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「Apple Arcade」とGoogleの「Stadia」2社の新たなゲームサービスは“競合しない”? 海外メディアの反応を紐解く

2019年03月27日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 日本時間26日未明、Appleは多数の定額サービスを発表した。発表されたなかでも定額ゲームサービス「Apple Arcade」は、モバイルゲーム市場に大きな変革をもたらすポテンシャルを秘めている。そして、そのサービス内容をGoogleが発表した定額ゲームサービスと比較するとその本質が見えてくる。


(参考:Google『Stadia』は成功するのか? 開かれたゲーム産業の“パンドラの箱”


■オフラインでもプレイ可能
 Appleが発表した「Apple Arcade」は、月額料金を支払えば従来の有料ゲームに匹敵するリッチなモバイルゲームがプレイし放題になるサービスである。同サービスはApp Storeから配信されるが、MacやApple TVからもプレイできる。このサービスで提供されるゲームには、広告も表示されないしアプリ内課金もない。また、ひとつのサービスに加入すれば家族6人まで共有できる。


 プレイできるゲームは100タイトル以上が用意される。そうしたタイトルにはソニック・ザ・ヘッジホッグやレゴといった有名キャラクターが登場するものから、革新的なインディーズゲームが含まれる。『ファイナルファンタジー』シリーズを手がけた坂口博信氏の新作『ファンタジア』も同サービスからプレイできるようになる。


 また、同サービスはオフライン状態でも利用できるという特徴がある。この特徴により、通信環境が良くない場所や地域でもゲームをプレイできるのだ。


■インディースゲームスタジオにとっては福音?
 ゲームメディアUS版IGNは、早速「Apple Arcade」を論評する記事を公開した。その記事では現在のモバイルゲームは基本プレイ無料のゲームから大きな収益を得ていることを指摘したうえで、ユーザが同サービスを基本プレイ無料のゲームより好むかどうかは疑問である、と懐疑的な見方を示した。


 同じくゲームメディアの『Pocket Gamer.biz』は、同サービスをゲームスタジオからの目線で考察する記事を公開した。その記事によれば、同サービスから得られる利益はゲームのプレイ時間に応じて分配されるという関係者の発言をふまえて、恩恵をもっとも享受できるのは魅力的なゲームを開発するインディーズゲームスタジオだと指摘する。というのも、開発したゲームが同サービスの配信コンテンツに選ばれたゲームスタジオは、もはやダウンロード数を気にすることなくゲーム開発に集中できるようになるからである。こうした「勝ち組」となるであろうゲームスタジオには、『Monument Valley』シリーズを手がけるustwo Games Ltd等が挙げられる。


 反対にもっとも厳しい立場に立たされるのは、開発したゲームが同サービスの配信コンテンツに選ばれなかったインディーズゲームスタジオである。こうしたゲームスタジオは、同サービスの配信コンテンツと『フォートナイト』のような大手ゲームスタジオがリリースする基本プレイ無料のゲームのあいだで板挟みとなり消滅の危機に瀕するだろう、と分析している。


■Google Stadiaと比較すると……
 テック系メディア『Tom’s guide』は、Apple Arcadeと先日Googleが発表したゲームストリーミングサービスであるStadiaを比較する記事を公開した。その記事では、両サービスをわかりやすく比較できる対応表が掲載されている。


 その表を参照することにより、それぞれのサービスの強みと弱みが理解できるようになる。対応デバイスの範囲は、Google Stadiaの方が広い。ただし、Google Stadiaはオンライン状態でなければ利用できないのに対し、オフライン状態でもプレイできるApple Arcadeの方が利用環境の範囲が広い。サービス対象地域に関しても、少なくともサービス開始時点ではApple Arcadeの方がGoogle Stadiaより多いことがわかる。


 諸々を比較したうえで両サービスの方向性をまとめると、次のようになる。Apple ArcadeとはAppleがキュレーションした良質なモバイルゲームを提供するサービス、と言える。このサービスの強みであるオフライン状態でもプレイ可能という特徴は、モバイル端末におけるプレイでこそ生きるものであろう。対して、Google Stadiaはゲーム機とPCでプレイするゲームの市場に対して脅威となるサービスである。というのも、クラウドサーバでゲームを制御するというStadiaのコンセプトは、ゲーム機やゲーミングPCを使わずにハイスペックなゲームをプレイすることを可能とするからである。


 以上の分析より導き出せるのは、サービスが目指す方向性が異なるためApple ArcadeとGoogle Stadiaは直接的な競合とはならないだろう、ということである。この分析結果は、両サービスは一方を利用すると他方はもはや利用しなくなる、というような排他的な関係にはないことをも含意する。それゆえ、両方のサービスを利用するハードコアゲーマーが現れても不思議ではないだろう。


(吉本幸記 )