2019年シーズンからレッドブル・ホンダに昇格したピエール・ガスリー。チームメイトは、優勝経験があるマックス・フェルスタッペンだ。トップチームのひとつであるレッドブルでこれまでとは違うプレッシャーのなか戦うガスリーの舞台裏を伝える。
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2018年のトロロッソでの健闘が評価され、わずか一年のF1キャリアでレッドブル・ホンダに抜擢されたピエール・ガスリー。しかしバルセロナで行われた合同テストでは二度のクラッシュを喫し、チームが満足にテストメニューを消化できない原因を作ってしまった。
それでもオーストラリアGPの開催直前、木曜日の囲み会見に表れたガスリーは少なくとも傍から見る限りは元気いっぱいで、フランス人記者の投げ掛けたちょっと卑猥なジョークにも、笑顔で返すぐらいの余裕はあった。囲み会見では当然ながらテストでのクラッシュについての質問も出たが、「テストはすごくうまくいったし、十分な手応えを感じてる」とだけ答えて、それ以上その話題が蒸し返されることはなかった。
一方でガスリーはこの会見で、「チームメイトを倒すことが、正しい目標とは思わない」とも語っている。
これまでずっと強気一辺倒で、雑談では「僕の速さを、1日でも早く証明する」と言っていたこともあった。それだけにマックス・フェルスタッペンにはとてもかなわないと、ある意味降伏宣言をしたとも取れかねないこの発言は、正直ちょっと気になるものだった。
迎えた初日フリー走行。1回目のセッションはフェルスタッペンに比べて、1秒1以上遅かった。それでも「マシンバランスが大きく改善した」という2回目セッションでは、総合3番手のフェルスタッペンから0.042秒差の4番手に付けた。ただしチームメイトが13周のロングランを敢行した際の4周目に出したのに対し、ガスリーは5周ランの3周目だった。ペースの差は依然として、大きかったというべきか。
■最後までダニール・クビアトを攻略できなかったピエール・ガスリー
そして予選では、路面コンディションの向上を戦略エンジニアが読み間違えたことで、Q1落ちを喫してしまう。とはいえその状況はフェルスタッペンも同じで、それでも2回目のアタックで悠々と10番手タイムを出したのに対し、ガスリーは17番手でQ1落ちを喫してしまった。「ターン1で少しトラフィックがあった」とはいえ、2回目アタックで自己ベストを更新できないのが痛かった。
1回目アタックではフェルスタッペンをしのぐタイムを出すなど、一発の速さに関してはレッドブルマシンに『乗れてきた』印象があった。もしQ1落ちを喫していなければ、シャルル・ルクレール(フェラーリ)の上を行くのは難しかったとしても、ロマン・グロージャン(ハース)をしのいで6番グリッドには付けていたのではないか。
決勝レースでのガスリーは、「前のマシンの大きくなったリヤウィングで、シグナルがよく見えなかった」と、スタートで出遅れる。その後はフレッシュタイヤで攻め立てたにもかかわらずダニール・クビアト(トロロッソ・ホンダ)を抜き切れず、11位完走に終わった。しかしフェルスタッペンが同じような状況でセバスチャン・ベッテルを豪快に抜き去った光景が鮮烈なだけに、ガスリーの分の悪さは否めない。
開幕戦を終えて早くもヨーロッパのF1サイトでは、ガスリーの将来性を疑問視する論調が出てきた。戦闘力に劣るトロロッソSTR14で一歩も引かなかったクビアトを、起用すべきというのだ。それに対しクリスチャン・ホーナー代表は、「時間が経てば、結果を出せるようになる」と、あくまで擁護の姿勢である。
レッドブル・ホンダ移籍後まだ1戦しか走っていないのだから、ホーナー代表の発言は当然だ。しかし一方で今後数戦の間に期待に応えないと、早期の更迭も現実味を帯びてくる。今まで以上のプレッシャーの中で結果を出さなければならないという難しい状況に、早くも置かれてしまったことになる。しかしガスリーはこれまでも数え切れないほどの崖っぷち状況を切り抜け、ここまでのキャリアを築いてきた。そのドライバー力が発揮されることを、今は待つしかない。