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「ジョジョ」「はたらく細胞」のデイヴィッドプロダクション、原作ファン唸らせるアニメづくりの秘訣は?【インタビュー】

2019年03月26日 19:42  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

デイヴィッドプロダクション インタビュー
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.13 デイヴィッドプロダクション

世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。


デイヴィッドプロダクション代表作:ジョジョの奇妙な冒険シリーズ、はたらく細胞、リストランテ・パラディーゾ

TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズで、「原作の魅力がアニメーションで完全再現された」とファンの圧倒的な支持を得たアニメーション制作スタジオ、デイヴィッドプロダクション。
原作の絵がそのまま動いているかのような作画クオリティ、そして原作マンガで用いられている「擬音の描き文字」をアニメに取り入れる演出など、「これぞ『ジョジョ』!」とファンに言わしめた、こだわりの原点とは?

かつて代表を務めたGONZOから志を同じくする仲間とともに独立し、2007年にデイヴィッドプロダクションを立ち上げた、代表取締役社長の梶田浩司氏。
そして、梶田氏と共にGONZOから移籍し、TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズのアニメーションプロデューサーで取締役の笠間寿高氏のふたりに、話を伺った。
[取材・構成=中村美奈子]

■作品と真摯に向き合うという原点回帰
左から梶田浩司氏、笠間寿高氏

――GONZOから独立して新スタジオを立ち上げたときには、どんなスタジオにしたいと考えていましたか?

梶田浩司氏(以下、梶田)
独立前はアニメーションの企図や、それを受けた作品の方向性などに確信を持てない状態でも、四半期の予算を守るために見切りで制作を開始させなければならないケースも多くありました。その結果、映像として拘り切れなかったり、ストーリーが十分に練り込めなったりする事があったんです。
見続けて下さったファンの皆様のお声を聴いて反省をする日々でした。
その経験から「きちんと物づくりをしよう」という原点に立ち返ろうと思ったんです。うまくいかなかったことを改善し、真摯に作品と向き合うスタジオを作って行きたいなと思いました。

そこでまず、デジタルを持たずに制作だけのアナログ部分からスタートしました。GONZOといえばデジタルが強かったのですが、あえて最初は持たずにアナログの部分をしっかり強化していこうと。そしてアニメーターの育成にも力を入れていこうと思ったんです。

――笠間さんも、デイヴィッドプロダクション創立メンバーのおひとりですが、梶田さんといっしょにやろうと思ったきっかけはなんでしたか?

笠間寿高氏(以下、笠間)
当時僕も制作現場で、梶田と同じ気持ちを抱いていたので、いっしょにやりたいと参加しました。
「手の届く範囲から、きっちり基礎を作り直したい」という梶田の理念を実現するために、僕は各スタッフとの向き合い方、制作との向き合い方を突き詰めていこうと考えました。

「原点回帰」という言葉通り、本当にアパートの一室からリスタートしたんですよ(笑)。
クリエイターは畳の上に作画机を置き、制作は事務机が入らなかったので炬燵に入りながら仕事して、本当にリアルに手の届く範囲で仕事を始めました。
→次のページ:武器は徹底的な原作研究とチャレンジ精神

■武器は徹底的な原作研究とチャレンジ精神

――設立後、『リストランテ・パラディーゾ』(2009年)で元請け制作ができるようになるまでは、どんな苦労がありましたか?

梶田
設立直後からの2年間は、苦労というよりも、将来を見据えた勉強期間でした。業界有数の先輩方の下で、制作に関する考え方や方法論を勉強させていただこうと、多くの制作会社様にご挨拶に伺い、お仕事を通して鍛えなおして頂くべくご指導をお願いしたんです。
利益は考えず、作品の制作をお手伝いさせて頂きながら、色々な事を学ばせて頂きました。

笠間
スケジュールのコントロール方法からクオリティのこだわりまで、各社それぞれのやり方や考え方がこんなにも違うのかと、かなり勉強になりました。
そのうえでデイヴィッドプロダクションというか、僕自身としての答えとして、プロは作品とお客さまのニーズに合わせて最適な形で制作すべきで、統一フォーマットでガチガチに縛らない方向が良いということでした。



――つまり視聴者目線に立って作品と向き合う大切さを、再確認したということですね。その理念がTVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの映像には、とてもよく表れていると感じます。スタジオとしてこだわっていること、武器はなんでしょうか?

