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はなわの音楽はなぜ度々注目される? 時代を読むプロデュース力、憎めないイジり方などを分析

2019年03月27日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『パタリロ』の作者として知られる魔夜峰央の原作を実写映画化して、異例のヒットとなっている映画『翔んで埼玉』。それに伴い、はなわが歌う主題歌「埼玉県のうた」もまた話題を集めている。ラウドなハードロックサウンドに乗せて、埼玉県や同県民の特徴をオーバーかつコミカルに歌った同曲は、埼玉をイジり倒した歌詞もさることながら、〈ダンダンダンダダンダンダン〉と歌うコーラスが耳に印象深く、思わず口ずさんでしまうほどキャッチーだ。単純に面白く、でもそれだけでは終わらない同曲の魅力とは? 「佐賀県」のヒットから16年、再び“県民あるあるソング”で注目を集めるはなわのプロデュース能力に迫る。


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・愛のある憎めないイジり方


 何かのモチーフをユーモアたっぷりにイジる……はなわの楽曲スタイルは、2003年の「佐賀県」から始まった。はなわの出身地である佐賀県の“あるあるネタ”を落とし込んだ歌詞と、エレキベースの弾き語りという斬新なスタイルで歌った同曲は、一斉を風靡して同年末の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出演を果たしたほど。翌年の2004年にも「佐賀県」のスタイルを踏襲して、ガッツ石松にまつわるエピソードをネタにした「伝説の男 ~ビバ・ガッツ~」で話題を集めた。また近年は、2017年に発表した「お義父さん」が話題になった。これは、はなわの妻の失踪した父親に対して歌った楽曲で、妻の天然ぶりと家族のエピソードをネタにした感動のナンバー。YouTubeにアップしたところ20日間で100万回以上の再生を記録するという経緯を経てCDリリースとなった。さらに昨年は、13年ぶりのアルバム『カラアゲ』をリリースしている。


 何かをイジるのはお笑いの常道だが、はなわの音楽ネタがお笑いの枠を越えて人気を集めるのは、ひとつにはイジり方に絶妙な角度があるからだろう。「佐賀県」には、〈一面田んぼだらけ まるで弥生時代〉や〈バス停の名前が「山下さん家前」〉など。イジられている当事者が「そういうところは、確かにあるよね」と100パーセント否定しきれない。つまり「痛いところを突かれた」と思うところを絶妙に突っ込んでいる。またシングル『佐賀県』には、地元=佐賀県への愛情を全面に押し出し家族への感謝と共に歌った「故郷」を収録していて、フォローすることも決して忘れていなかった。


 「埼玉県のうた」も同様で、〈名所もない さらに郷土愛もない だけどアジア一でかい 団地がある〉や〈ドンキが大好き 漫喫大好き おやつはゼリーフライ〉など。埼玉県をディスりながらも名物をしっかり織り込みつつ、最後に〈僕の故郷は佐賀県だけど 実は生まれた場所は 春日部〉と、はなわ自身が当事者であることも伝え、〈だから大好き埼玉〉と愛情たっぷりだ。


 近年は音楽シーンからのアプローチも増えており、たとえばMVの“あるあるネタ”を歌った岡崎体育の「MUSIC VIDEO」や、人気漫画の実写映画化にもの申したキュウソネコカミの「NO MORE劣化実写化」。ヤバイTシャツ屋さんの「喜志駅周辺なんもない」は、こやまたくやの出身大学である大阪芸術大学の最寄り駅をネタにした。はなわの楽曲も含め、これらの楽曲の奥底にはモチーフに対する愛情が溢れている。単なる個人攻撃に陥ることなく当事者も笑って済ませられるさじ加減と、どこか“憎めない”と思わせるイジり方に絶妙さがあると言えるだろう。


・時代を読んだプロデュースワーク


 音楽的な視点では、はなわの楽曲は小さい子供でも歌えるシンプルさ、耳に残る繰り返しのメロディ、どこかグッとこみ上げてくるものがあるエモーショナルな楽曲展開があるところが特徴だ。アップテンポのパンクサウンド「佐賀県」の〈ウォーウォーウォー〉というコーラスやマイナー調に転じるBメロ、一転アンセム感たっぷりのサビは、もはやメロコア。「佐賀県」が発表された2003年には、175Rの「空に唄えば」やFLOWの「贈る言葉」などがヒットしていて、そうした背景も「佐賀県」のヒットを後押ししたのではないだろうか。


 歌詞の内容も、世間が求めるものと合致していたように思う。「お義父さん」では、家族のエピソードを通じて、父親の喪失や日常生活の幸せを歌にしていた。それは、母を亡くした思いを綴った「花束を君に」(宇多田ヒカル/2016年)や、日々の幸せを描きつつ同時に失う恐ろしさにもふれた「Family Song」(星野源/2017年)などとも通じるところがある。また、こうした“家族”というテーマに、はなわらしい愛情たっぷりのユーモアを含みながら挑んでいったことも、他のアーティストとの差別化に繋がったのではないだろうか。


 時代の流れを敏感に察知し、それを自身の音楽に繋げているという点において、はなわのプロデュース能力は非常に高い。実際に2006年からは、はなわが所属するケイダッシュステージの女性タレントで結成した音楽ユニット=中野腐女シスターズ(現在は風男塾として活動中)の詞曲やサウンドプロデュースを10年以上に渡って務めている。アイドル戦国時代と呼ばれた10年の間、ユニットを存続させた功績は大きく、はなわ作詞作曲の「BE HERO」(2014年9月リリース)は、オリコン週間チャートで2位に輝いているほどだ。また、自身が主催する音楽イベント『はなわ音楽会』を定期的に開催して、お笑いと音楽を融合したステージの発信にも務めている。


・笑いと音楽の“ちょうどいいところ”を見極めるセンス


 お笑いと音楽の親和性の高さは、クレージーキャッツやドリフターズに始まり、嘉門達夫の「鼻から牛乳」が一大ブームになったことや、その後の波田陽区、AMEMIYA、どぶろっく。近年ではピコ太郎、RADIO FISH、ブルゾンちえみ、にゃんこスターなどを生んできたことからも明らかだ。言葉だけでは角が立つことも、音楽というオブラートに包むことで笑いに転換することができ、音やリズムで簡単にオチをつけることができる。音楽は、お笑いにとっては魔法のアイテムであるが、それだけに使い方が難しい諸刃の剣でもある。ユーモラスな表現から真剣なメッセージまで、自由に音楽の中で行き来することができるはなわのような存在は異例だ。


 あくまでもディスるのではなく、人を傷つけないやさしいイジり方と、時代が求める音楽を的確に読んだプロデュース能力の高さ。お笑いと音楽の“ちょうどいいところ”をピックアップするセンスが、実ははなわのすごいところ。テレビでたびたび見せる家族思いのお父さんぶりも実に好感度が高く、それも楽曲の印象にプラスに働いている。ディズらずイジって時代にフィットした、「埼玉県のうた」を契機に、新たなはなわブームの到来に期待が高まる。(榑林史章)