2019年03月25日 10:31 弁護士ドットコム
アイドルグループNGT48のメンバー山口真帆さんが暴行被害に遭った事件をめぐり、運営会社AKSは3月21日、第三者委員会の調査報告書を公表した(https://ngt48.jp/news/detail/100003226)。
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報告書によると、ファンと私的に交流していたメンバーが12人にのぼることが明らかになったが、山口さんの事件については、他のメンバーの関与は認められなかったという。AKSは、私的交流について、「不問に致します」としている。
調査結果の公表を受けて、AKSによる記者会見も開かれたが、会見を見た山口さんは、「私は(AKSの)松村匠取締役に1月10日の謝罪を要求されました」などとツイート。これに対し、松村氏が会見で、「メンバーなので、こういう事実、謝罪を強要することは一切ありません」と答え、これに山口さんが「なんで嘘ばかりつくんでしょうか」と批判する一幕があるなど、事態の収拾がつかなくなっている。
今回の報告書をどう評価すればいいのか。河西邦剛弁護士に聞いた。
「本質的問題に踏み込まないと再発防止は期待できません」
このように河西弁護士は指摘する。なぜ、今回のような悲劇が起こってしまったのか。
「第三者委員会の見解では、運営側の人員不足や十分な送迎をしなかったことを原因としています。しかし、報告書では、事件当日のことを中心に検討していますが、今回の本質的問題は、事件当日に至るまでの運営と一部ファンとの関係、一部メンバーとファンとの関係、暴行事件後の運営側の対応にあるのではないでしょうか」
具体的にはどのようなことか。
「まず、山口さんは暴行事件直後、関与しているメンバーを必死に聞き出そうとしています。山口さんは一部メンバーとファンとの癒着、さらに運営側の関与を確認するために、ここを確認しようと思ったのではないでしょうか。
事件直後に恐怖におびえる山口さんが、なぜ容疑者に対して必死に問いただしたのか。山口さんはここに本質的な問題があると思ったからなのではないでしょうか。
しかし、報告書では山口さんの視点に立ち、危険な状況下にもかかわらず、山口さんがこの点を問いただした詳しい動機や理由については何ら検討されていません。
確かに第三者委員会の報告書には中立性が要求されます。しかし、当事者の視点で分析することが事件の解明に不可欠なのにもかかわらず、この視点が欠落しているということです。
また、事件当日に至る経緯として、一部のファンと運営側が癒着していたという指摘がなされていますが、ここについては調査、検討すら皆無です。運営側の一部ファンに対する優遇措置疑惑、その動機や背景事情についても一切検討されていません。
また、事件から1カ月が経過し、山口さんがSHOWROOMで公表に至るまでの、山口さんと運営側との具体的やりとりも報告書では一切検討されていません。
山口さんは公表に踏みきったわけですが、運営側の対応には期待できないと思ったから公表したのではないでしょうか。少なくとも、山口さんが運営側のどのような対応に不満を感じ、なぜ自らの公表に迫られたのか、そこに何ら具体的検討がなされていません」
他には、どのような問題があると考えられるか。
「暴行の事実があるのに不起訴処分になったことも不可解です。
仮定ではありますが、山口さんが容疑者と示談しており、その示談のなかに事件のことを話すことができないという口外禁止条項がつけられていたとすれば、山口さんはこれに縛られ続け、事件の事実を話すことができないという制約下におかれることになります。
もしそうだとしたら、あまりに酷ではないでしょうか。仮に示談をしたのであれば、それは誰が持ち掛けたものなのでしょうか。自分だけの判断で示談したとは到底考えられません。
報告書を一読してわかることは、人員不足や送迎の不十分という理由は、通常の知見をもっていれば誰でも導ける一般的な結論です。
今回はただの暴行事件にとどまるものではありません。一部メンバーとファンの私的領域における関係、運営と一部のファンの癒着疑惑、メンバー同士の関係、謝罪強要疑惑などの本質的な問題に踏み込んで検討しなければ、再発防止への期待は難しいでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。アイドルグループ『Revival:I(リバイバルアイ)』のプロデューサー。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/