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『バンブルビー』に継承された“スピルバーグ・イズム” 格闘アクションはシリーズ最高の完成度に

2019年03月27日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『バンブルビー』(2018年)は『トランスフォーマー』シリーズに登場する人気キャラクター「バンブルビー」のスピンオフであり、前日譚でもある(ですがシリーズを観ていなくても大丈夫なように配慮されているので、シリーズ未見でも心配無用です)。監督は『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)などの傑作アニメを手掛けてきたトラヴィス・ナイト。主演は女優で歌手のヘイリー・スタインフェルドだ(主題歌も彼女が担当!)。


参考:『バンブルビー』ヘイリー・スタインフェルドに聞く、ティーンの役がハマるわけ


 舞台は80年代のアメリカ。父を亡くして以来、人生が迷走気味の悩めるティーンの少女、チャーリー(ヘイリー・スタインフェルド)は、ある日スクラップ同然の黄色いビートルを見つける。自分の車として持ち帰るが、実は黄色いビートルは宇宙からやって来た金属生命体=トランスフォーマーだった。チャーリーは記憶を失っている彼に「バンブルビー」という名を与え、互いの隙間を埋め合うように絆を深めていく。騒々しくも楽しい日々を重ねるうち、チャーリーは少しずつ明るさを取り戻していくが、そこに悪の手が迫る……! 


 あらすじからも分かるように、本作は完璧なSFジュブナイル映画である。魅力的なキャラクターに、ワクワクとドキドキの大冒険、かっこいいアクションに可愛らしいユーモア、気の利いた80’sポップミュージックが揃った、皮肉ではなく心の底から「ご家族そろって、お楽しみください」と胸を張れる映画だ。そして同時に、いわゆるブロックバスター系の映画でも、作り手によってこんなに違いが出るのかと驚愕する作品でもあり、同時にスティーヴン・スピルバーグというハリウッドの巨星の力が垣間見える1本でもある。


 これまで同シリーズはハリウッド最強の爆発野郎マイケル・ベイが監督していた。しかし、ここで忘れてはならないのは、最初の『トランスフォーマー』(2007年)はプロデューサーとしてスティーヴン・スピルバーグが強く関わっていた点だ。同作はもともとスピルバーグが監督する予定だったそうだが、諸々の事情でキャンセルとなり、代わりにベイが監督に指名されたのである。このため同作はベイ映画である一方、スピルバーグ色も非常に強い。未知なる存在と人類の邂逅、それを通じて成長する思春期の少年、ドタバタ家族に、淡い恋愛模様などなど、シリーズで最もジュブナイルしており、スピルバーグ・イズムが強い。むしろ作品の礎はスピルバーグであり、そこにベイの必殺技(米軍全面協力のド派手なアクション、スタイリッシュ演出、「これは人じゃなくてロボットやから」を建前に許される残虐ファイト)が乗っかっている形だ。つまり初めから『トランスフォーマー』シリーズはスピルバーグ・イズムが基礎にあったと言えるだろう。


 しかし、シリーズは回を重ねるごとに良くも悪くもベイの色が濃くなっていった。ベイの色とは、つまり混乱である。主役は人間でもロボットでもなく、「戦場」そのもの。銃弾やミサイルが飛び交い、あちこちで爆発して、人もロボットもキレ散らかしながら戦う。そういう混乱した空間自体が主役であって、だからこそ足りない部分もあったし、だからこその魅力もあった。とは言えベイだって人間。さすがに戦場を描き続けるのに限界が来たらしく、数年前から何度もシリーズ卒業宣言をしていた。それでもなかなか卒業しなかったのは、恐らく商業的な理由だろう。


 『ミッション・インポッシブル』『スター・トレック』『スター・ウォーズ』と、様々な人気シリーズを手掛けたハリウッドの安打製造機、J・J・エイブラムスがベイに対して「これをできるのは貴方だけだ」と発言している。逆に言うなら、ベイ以外に任せられる人間がいないということ。たしかに、この規模の映画を手掛けられる人物など滅多にいない。実際、ベイ自身も映画の完成プレミア当日に本編を編集するなど、信じられないデスマーチで映画を完成させている有り様だった。急に世知辛い話になるが、仕事で言えば引き継ぎがいなかったのだろう。


 そんな色々な事情でベイが握り続けていたバトンを、ようやく渡せる相手が現れた。それがトラヴィス・ナイトだ。きっとベイも「時は来た。それだけだ」という感じだろうか。そしてナイトはスピルバーグ・イズムを完璧に継承しつつ、2007年のマイケル・ベイのように自身の必殺技を作品に混ぜ込むことに成功している。悩めるティーンの可愛らしく、しかし繊細で切実なキャラクター造形は、ベイの映画では決して見ることができないものだ。ザ・スミスからボン・ジョヴィまで、音楽の使い方も非常に巧い(個人的には「夜明けのランナウェイ」が最高だった)。また、格闘アクションはシリーズ最高の完成度だと言っていいだろう。今までのアクションは、ロボット同士でも銃撃戦が多く、「格闘」というよりも剥き出しの「殴り合い」感が強かった。しかし、ナイトは『KUBO』で驚くべきアクションシーンをモノにした男、今回はロボット同士が「打」「投」「極」をベースとした総合格闘技的な動きでバトルを繰り広げる。関節の取り合いや、さらにトランスフォーマーのキモともいえる「変形」ギミックを存分に使っているのが心憎い。このロボット同士の格闘シーンだけでも元は取れるだろう。


 このように、かつてのベイよろしく、ナイトもまたスピルバーグ・イズムをベースに、自身の才能を見事に作品に詰め込んだのだ。全ての始まりとなった『トランスフォーマー』は、いわばスピルバーグからベイへの闘魂継承であった。ならば本作は、ベイからナイトへの闘魂継承だと言えるだろう。単体の作品として極上、さらにはナイトの今後の活躍と、スピルバーグという才能の普遍性の再確認、そして『トランスフォーマー』シリーズへの期待が広がる素晴らしいエンターテインメント大作だ。(加藤よしき)