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『大奥』には先進国における様々な課題が詰め込まれている? シリーズ人気の秘密を探る

2019年03月25日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 3月25日、フジテレビ開局60周年を記念して月曜夜8時から『大奥 最終章』が放送される。『大奥』とは江戸時代に実在した将軍の世継ぎを産む女性たちが住まう場所とその制度の総称だ。御台所(みだいどころ)いう正室を頂点に公家や大名の正室といった様々な立場の女性が集う女の園で、すごく簡単に言うとハーレムということになる。


 そのため、成人向け映画でも何度となく題材になっているが、同時に女だけで運営されている巨大な組織でもある。その中にはいくつものしきたりや上下関係があり、様々なドラマが生まれる。だからこそ繰り返し、映画やドラマの題材となってきたのだろう。


【写真】『大奥 最終章』で激突する木村文乃と鈴木保奈美


 今回の『大奥 最終章』は3時間スペシャルという力の入ったものだが、そもそものはじまりは2003年に放送されたテレビドラマ『大奥』で、当時は「スーパー時代劇シリーズ」と銘打っていた。物語の中心人物は、菅野美穂が演じる天璋院篤姫と浅野ゆう子が演じる大奥取締役の瀧山、そして語り部となる篤姫付小姓のまる(池脇千鶴)。将軍・徳川家定を北村一輝が演じ、他にも安達祐実や木村多江といった今でも活躍する俳優陣が出演している。当時はまだ、時代劇に出演する俳優と民放の連続ドラマに出演する俳優は棲み分けられていた。だから、菅野を筆頭とする『大奥』のキャスティングはとても新鮮だった。


 中でも、トレンディドラマ以降、民放ドラマを引っ張ってきた浅野が本作に出演していることの意味は大きいだろう。フジテレビがトレンディドラマ以降培ってきたドラマのノウハウが、時代劇に逆輸入されたことの象徴だと言える。現代的な連ドラに出演していた俳優が演じていることもあってか、大奥という江戸時代の特殊な環境が、とても身近なものに思えてくる。


 元々、大奥はNHKの大河ドラマにもなった春日局が作ったものだ。会社で働く(部署を取り仕切る)ベテラン女性を“お局さま”と呼ぶのは、この春日局から来ている。そう考えると、女性の職場で起きる様々な出来事は、どこかで江戸時代の『大奥』とつながっているのかもしれない。


 それがわかりやすく現れていたのが、2016年に二週連続で放送された沢尻エリカ主演の『大奥』(第一部「最凶の女」、第二部「悲劇の姉妹」)だ。当時の沢尻はアパレル業界を舞台にした『ファーストクラス』(フジテレビ系)シリーズで再ブレイクを果たした後で、女同士のマウンティングに翻弄される中、自分らしさを貫き勝ち上がっていく強い女を演じていた。そこでの沢尻のイメージは『大奥』にも反映されていた。


 フジテレビ版『大奥』は、幕末からはじまり、様々な時代の大奥で翻弄される女性たちを描いてきた。「大奥は女の牢獄でございます」という言葉に象徴されるように、様々な理由から大奥にやってきた女たちが、将軍の寵愛を受けるために、ライバルたちとしのぎを削る。そこには醜い嫉妬やイジメもあるのだが、やがて女同士だからこそ生まれる友情が芽生えていく。


 2016年度版の『大奥』では、沢尻と渡辺麻友が演じるヒロインの同性愛的な感情が描かれ注目されたが、そもそも2004年度版『大奥』の頃から、シスターフッド(女性同士の連帯)的な感触は見え隠れしていた。


 女たちの絆が、将軍との恋愛や、離れ離れになった幼馴染との『ロミオとジュリエット』的な悲恋よりも重要なものとして描かれる展開は今見ても斬新で、とても現代的だ。これはシリーズを通して参加している『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)などで知られる脚本家・浅野妙子のカラーなのかもしれない。


 それにしても、この“大奥”というモチーフは、物語の宝庫である。


 たとえば、2003年版『大奥』と、2008年に放送されて大ヒットした大河ドラマ『篤姫』(NHK)の時代背景と登場人物はほとんど同じだ。つまり『篤姫』もまた、大奥モノだったと言えるだろう。


 また、漫画家のよしながふみは、男性の出生率が低下した結果、女性中心社会となった架空の江戸時代(徳川家の将軍も全員女性)を舞台に男女逆転の『大奥』(白泉社)を手がけている。こちらは、TBSによって映画化、ドラマ化されており、今も続いているSF的アイデアの時代劇だ。


 SFと言えば、現在、世界中で話題となっている海外ドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』には、『大奥』と近いものを感じる。


 宗教テロによってアメリカに誕生したカルト国家で、子どもを産むための道具にされる女性たちの苦しみを描いた問題作だが、背景にあるのは、少子化による人口減少である。社会が子孫をどうやって残していくのか? その際に女性に対して非人道的な抑圧が降りかかるのではないか? という問題は先進国における大きな課題となりつつあるが、これはまさに『大奥』で描かれ続けてきたテーマである。


 テレビシリーズの『大奥』はこれで終了だが、大奥という舞台設定は、アイデアの宝庫であるため、今後も様々なフィクションの中で形を変えて生き続けるはずだ。


(成馬零一)