梶田
作品をお預かりしたらば、まずはその作品を徹底的に勉強することです。作品のどんなところがファンにウケていて、なぜこんなに原作が続いているのか。
作品を支持しているファンは、どんな人たちなのかという部分を、監督やクリエイター、作品ファンのスタッフを交え、ブレスト方式で徹底的に勉強会を重ね、原作をきちんと理解するのが第一歩ですね。

笠間
でも、それだけだと「原作のトレース」になってしまうので、アニメ化に際して僕たちはその上に「ファンの心象にある『ジョジョ』」を積み重ねることをしています。
実際のところ、『ジョジョの奇妙な冒険』(原作第1部&第2部)、『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』(原作第3部)は、原作そのままの絵では無く、心象にあるジョジョの絵を模索しました。



具体で言うと、ファンの中でもっとも印象が強い、原作第3部以降の『ジョジョ』の特徴をインプットして、どのシリーズを観ても同じシリーズのアニメ作品として観てもらえるようなデザインや画面設計を行っています。
アニメを観ていると原作準拠に見えますが、実は原作マンガに描かれていないシーンがあったりして、見比べると意外と違うことに驚いたという声も頂きました。

僕たちができる「付加価値」とは、そうやって「ファンの心の中にある、ファンが観たいと思っている映像をつくりだす」ことですね。
これは、TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズに限らず、原作をお預かりしているすべての作品でも同じです。

梶田
もうひとつは、同じことをやらないで、必ず新しいことを入れることです。
『ジョジョの奇妙な冒険』は、TVのチャンネルをパパッと変えて流し見していく中で、一瞬でも見えた絵が『ジョジョ』だとわかる絵づくりをするというのを命題にして、ビジュアルの開発と演出方法の開発をしました。色々な事の評価の軸に「奇妙かどうか?」というのも取り入れました。

TVアニメ『はたらく細胞』では、ディズニーランドやキッザニアのようなアミューズメントパークで、視聴者の皆様もはたらく細胞たちといっしょに体内で起きているさまざまな出来事を体験して頂こうというコンセプトで開発を行いました。
背景にもこだわり、空は絶対にピンクで、表皮に近いところは光がさすような表現にしています。これは、スタッフの発案で生まれたことですね。



笠間
そうです。「これやっていい?」とスタッフから持ちかけられたら、「おもしろいからやろう。じゃあ僕は他のスタッフにも話を通しておくね」という風にすると、作品がどんどん面白くなっていくんです。

やっぱりみんな、「自分はアニメーションでこんなことをしてみたい」という志を持って、この世界に入ってきていると思うので、その意見を大切にしたいと思います。
作品のテイストを保つ「枠」は監督や僕たちが用意しますが、その範囲内で個々のスタッフがどうしたいのかという考えを自発的に提案できて、それを僕たちプロデューサー陣がサポートするような体制を作っていきたいなと思っています。


梶田
日頃から「置きにいかずに、一つでも新しいアイディアを入れよう。うまくいったらラッキー」と言っています。

笠間
失敗しないことに越したことはないですが、何もしないよりも、何かをやって前のめりに倒れた方がいいというのが、我々の考え方です。会社が倒れないレベルでチャレンジしています(笑)。
→次のページ:作画のフルデジタル化への転換

■作画のフルデジタル化への転換

――スタジオ立ち上げ当初は「デジタルを捨てた」とおっしゃっていましたが、現在はむしろ「フルデジタル作画」の制作体制が特色となっていますが、どのように制作体制の変換を行ってきたのでしょうか?

梶田
私や笠間は、セル画がデジタルに移り変わった時代を経験していたので、必ず作画もデジタルに移行すると考えていました。
そこで必要になるのが、スタッフの育成と、実際に機材やソフトに触りながら、どんな風に使ったら活用できるのかという利用開発でした。
そこで2009年あたりから、デジタル作画室室長の宇治部正人を筆頭にしたチームを組んでスタートし、フルデジタル作画への移行をはかってきました。

現在は、シンガポールのカカーニ社が開発した、自動中割り生成機能着付き2Dアニメーション制作ソフト「CACANi(カカーニ)」を導入しながらやっています。
2、3年前に日本で販売されたときは、バグが多くて使い方が難しいので、あまり普及しなかったんです。
しかし宇治部が、「実は意外と使えるかもしれない」とひっそりと使い続け、バグの修正や欲しい機能などをリクエストしたら、レスポンス良く修正が帰って来て……ということを緩やかに繰り返しているうちにソフトの性能が向上しました。



――スタッフの育成面では、どんなことをしていますか?

