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CIVILIANがステージ上で告げた“新たな出発” majiko、まねケチャ参加したBLITZ赤坂公演レポ

2019年03月28日 15:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 CIVILIANが、3月17日にマイナビBLITZ赤坂にて『“Hello,civilians.” 2019全国編・東京 ー朝焼ノ午前伍時ー』を開催した。


参考:CIVILIAN コヤマヒデカズ×majikoが語る、“ネットカルチャーと音楽”を取り囲む環境の変化と現在


 1月末の北海道公演を皮切りに、全国10カ所を巡るバンドとしては最大規模のツアー。そのファイナルは彼らが2014年にLyu:Lyuとして行なった渋谷TSUTAYA O-EASTに匹敵する会場・マイナビBLITZ赤坂だ。今回のツアーの目玉となるのは、ファイナル目前にリリースされ、ツアータイトルにももじっているシングル『邂逅ノ午前零時』の楽曲披露。副題は、大阪公演に『ー僕語リ午前壱時ー』、愛知公演に『ー君望ミ午前参時ー』とまるで短針が刻むツアーファイナルへのカウントダウンになっており、“零”というシングルからライブを経て前に進んで行くバンドの姿勢が透けて見えるようだ。


 ライブは、シングル表題曲でありインストゥルメンタル「邂逅ノ午前零時」でオープニングを飾る。2017年にリリースしたアルバムの表題曲「eve」もインストゥルメンタルであったが、作品のオーバーチュア的意味合いが強かった。対して、「邂逅ノ午前零時」は3分余りのインストゥルメンタルロック。CIVILIANのツアーでは、メンバーそれぞれの演奏がフィーチャーされる場面が存在するが、今のバンドとしてのサウンドを閉じ込めたのが「邂逅ノ午前零時」であるように思う。EPの4曲中3曲がコラボレーション楽曲で固められているということも、その意味合いをより際立てている。轟音に鳴り響くノイジーなサウンドはマスロックに傾倒しており、ライブでその激しさは増幅していく。


 「邂逅ノ午前零時」を含め、「赫色 -akairo-」「ぜんぶあんたのせい」の序盤3曲は紗幕がかかった状態で披露された。映写される空虚な街並みや様々なフォントのリリックによって、コヤマヒデカズ(Vo/Gt)の世界観が視覚的に脳内に飛び込んでくる。


 ツアー初日から真っ先に聴かせたくて披露されていたという「campanula」は、リスペクトする中田裕二がプロデュースを務めており、「いい曲作ろうぜ」と4人で制作した楽曲。そのタイトルは、植物のカンパニュラを指しており、花言葉は「小さい鐘」。穏やかなアルペジオから始まり、コヤマのファルセットが艶やかなミディアムバラードには、中田裕二の、さらに言えば椿屋四重奏のエッセンスをも感じさせる。syrup16g、People In The Box、THE BACK HORN、そして椿屋四重奏をルーツに上げるCIVILIANにとって、新たな代表曲としてミディアムバラードを持つということは、ある種必然だったとも思えてくる。


 EPのリード曲となった「I feat. まねきケチャ」はCIVILIANのコラボ作品として最も異様だ。「CIVILIANの今の風景からは想像が付かないアーティストと“関係値が前提でない”コラボレーションがしたい」「まったく接点がないからこそ、先入観を持たずにコラボができる」というコヤマの考えから実現したまねきケチャとの楽曲。コヤマの後ろにまねきケチャの5人が並び、一節毎にマイクを繋げていく。この曲の特徴は2番Aメロから、歌い方がポエトリーリーディングに変わっていくことだ。この日、コヤマは本編ラスト「明日もし晴れたら」披露の前に一人、朗読を披露した。自身に言い聞かせるような「I」の歌い方は、コヤマの朗読と通じるものを感じさせる。


 コヤマがボカロP・ナノウとして活動していたほぼ同時期、歌い手・まじ娘としてニコニコ動画で名を馳せていたのが今のmajiko。2マンライブも重ねている縁深いmajikoとは、SNSやネット社会に充満する“承認欲求”をテーマにした「僕ラノ承認戦争 feat.majiko」でコラボしている。ゆらゆらと危うげな雰囲気を放ちステージに登場したmajikoは、ハイトーンボイスで会場を一気に掌握していく。そのガチンコのぶつかり合いは、ボカロPと歌い手の延長線上にあると言ってもいい。majikoはアウトロで「ガンッ!」と音がするほどに激しくマイクを叩き落とし、ステージにのたうち回る。1曲だけではあったものの、強烈なインパクトを残した。


 今回のツアーファイナルにおいて、スペシャルゲストである、まねきケチャ、majikoとのコラボ曲は間違いなく特別な一幕であったが、筆者が最も驚かされたのは本編ラストに披露された「明日もし晴れたら」だった。スクリーンに映写されるのは部屋から覗く窓。その景色は青空から夜空へと何の変哲も無く通り過ぎる日常を映し出していく。ゆったりとした3人の演奏とコヤマの鬱屈したような歌声は、アウトロにて一変する。


 シューゲイザーに近いそのサウンドは、激しさを増し、ラストはコヤマがストラトキャスターを投げ捨てる。後のMCでコヤマは「ストラトキャスターは最高だ。投げても壊れない」というスティーヴィー・レイ・ヴォーンの言葉やカート・コバーンの生き様を例に挙げていたが、歌唱中にあげる咆哮にも似た叫びはコヤマの中に垣間見える攻撃性、美しいケモノのような衝動を感じさせた。


 昨年5月に開催した2マンイベント『CIVILIAN presents INCIDENT619』で、中田裕二、さユり、GARNiDELiAとの共演が発想の発端になったというコラボEP『邂逅ノ午前零時』。コラボの先に待っていたのは、バンド自体の変化だった。その変化を経た次作では、CIVILIANの新しい一面がくっきりと浮かび上がってくることだろう。(渡辺彰浩)