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チャンピオン経験者の山本尚貴と石浦宏明が新しいオーバーテイクシステムを語る。解釈の違いが生んだ“ボタンの押し方”

2019年03月27日 16:31  AUTOSPORT web

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記者会見に出席した石浦宏明と山本尚貴
スーパーフォーミュラの2019年シーズンの開幕を前に、富士スピードウェイで行われている公式合同テスト。ここでサーキットを訪れたファンを交えた記者会見が行われ、2018年のチャンピオンである山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)と石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)というベテランドライバーのふたりが出席した。

 今年はスーパーフォーミュラの特徴のひとつでもある『オーバーテイクシステム』に大きな変更が加わった。2018年までは5回の使用制限があったが、今年は100秒間の持ち時間制となる。100秒の時間枠の中に使用回数の制限はないが、1度システムを使用すると、その後は100秒間は使用できないようにインターバルが設けられている。

 この新しいシステムについて、山本も石浦も前向きに捉えているようだ。特に石浦は、100秒間の持ち時間制になったことで、無駄なくシステムの恩恵を受けることができると考えている。

「去年まではオーバーテイクボタンを1回押せば20秒間使えましたが、サーキットによっては無駄になってしまう場所もあったんです。コーナーに入ったところで使って、逆に加速が難しくなったこともありました。そういう無駄な時間がなくなって、有効に使える時間が増えるのかなと思います」と石浦。

「ただそれよりも、今年の(1度使うと)100秒間使えないということの方が要素としては大きいです。オーバーテイクが増える可能性は大きいかなと感じています」

「たとえば富士の場合、前のクルマに追いついてセクター3を立ち上がっても、わざとボタンを押さないということも考えられます。ポジションを守る側のドライバーだけにシステムを使わせてしまえば、次の周には使えない、という頭の使い方もできます。追い抜く際には今までみたいにボタンを押した者同士で競るのではなくて、一気に前に出るとか、次の周はその逆になるとか、そういう可能性が増えるのかなと思います」

 山本は実戦で試してみなければわからないと慎重な姿勢を見せたが、石浦と同様に、システムを使い所を見極めなければならないと話した。

「戦いやすくなったかどうかと言われると、やってみないとわからないのが正直なところです。ただ仕組みとしては面白い仕組みだと思いますし、よく考えたな、と。ただ、僕たちもようやくルールを把握できたところなので、もしかしたらファンの方の中にもまだ理解していない人もいるのではないかと思いますが……」

「使いたいときにオーバーテイクボタンを押せばいいのかというと、そうではないんです。1回オーバーテイクボタンを押して、指を離して解除するとそこから100秒使えないので、相手を追い抜きたいと思ってボタンを押して抜ければいいけど、できなかったときに次のストレートで使えるかというと、少なくとも1周は使えない。今までのシステムとは違うので、抜く方も抜かれる方もシステムの使いどころを見極めないといけないなと思いました」

「使い方としては、一発のアタックに関しては以前とは変わらないかなと思います。システムはまだ最終的に決まっているわけではないのですが、今はボタンを押し続けないと使えない。去年まではボタンを1回押せば20秒間フルで使えていたんですけど、今は押している間だけ使えるので、ボタンをコーナー中に離してしまうとそこから100秒間使えなくなります」

「富士でいうと、最終コーナーを立ち上がってからその次の左コーナー(3コーナー)までが大体30秒くらいのなので、以前は最終コーナーを立ち上がってボタンを押せばそのままずっと使えていました。今は1コーナーを曲がるところまで押し続けながらシフトダウンをしないといけないので、そういう難しさがあります」

 また山本は、ホンダのドライバーとトヨタのドライバーとの間で、オーバーテイクシステムを使用する際のボタンの押し方に相違があったことを明かした。

「トヨタのドライバーは、オーバーテイクシステムを使うときにはボタンを押し続ける方がいいと言ったんです。でも僕は使う時に押して、解除するときにもう1回押す方が良いと思っていたのですが……ホンダとトヨタでそこまで別れるのかと思いました」と山本。

 ただトヨタ側の石浦によると、このように意見が割れたのは2回の公式テストでさまざまな仕様を試しているところであり、使い方の解釈の違いによるものだと話した。

「この前の鈴鹿テストでは、100秒間の間隔を空けずに使えるということだったので、いたるところでみんながボタンを押していた。その場合は解除するのにわざわざボタンを押さなくていいから、鈴鹿ではその方が良かったんです。でも富士で試したら、『押しっぱなしは無理だよね』という話になりました」

「そういった解釈の違いは出ました。この2回のテストが終わったら、システムを使うときにボタンを押して、解除するときにもう1度ボタンを押すというシステムに変わるかもしれませんが、テスト後にそれぞれのメーカーから意見を吸い上げて最終的な仕様が決定されると思います」

 なお、ドライバーはステアリング上のオーバーテイクボタンを左手で押すため、左回りのコーナーではボタンを押し続けることが難しい。その点の関しては両者の考えが一致していた。

 山本は「1コーナーに関しては右コーナーなのでボタンを押しやすい。だけど左手でボタンを押すので、左コーナーだとおそらく無理ですね。コックピットの中で『この先どうしよう』と思ってドキドキして1コーナーを通過しましたが、少しクリッピングポイントを外しました」と明かし、同様に石浦も「テスト前のイメトレの結果、(左コーナーでは)無理だなと思いました」とシステムの難点を振り返った。

 オーバーテイクシステムの最終的な仕様はまだ決まっていないとのことだが、彼らの明かした予想外の裏話はサーキットに詰めかけた大勢のファンの湧かせた。「これでは記者会見ではなくてトークショーになっちゃいましたね」と山本、石浦が笑いつつ、最後にふたりは今シーズンに向けた抱負を語った。

 山本は、「まずはチームとコミュニケーションを取って、進め方、レースに勝つためのアプローチをお互いにすり合わせているところです。幸いにも、最初から非常に良いクルマのポテンシャルを感じていますし、出だしとしては予想以上の滑り出しかなと思います」と好調ぶりをうかがわせたものの、連覇に向けて慎重な姿勢も崩さなかった。

「今のコンディションは特殊で、シーズン中にこのような涼しいコンディションで走ることはありません。今の時点で調子が良くても、シーズン中はそうではないかもしれないということを心得ておかないと、痛い目にあうと思います」

「今シーズンはクルマも変わりましたし、個人的にはチームを移籍しました。新しい『山本尚貴』をお見せしたいなと思います。今年もサーキットに足を運んでいただいて、応援していただけたらなと思います」

 またタイトル奪還を目指す石浦も、意地を見せて戦いたいと述べた。

「自分のなかでは今まで通りの意識です。2回チャンピオンになりましたが、次の年にそれを防衛できでいないので、もう1度チャンピオンを獲り直したい。ファンの方にも『カーナンバーが2ケタになっちゃいましたね』と声をかけられてしまったので、1ケタに戻したいです」

「オーバーテイクシステムなども含めて、最近は毎年レースが面白くなっているなと感じています。今シーズンはドライバーも入れ替わって、今まで以上に面白いレースが見れると思います。最年長になりましたが、意地を見せてしっかり戦っていきたいと思いますので応援よろしくお願いします」