梶田
最初からデジタル作画で仕事を覚えてもらっています。以前は、まずは紙である程度技術を磨いてからデジタルに移行した方が良いと考えていましたが、手書きで引ける力強い線の魅力や、対象を立体で捉える能力の開発は確かに弱まるものの、デジタル化によって得られるメリットのほうを優先させました。

誤解を恐れずに言うと、「アニメーション」として考えた場合、絵は「素材」という位置づけになります。
最初からデジタルから入ったほうが、自分が描いた絵が他のセクションや演出によって色々な使われ方をされることに対し、自然に受け入れやすくなる傾向があるようです。
逆に、他の方と協力して絵を描いたり、これまでのアニメーションの分業に捉われずに、映像を作る、という事に意識をもって作業にあたるようになってきました。
そこで透過台を全面的に液晶タブレットに置き換えたのが、3年ぐらい前ですね。
さらにコンテや作画のデジタル化だけでなく、映像面の進化にも対応すべく、新たにCG部門を立ち上げました。

2Dと3DとVFXの境界はこれからどんどん曖昧化していくし、曖昧にしていかなければいけないと考えています。
今までは、CGは外注・提携して制作していたのですが、映像表現の曖昧さを生かしながら絵を動かすアニメーションを作りあげていくには、同じスタジオで演出家も参加して制作していく方が良いと考えた結果です。
立ち上げからまだそれほど時間は経っていませんが、少しずつ効果が出始めています。


――デジタル化のメリットとデメリットを教えてください。

笠間
フルデジタル化のメリットは、大きくふたつあります。

ひとつは、移動に関わる時間的なロスとコストが減り、より絵づくりの作業に集中できる環境になったことです。
情報の共有化も簡単で、連絡ミスや伝達ロスも減りました。クオリティに直接関係しないコストと時間が削減できてよかったという声が上がっています。

もうひとつが、各部署のスタッフが同じソフトの上で「同じ作品の素材を作る」という意識が生まれたことです。
原画、動画、背景、CGなど、他の素材と連動させながら完成させていくことへの抵抗感がガクンと減り、部署間のシームレス化が進みました。
それぞれのスタッフが、デジタルで手軽に完成形のイメージを作ることができるので、「こんな風にできるんだったら、作画ではこんなことをしてみよう」という風に、広い視点を持って自分の仕事に取り組めるようになったと思います。

敢えてデメリットがあるとしたら、業務の垣根が低くなり自由度が上がった分、制作フローが複雑化してしまったことでしょうか。

梶田
でも、やりたい人にはどんどんやってもらいたいので、絵コンテのデジタル化も推奨しています。
コンテの段階から、ある程度尺のイメージがつかめるので、隣で仕事をしているアニメーターに「こんな素材を作って欲しい」とか「こんな絵が描けそうか?」といったやり取りが始まるのを、私もよく目にしています。

デジタルという軸を持って、いろいろなクリエイターたちがスムーズに繋がり、連携が強まっていることを、日々実感していますね。
中には、動画ソフトを使って自分で編集した映像に音楽までつけて、「こんな風にやってみたいです」という、踏み込んだ提案も出て来ています。
仕事の領分に踏み込まれた方は少なからずショックを受けるので(笑)、そこは充分に配慮しつつ、どんどんチャレンジしていって欲しいなと思っています。


――そういった環境を作るために、普段からどんなことを心がけていますか?

