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ピエール瀧さんを逮捕した「麻薬取締官」 警察官との違いは?

2019年03月28日 09:51  弁護士ドットコム

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コカインを使用し、3月12日に麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕されたミュージシャンで俳優のピエール瀧さん。逮捕に踏み切ったのは警察ではなく、関東信越厚生局麻薬取締部でした。


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「マトリ」「Gメン」ともいわれることがある麻薬取締官。過去には、元俳優の高知東生さんや、元女優の高樹沙耶さん、元タレントの小向美奈子さんなどの芸能人をはじめ、これまでも麻薬取締官に逮捕された人は少なくありません。



一方の警察は、近年は警視庁組織犯罪対策5課(旧生活安全部薬物対策課)の活躍が目覚ましいところ。元プロ野球選手の清原和博さん、歌手のASKAさんらを逮捕しています。



警察と同じく、薬物犯罪を取り締まることが仕事ですが、所属は厚生労働省。警察と同じように、捜査、逮捕、取り調べなどをおこないます。なぜ、警察ではないのに逮捕することができるのでしょうか。(監修・澤井康生弁護士)



●「薬物汚染のない健全な社会の実現」が使命

麻薬取締官の使命は「薬物汚染のない健全な社会の実現」です。警察とちがい、薬物犯罪のみを取り締まります。



麻薬取締官が薬物事犯を逮捕することができるのは、刑事訴訟法190条が規定する「特別司法警察職員」としての権限をもっているためです。法律によって、犯罪を捜査する権限が特別に与えられています。



捜査には危険がつきまとうもの。そのため、麻薬取締官は逮捕術や拳銃射撃の訓練なども受けています。薬物や法律に関する知識だけではなく、体力や精神力も必要な仕事なのです。



●薬剤師資格をもっているのは「3人中2人ぐらい」

麻薬取締部は、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・高松・福岡の8カ所にあります。さらに、沖縄(那覇)には支所があり、横浜・神戸・小倉には分室を置いています。



麻薬取締官の人数は政令で定めることになっています。厚生労働省「医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課」の担当者によると、現在の定員は288人だそうです。



どのような人が麻薬取締官になれるのでしょうか。麻薬取締部の採用ページによると、応募できるのは(1) 国家公務員試験一般職採用試験(大卒程度試験)の「行政」又は「電気・電子・情報」の第一次試験の合格者、(2)薬剤師または薬剤師国家試験合格見込みの者で(1)の受験資格を満たす者(年齢制限あり)となっています。



担当者によると、薬剤師資格をもっているのは「3人中2人ぐらい」。半数以上がもっているようです。



●少人数精鋭の麻薬取締官、採用されるかは運次第

採用案内に書かれている採用予定人数は「若干名」。定員も少ないため、実際に採用される人数が気になるところです。



「麻薬取締官は少ない人数で業務をおこなっています。採用人数は、定年などで辞める人がどれだけいるかによっても変わります。多いときは32人、少ないときは8人が採用されました。毎年50人から90人の応募があるので、3から8倍の倍率になっています」(担当者)



狭き門でもあり、採用されるか否かは運に左右されるようです。



●違法な捜査で有罪になった元麻薬取締官も

麻薬取締官の仕事は、違法な薬物を使用あるいは所持している人を取り締まることです。



担当者によると、2017年に警察が検挙した人員は13542人、麻薬取締官が検挙した人員は570人。人数が少ないので、警察と合同で捜査をおこない、検挙することもあるそうです。



薬物を減らすためには、供給源を断つことも重要です。薬物の売人を取り締まるため、ときには、おとり捜査をおこなうこともあります。麻薬取締官の場合は警察官と異なり、麻薬取締法によりおとり捜査が明文で認められています。



もちろん、違法な捜査活動は許されません。過去には覚せい剤の密輸に関与している疑いがある捜査協力者の逃走を助けたり、調書を偽造したりしたとして、犯人隠避と虚偽有印公文書作成・同行使の罪に問われた元麻薬取締官の男性がいます。



東京地裁(駒田秀和裁判長)は2017年3月27日、この男性に懲役2年6月、執行猶予4年を言い渡しました。



●薬物依存症の回復プログラムも実施

麻薬取締官の仕事は多岐にわたります。



医薬品である麻薬や向精神薬の流通経路を監視し、横流しや不正使用を防ぐための指導や助言もおこなうことも。病院や薬局、製薬会社などに立入検査に入ることもあります。



また、薬物依存からの回復を支援するプログラムも実施。薬物の再乱用を防ぐためには、治療や支援が必要です。薬物をやめることができずに悩んでいる薬物依存症者もいます。



だれにも相談できずに孤立している家族もいます。このような家族や友人からの相談に対応することも麻薬取締官の仕事です。



ほかにも青少年の薬物乱用を防ぐために学校で講演をおこなうなど、啓発のための活動もおこなっています。



(弁護士ドットコムニュース)




【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。
東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

事務所名:弁護士法人海星事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kaisei-gr.jp/partners.html