方が多かったです」
「国本選手とは近い段階でステップアップしていたけど、挨拶程度くらいしか関わりがなかったので、最初は『どういう人なのかな?』というところから始まりました」
「でもいろいろなことを教えてくれますし、ふざけて絡んでくることもあるので、年が近いぶんやりやすさがあるのかなと思います」
■「プロとして生き残るためのサバイバルが待っている」
昨年F3のタイトルを獲得した際、坪井は「F3のタイトルを獲らなければ、自分の将来はない」と厳しい覚悟を持ってシリーズに臨んでいたことを明かしていた。
そのF3から昇格を果たし、日本最高峰のシリーズにまで昇り詰めた坪井は今年、どのような目標を掲げてシーズンを戦っていくのだろうか。
「もちろん結果を求めたいですが、1年目なのでしっかり得られるものを得て2年目に繋げたいです。スーパーGTに関しては、もちろんチャンピオンを目指してやっていきたいけれど、いきなり優勝を挙げたりとかチャンピオンになるのは難しいと思います」
「国本選手といういいターゲットもいますし、ようやくGT500クラスに上がれたので、まずは自分の仕事をしっかりとこなすことが大事だと思います。頑張ろうと思ってぶつかったりクラッシュをしたら意味がないので、まずは着実にいきたいです」
またスーパーGTだけでなく、坪井は今年、スーパーフォーミュラにも参戦する。すでに報じられているとおり、チームは2018年12月のテストでもドライブしたJMS P.MU/CERUMO・INGINGだ。このチームは、2015~2017年にドライバーズタイトルを3連覇し、さらには2016年と2017年にはチームタイトルも獲得しており、直近のシーズンでは強さを発揮している。
そんなJMS P.MU/CERUMO・INGINGに加入する坪井。あくまでアプローチはスーパーGTと同じだが、チャンピオンを獲得したチームに入る以上は昨年同様に覚悟が必要なようだ。
「当然、スーパーフォーミュラでもそれは同じです。ただスーパーフォーミュラではチャンピオンチーム(JMS P.MU/CERUMO・INGINGは2016年と2017年にチームタイトルを獲得)に入ったので、ルーキーとは言ってられない部分もあり、結果を出す必要があります」
「テストをしていると、スーパーフォーミュラもGT500もかなりレベルが高いので、そう簡単にはいかないとは思います。自分はポンと上がってきたタイプではないし、どちらかというと下積みが長いタイプですが、その経験を活かすためにも下積みが長かったと思っています。もちろんチャンピオンを狙っていきたいですし、なかなか難しいとは思いますが頑張りたいです」
「ここからプロとして生き残るためのサバイバルが待っているので、今まで以上に気を引き締めていかないといけないなと思います」
昨年他のドライバーを圧倒する速さと実力を示した坪井は、国内最高峰のカテゴリーにステップアップを果たした2019年シーズンに、どれほどの活躍をするのだろうか。厳しい覚悟を持ってシーズンに臨む坪井に期待がかかる。