梶田
今まで培ってきた経験から、今の制作体制ができあがっています。デジタル化で、役割のあいまいさや変化が常に起きていますが、基本的に「最も付加価値の高いところに投資し、活用していく」という方向での体制づくりにチャレンジしています。
私自身は、そこに必要な社内外のコミュニケーションを意識して、「とにかく直接、人に感想を聞いて歩く」ようにしています。

TVアニメ『はたらく細胞』は、中国での反響が大きく、Bilibili(ビリビリ動画)で1億4千万回再生という、始まって以来の数字を叩き出したんです。
中国出張では、どこに行ってもその話題になるので、「どういうところが面白かったですか?」と聞くと、自分とはまったく違った見方をしていることがわかり、とっても参考になりましたね。

萌え系やファンタジー作品が多い中、人間の体内を舞台にして、細胞を擬人化するというアイデアを含めて、アニメファン以外の一般層でも楽しめる珍しい作品だと好評でした。
そういう感覚は万国共通であること、そして一般層に視点を向けた企画がうまく当たると、世界的にも広がりやすくなるんだな、と感じさせてくれた恩のある作品の一つになってくれました。
→次のページ:アニメーションの力で地球を元気に!


■アニメーションの力で地球を元気に!

――スタジオの目標はなんですか?

梶田
理念として大きく掲げているのは、「アニメーションの力で地球の元気を創出します。」です。

私たちはアニメーションの制作会社ですので、常に面白い作品を作る事に全力を尽くし、色々な視聴者の皆様にご覧いただいて元気になって頂きたいと願っております。

ただこの理念に込められた意味はそれだけではありません。
真摯に作品と向き合い、貪欲に制作をしていけば良い感性と技術が磨かれますし、お客さんに楽しんで頂く事ができれば、作品は「良い商品」として様々な稼ぎ方をしてくれます。
海外向けなど視聴者の皆様にカスタマイズしたり、配信などメディアに合わせてカスタマイズした制作ができれば、ビジネスモデルに変化をもたらす事もあります。もしそれで経済を活性化すれば、地球も元気になるだろうと(笑)。

スタジオとして常に技術と人を革新し、いつの時代でもみんなが楽しんでくれる映像作品を作る事を目標にしつつ、良質な作品を「商品」としてきちんと世に送り出して利益を得るビジネスモデルを確立し、アニメ業界を目指す人が夢を持てるような企業になることを目指して行きたいなと思っています。

笠間
僕は、みなさんの記憶に残る作品を作りたいです。
僕自身、アニメに限らず色んなエンタメから楽しませてもらって育ってきたので、それをお返ししたい、自分なりに何かを残したいという気持ちがあるんですね。

その年に消費されて終わるのではなく、10年後にふと思い出してもらえるような作品を作って行くというのが、一番の目標です。

梶田
笠間はめちゃくちゃチャレンジしています。ずっとアクセルを踏みっぱなしです(笑)。

笠間
CG部門設立の話が梶田から出ましたが、僕だけではなく、制作の大きなチャレンジとして今取り組んでいるのが、2Dと3Dを融合させた新しいアニメーションの作り方です。お互いの利点を上手く活用したフィルム作りを志向しています。

梶田
2019年のTV放送アニメでは『あんさんぶるスターズ!』の制作を行っていますが、CGモデルを使って歌ったり踊ったりする作品がたくさん作られている中で、他の作品とは少し違う特徴を出していきたいなと。
詳しくは言えませんが、2Dと3Dを融合させた今まで見たことの無いような歌唱シーンをファンのみなさんにお届けするべく、鋭意チャレンジ中です。

2Dと3Dを曖昧にしていくコンセプトで、スタッフィングから何から、かなりアクセルを踏み込んだチャレンジをしています。

笠間
僕なりの言い方にすると、映像やエンタメを観て感動するのは「普通じゃないから」なんです。
言い方を変えると「違和感」だったり、「フェティッシュ」「癖」「毒気」とも言いますが、そういう突出したものがないと、作品の面白さが出てこないと思うんです。

3Dはモデリング等のプリセットが基本になっているので、最終画面は均一化されやすい。
そこに均一なものになりづらい手描きの2D映像を加えて混ぜることで、癖を付けていくというのが、2Dと3Dを曖昧にしていくという僕なりの見立てです。

――どんな映像になるのか、とてもわくわくしますね。最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。

笠間
観て頂いた人にとってなにかしらの傷が残る作品を作りたいと思っています。もちろん、良い傷、ですが。引き続きTVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズもがんばっていきますので、ぜひ期待していただければと思います。

梶田
制作に関わって下さった方達が幸せになるような、ご覧になった方たちの人生が豊かになるような、そんな元気になる作品制作を目指してがんばっていきたいと思っていますので、応援よろしくお願いします。