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つんく♂は海外からJ-POPシーンをどう見ている? ハワイ移住後の音楽との関わり方の変化

2019年03月26日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 平成のJ-POPシーンを牽引し続けた音楽家/プロデューサーのつんく♂。今回リアルサウンドでは、ハロー!プロジェクト総合プロデューサー退任、声帯の全摘出などを経て、ハワイに移住したつんく♂にメールインタビューを行う機会を得た。生活拠点を移したことで音楽の楽しみ方や関わり方に変化はあったのか。また、海の向こうから日本の音楽シーンをどのように見ているのか。2018年の出来事を中心に振り返ってもらった。(編集部)


(関連:DA PUMP「U.S.A.」に似ている曲はどれ? ユーロビート系ハロプロ楽曲をチェック


■日本からハワイへーー拠点を移して変化した音楽の楽しみ方


 1998年から企画・プロデュースをしてきたモーニング娘。及びハロー!プロジェクトの総合プロデュースが、2014年に退任となりました。同年、大病も発覚し、声帯を全摘出することになりそこから人生を見つめ返す時間を持ちました。


 家族会議を幾度となく行います。結論なんて出るわけもありませんが、どうすれば前向きに今後の人生を歩いて行けるか、夫婦間でもそういう観点で話し合いを繰り返し、次のことにポイントを置きました。一度客観的に自分を見つめ直すこと、そして子育てのこと、もちろん、身体のため、健康のため。仕事のためだけじゃなく音楽を聞くということ。これらを考えた結果、ハワイというキーワードに出会います。結果、2016年夏からハワイでの生活が始まりました。


 大病する以前の生活はとにかく仕事をしていたし、音楽は研究するためであって、趣味として聞く機会をほとんど失っていたのは事実です。ハワイは車社会。東京ではマネージャーがずっと車を運転してくれていた生活でしたが、今は子どもの学校の送り迎えも、買い物も、仕事に行くのもほとんどが自分の運転。なので、もっぱら移動中はカーラジオでFMを聞きます。


 実はこの時の情報が大事で、今のアメリカのヒットチャートが流れるチャンネルにしていると、どんどんヒット曲が自然に耳に入ってきます。大人な僕がすぐ気にいる曲もあれば、あっという間に子どもらが覚えるようなキャッチーな曲もある。1年前のヒット曲も僕にとっては最近の曲だと思うけれど、子どもらはそんなヒットナンバーがかかってくると「あ、これ懐かしいね」って言い出したりします。時間のスピード感は子どもと大人では全然違うのですが、「ああ、なるほど。確かに去年の曲だもんな」ってな感じですね。


 J-POPにおいて、「恋」(星野源/2018年)やアニメ『妖怪ウォッチ』の「ゲラゲラポーのうた」(キング・クリームソーダ/2015年)も子どもからしたら随分前の話題となっているのと同じように、洋楽においても同じように感じるのを冷静に受け取るのはとても斬新で、面白い発見だなぁと思います。


 音楽はふだんそうやってFMでチェックしているので、時間のある時は子どもらと一緒にYouTubeでヒットチャートのMVを見たりして楽しんでいます。日本の曲は、任天堂のWii U(『カラオケ JOYSOUND for Wii U』)で懐メロを楽しんでいます。ま、僕は歌えないですが、妻や子どもらが歌ったりして。子どもらは洋邦問わずに歌っていますよ。


■2018年を振り返って


 2018年の出来事をふと思い返すと、自分の仕事でいえば、近畿大学の入学式。例年、年度始まりのキーポイントになっています。ほとんどが18歳であろう大学1年生たち1万人と一気に会えるチャンスは人生においてなかなか無いと思っていますので、毎年毎年とても大事に彼らの角出を祝福させてもらっています。その式は僕がプロデュースをしているのですが、いつも何倍もの元気や勇気をもらっています。


 音楽シーンでいえば、ダンスでしょうか。日本においてはダンスというよりは、振り付け感が強いようですね。とはいえ、世間的に「見る」という意味では、レベルの高い韓流男子たちの息の揃ったダンスを(おそらくYouTubeなどで)バンバン見ていると思うので、一般的なパフォーマンス全体に対する評価へのハードルは高くなっていると思います。30年前だったら、Michael Jackson「スリラー」のユニゾンダンスで十分魅了されていたのが、今ではあのゆる目のユニゾン感覚では刺激が足りなく感じてしまうように。


 しかし、昨今のアメリカのユニットの傾向を見ていても(それはヨーロッパを含めても)、ユニゾンシンクロ率に対してそこまでこだわりは感じません。たとえばシンクロナイズドスイミングを見ていても、ロシア、日本の水準は高いですよね。もちろん、韓国や中国も高い。個性を出す・出さないという主張は西洋では当然強いけれど、ポップス界におけるユニゾンのぴったり感覚は、現状は韓流が突き抜けていますね。もちろん韓流においても、20年前のgod、10年前の東方神起、今のBTS(防弾少年団)ではタイム感が違います。


