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“さなりくんに騙される”のも悪くない? 16歳ラップアーティストが見せた“これからの可能性”

2019年03月24日 21:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 さなりが、3月16日に東京・MAGNET by SHIBUYA109の屋上MAG’s PARKのイベントスペースにて招待制のフリーライブ『さなり フリーライブ~さなりくんには騙されない。~』を開催した。


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 さなりは、2017年1月に開催されたオーディション『OverFlow Project』でグランプリに輝いた、16歳のラップアーティスト。小学校時代よりオリジナル動画の投稿やラップミュージックに親しみ、現在までYouTubeを中心に楽曲リリースを行なっている。ラップはもちろん、自身でトラックメイクも手掛けるなど、同時代性を感じさせる存在だ。


 さなりの知名度を全国区に知らしめたのが、現在放送中の恋愛リアリティーショー『白雪とオオカミくんには騙されない♥』(AbemaTV)である。今回のライブタイトルも、同番組をオマージュしたもの。当日の参加者は3,000名を超える応募より選ばれた。そんなライブは、さなりが秘める“これからの可能性”を多大に期待させる内容だった。


 そのステージで特筆すべきは、さなりが一貫して“ポップネス”を放つ存在だったことだろう。1曲目「悪戯(prod.SKY-HI)」こそ、不穏なトラップビートの上で切れ味鋭い歌声を聴かせたが、続く「いつも通り」からは優しい声色でラップを披露した。なかでも「FREE STYLE」と「BLUE」は、フロアが特に好印象を示した楽曲。ダンサブルなトラックに対して、小節の区切りごとにきっちりとライムを落とすなど、小気味良いリズムでファンの肩を揺らしていく。最後には、最新シングル曲「Prince」を歌唱。その歌声に込められた“切ない王子様”としてのバイブスは、オートチューン越しにもはっきりと受け取ることができた。


 そんなさなりは、今回が4回目のステージだったとのこと。それにも関わらず、彼のステージでの佇まいには、ライブ慣れした感触さえ感じられた。また、そのスムースなフロウも音源さながら。そのすべての土台となる、ボーカリストとして重要な聴き取りやすい声量も確認できたところで、現時点で満点ともいえるパフォーマンスだったといえる。また、ライブ終盤には、6月5日に1stアルバム『SICKSTEEN』を発売することを発表。この作品をきっかけに、また新たなファンを呼び寄せるのはもちろん、ひょっとすると、ステージから見える光景も大きな変貌を遂げるのかもしれない。


 というのも、現在のさなりはファンとともに、ライブでの楽しみ方を探求するフェーズにあるのだと思われる。その理由は、当日のステージに向けられた無数のスマートフォンだ。ラップミュージックの現場では広く認められるカメラ撮影。この日の開演前にも、特にその制限はないことがアナウンスされていた。ライブ撮影は、世界各国のフェスでは参加者の権利とも認識される場合もあるほか、最終的な判断はアーティストの意向にも委ねられる。さなりは16歳であるため、彼の世代ならではの感性もそこには大きく反映されるはずだ。


 実際に、当日のさなりとDJの振る舞いからは、そのステージにまだ進化できる余地があることを感じられたとも記しておきたい。さなりは何よりもまず、自身の歌声を届けることに意識を向けていた印象だ。その背景には、彼の楽曲が広く認知される上で、まだ多くの余地を残していることがあるのだろう。現に、さなりのトラックリストはYouTubeを中心に開放されており、各種配信サイト等で聴けるものは今のところ限られている。


 だからこそ、6月のアルバム発売を経て、新たな楽曲がファンに広まることで、フロアからシンガロングが起こるなどの光景も、ひょっとすると目撃できるのかもしれない。もちろん、ライブの楽しみ方は十人十色。さなりが今後、どのようにライブ空間をアレンジして、集まったファンを楽しませてくれるのか。その可能性には大いに期待したい。


 さなりの音楽には、紛れもないポップネスが充満している。彼の作り出す幸せな空間は、今後ますます広がり続けることだろう。そのひと時を一緒に楽しめるならば、“さなりくんに騙される”のも悪くはないのかもしれない。(取材・文=青木皓太)