 いまや、そういう海外文化も雰囲気だけでなく、本当に感覚的な刺激を見極める力は、小さい子どももインターネットで養われています。今後もテレビでバンバン宣伝をすれば売れる、というようなことが難しくなっていきそうです。なので、ダンス以外の要素でも売れる要素を持っていないと、刺激だけでいうと、より鋭いものしか残っていかないことになると思われます。


■つんく♂が考える「U.S.A.」ヒットの理由


 だからこそ、DA PUMP「U.S.A.」 は刺激のみを求められた結果でも、踊れるだろう彼らがダンスの極みを目指したわけでもなく、曲全体をどう演出するか、という感覚で勝負したのが結果ヒットにつながったのだと。“つんく♂楽曲っぽい”という触れ込みからこの曲が響いていったというのも一説でしょうが、そもそもこの曲は1980年後半のユーロビートのヒット曲で、その辺は日本国内においてはavexのルーツでもあるわけです。


 そして、僕に関しては学生時代、ディスコクラシックからユーロビートに渡ってたくさんダンスミュージックを聞いたので、このあたりの音楽は体に染みついています。この25年、何千曲と作ってきたシャ乱Q~ハロー!プロジェクトなので、そんな曲ネタを頭の中でひっぱり出しつつ、どこかしらそんな雰囲気の曲もたくさん作ってきたと思います。同時にそういうこと自体を楽しんでいたので、当然と言えば当然のサウンドです。


 DA PUMPは、周知のとおり、ライジングプロダクションのダンスボーカルグループ。ライジングといえば、荻野目洋子さんがその代表です。年齢こそ僕と同じですが、大先輩の彼女も大ヒット曲の代表作といえばカバー曲の「ダンシング・ヒーロー」でした。ライジングの名プロデューサー・平哲夫さんは、ここぞのタイミングでのカバー曲の選び方、アレンジ、日本語化等、全てが素晴らしく完璧。安室奈美恵 with SUPER MONKEY’Sの「TRY ME~私を信じて~」にしても、今回の「U.S.A.」にしても、老若男女が入り込める余地を残した上での時代ごとのオシャレのあり方、溶け込み方が結果的な大ヒットにつながってると感じます。僕流の分析において「U.S.A.」は、売れるべくして売れるように仕上がっているサウンドであり、かつ、平さんの敏腕のたわものなのです。


■嶋大輔「男の勲章」、カラオケランキング浮上への驚き


 ところで、2018年のJ-POPシーンにおいて、DA PUMP「U.S.A.」 や米津玄師「Lemon」が人気なのは、ハワイにいても情報が入ってくるので、もちろん知っていました。それらの楽曲はカラオケランキングでも根強く、“本当に世間に染み込んだんだなぁ”と納得するところなのですが、しかし、急にあるとき「男の勲章」(嶋大輔)がずっとランクインをしていて、“あれ? これはなんだろう?”と。誰かがカバーしたのなら、その歌手名になっているはずだけど、ランキングしているのはあくまでも嶋大輔という名義。


 何かのバラエティ番組で嶋大輔さんをいじったり、昔の『ひょうきんベストテン』(バラエティ番組『オレたちひょうきん族』の1コーナーでやっていた『ザ・ベストテン』のパロディ)的な何かで曲をいじったのをきっかけにジリジリ来たのかなぁとググってみたら、ドラマ『今日から俺は!!』の主題歌で、若者俳優らが「男の勲章」を歌って踊っていることが判明。なるほど。しかし、その歌のバージョンを彼らの名義で販売してないというのが時代ですね。10年前なら絶対にシングルを切ってたわけですから。不思議な話です。


 ちなみに、そんなに話題になるドラマなら見なきゃと色々調べたら、僕と同じ年の福田雄一監督の作品。福田監督は『銀魂』や『勇者ヨシヒコ』など、このところ話題作を次々と手がけています。ハワイでの生活が縁で友人関係にあるのですが、そんな彼の作品だと知り、さらに納得。当然ながら、子どもらと一緒に遅ればせながらドラマを見ていることは言うまでもありません。


■2019年、つんく♂が日本の音楽シーンに願うこと


 そして、2019年。YouTuber、VTuber、ライブ課金、eスポーツ……いろんな新しげな言葉が世の中に飛び交っています。が、いつの時もヒットする時は予想外なところから火がつくので、こればっかりは何が当たるかわかりません。ただ、音楽というものはいつもそこにあってほしいし、それが世の中の経済効果を生み出すべきものであれ! とつねに思っているのです。


 現在は多くのエンタメコンテンツがタダなので、それがいつまでどうなるのか。こんなことでこの先の文化の発展はあるのだろうか……などなど、そんな心配もあります。しかし、チャンスとしては、“ヒットする時は日本だけでなく世界中で”という広がりができたことは確かです。日本人のきめ細かさ、忍耐力など、世界の中でもこんな国は少ないと感じています。だからこそ僕も含めて、これからはさらに世界に向けて発信してくべきだなぁと思いますね。